平野共余子

東京生まれ。1979年よりニューヨーク大学映画研究科に留学、88年博士号修得

平野共余子

東京生まれ。1979年よりニューヨーク大学映画研究科に留学、88年博士号修得

マガジン

  • 『アンコウになって、闇より帰還』平野共余子のNY映画通信

    平野共余子のNY映画通信 ※このコラムは、旧新宿書房のホームページに記載していた記事を、ホームページ終了を期にnoteに移行したものです。 (55)からはnote初出です。

最近の記事

(60) 第62回NY映画祭より

 秋の気配がNYに訪れると、今年もまたNY映画祭の季節である。第62回を迎えたNY映画祭は、NYで最大の映画のイヴェントで、世界中の話題作を一挙に集めて上映する。フルタイムで働いている時には忙しすぎてあまり参加できなかったが、1984年から取材している私にとっては今回が40周年である。 中東紛争の影響  本年はNY映画祭の試写開始前に開催に反対する「NYカウンター映画祭(反NY映画祭)」という団体から、NY映画祭をボイコットするように映画作家やジャーナリストによびかけられた

    • (59)全てのこちら側の孤立

       今年(2024年)も旧ユーゴスラヴィア(以下、ユーゴ)地区の映画を大学キャンパスで上映するシネマ・(ポスト)ユーゴの季節となった。今回は東京大学文学部の「旧ソ連と東ヨーロッパの文学と映画」の授業の一環として、セルビアのミラ・トゥライリッチ監督の『すべての向こう側(Draga Strana Svega The Other Side of Everything)』(2017年、セルビア・フランス・カタール製作、英語字幕付き)を上映した。  本監督の前作『シネマ・コミュニスト』(

      • (58) ルーマニアの女性映画人たち

         今年で18回目となるルーマニア映画祭(Making Waves)が、ニューヨーク市マンハッタンの3ヶ所の映画館で開催され、8本の旧作や新作が紹介された。ルーマニア映画ではないが国境を接するウクライナの作家ミハイル・コチュビンスキ原作、今年生誕100周年となるジョージア(グルージア)生まれのアルメニア人監督セルゲイ・パラジャノフが映画化した『忘れられた祖先の影』(1964)も上映された。 革命時の混乱 『自由(Libertate)』(2023、ルーマニア=ハンガリー合作)

        • (57) 新人とベテラン

          今年で53回目を迎える新人監督特集(New Directors/New Films)は、毎年春にニューヨークのリンカーン・センターと近代美術館(MoMA)共催で上映される。アメリカにとって馴染みのない新しい監督を紹介する本特集では、過去にスパイク・リー、ペドロ・アルモドヴァル、ジャ・ジャンクー、ウォン・カーウエイ、また日本からは森田芳光、原一男、高嶺剛、濱口竜介等が紹介されて来た。  本年度の上映作品の中から、普段あまり見る機会のない東欧からの作品を紹介したい。 裏道のヴォ

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        • 『アンコウになって、闇より帰還』平野共余子のNY映画通信
          59本

        記事

          (56)東京国際映画祭に見る世界、そして歴史

           日本や米国から遠く離れた地の人々の生活を垣間見ることが出来る映画を、東京国際映画祭で見ることが出来る。第36回を迎える本年も、数々の国の現在と過去の時代のイメージを享受することが出来た。 『マディーナ (Madina)』  煌びやかで派手な化粧と衣装をつけたダンサーたちの顔のクローズアップで始まる本作。ヒロイン、マディーナはナイト・クラブのダンサーかと思いきや、昼間はダンス教室や話し方教室の教師をし、幼い娘と老齢の母、失業中の弟を支えるシングル・マザーで、いくつもの仕事

          (56)東京国際映画祭に見る世界、そして歴史

          (55)NY(ニューヨーク)映画祭に見るさまざまな日常

           今年(2023年)で61回目を迎えるNYで最大の映画イヴェント、NY映画祭がリンカーン・センターで9月末から10月初旬にかけて開催された。2月のベルリン、5月のカンヌ、8月末からのヴェネツイア映画祭などで話題になった作品を初め、アメリカの新作やドキュメンタリー、実験的映画も紹介される多彩な内容である。  NY映画祭の魅力は日本でもあまり紹介されることのない世界各地からの映像が楽しめることである。そして鳴物入りの宣伝がされていたスター監督と俳優による作品に落胆することもあれば

          (55)NY(ニューヨーク)映画祭に見るさまざまな日常

          (54)クロアチア、そしてマケドニア

          [2023/7/22]  日が長くなって朝方も夕方も明るくなってくると、今年もシネマ・(ポスト)ユーゴの季節である。本年はクロアチア映画『クロアチア共和国憲法』を東京大学本郷キャンパス文学部の「旧ソ連・東欧の映像と文学」の授業の一環として、また北マケドニア映画『柳』を東洋英和女学院大学生涯学習センター25周年記念事業第一弾として上映した。 差別にどう向き会うか 『クロアチア共和国憲法(Ustav Republike Hrvatske/The Constitution)』

          (54)クロアチア、そしてマケドニア

          (53)新人監督週間 2023

          [2023/5/13]  毎年春、ニューヨークの二大映画上映団体、MoMA (近代美術館)とリンカーン・センターの共催する新人監督週間(New Directors/New Films)特集は、世界の新人監督を紹介するもので、今年(2023年)で52回目を迎える。この特集からスパイク・リー、ウォン・カーウァイ、ミヒャエル・ハネケ、ジャ・ジャンクー、ギレルモ・デル・トロ、森田芳光、濱口竜介などがデビューしている。今回は27の長編、11の短編、41名の監督が紹介された。  私は毎

          (53)新人監督週間 2023

          (52)ルーマニア映画祭で考える権力と個人

          [2023/4/29]  私が毎年楽しみにしているニューヨークのルーマニア映画祭(Making Waves: New Romanian Cinema NYC、詳細はこちら)は本年(2023年)17周年を迎えた。ここ数年、NY郊外の劇場とオンライン上映の組み合わせだったが、今回初めてマンハッタン南部の4つのアート系劇場を会場として、7本の新作とデジタル修復された古典作品『樫の木』(1992年、ルシアン·ピンティリエ監督)が上映された。その中から印象に残った3本を紹介したい。

          (52)ルーマニア映画祭で考える権力と個人

          (51)東京国際映画祭

          [2022/12/3] 本年(2022年)も、東京国際映画祭で世界各地からの映画を見ることが出来た。 人生のクリーム  処女作『ビフォア・ザ・レイン(Pred doždot/Before the Rain)』でベネツィア映画祭の最高賞、ゴールデン・ライオンを獲得し1994年鮮烈なデビューをした北マケドニア(当時はマケドニア)のミルチョ・マンチェフスキ。1959年北マケドニアの首都スコピエに生まれ、十代でアメリカに渡り大学で映画専攻の後、ミュージック・ビデオの世界では知ら

          (51)東京国際映画祭

          (50)トランシルヴァニア、ポーランド、スーダン

          [2022/11/5]  夏が終わりNY(ニューヨーク)の秋の風が心地よく感じられるようになると、今年(2022年)もNY映画祭の季節だ。今回60周年となる本映画祭。日本のテレビ局からの依頼で私が1983年に最初に取材してから、あっという間に39回目となった。私もフルタイムの仕事が忙しかった1980年代末から2000年半ばまでは、なかなか見に行けない年もあったが、時には休暇を取ってでも映画祭に行っていた。  NY映画祭は1990年代初頭までは20数本の作品数だったが、カンヌ

          (50)トランシルヴァニア、ポーランド、スーダン

          (49)クロアチア、1941年

          [2022/7/30]  今年もシネマ・(ポスト)ユーゴの季節となった。旧ユーゴスラヴィア地区の映画を東京の3、4の大学キャンパスで解説と討論付きで上映しているシネマ・(ポスト)ユーゴは、東京在住の旧ユーゴ出身者や日本人の研究者のグループにより、毎年6月に開催している。2020年からはコロナ禍で東京大学文学部の「旧ソ連・東欧の映像と文学」のコースに組み込んで頂くことで1本しか上映できていなかったが、本年もその形式で対面とオンラインの折衷形式で行なった。  2020年、202

          (49)クロアチア、1941年

          (48)ルーマニア映画のお家芸

          [2022/4/16]  ニューヨークで毎年開催されるルーマニア映画祭「Making Waves(波を作る)」(詳細はこちら)が、郊外のジェイコブ・バーンズ・フィルム・センターのオンライン上映プログラムとして本年(2022年)3月末に開催された。昨年(2021年)末、本会場で劇場上映された2本の劇映画を含む、9本の長編映画と9本の短編映画特集である。毎年たとえ1作品でも必ず観てきた私は、今回でもう16回目になったのかという感慨とともに、今回は全ての作品を見ることができたとい

          (48)ルーマニア映画のお家芸

          (47)私と岩波ホール

          [2022/1/28]  新年(2022年)になって程なく、衝撃的ニュースが入って来た。東京の本の町、神保町でミニ・シアターの先駆けとして親しまれてきた岩波ホールが、54年の歴史を閉じ本年7月末で閉館とある。世界65カ国、271本の映画を上映して来たが、コロナ禍で運営が困難になったそうだ。  私は学生時代から岩波ホールの映画上映を当たり前のように過ごしてきた半世紀だったので、岩波ホールのない生活が想像できない。世界各国からの新作や古典、また日本のドキュメンタリーやインデペン

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          (46)コソボ、韓国、カザフスタン

          [2021/11/27] 女性は闘う  第34回となる本年(2021年)の東京国際映画祭では、コソボのカルトリナ・クラスニチ監督の初長編作『ヴェラは海の夢を見る(Vera Dreams of the Sea/era Andrron Detin)』が、コンペティション部門のグランプリを受賞した。 孫もいる中年女性ヴェラがヒロインというのも、商業的にみれば勇気ある企画だと思う。本作は彼女が夫の死後、家族と家を守るために封建的な環境と腐敗に満ちた社会の中で孤軍奮闘する様を描く

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          (45)ルーマニア、ジョージア、そしてオセチア

          [2021/11/6]  昨年2020年はコロナ感染流行のためオンラインとドライブイン上映のみであった恒例のニューヨーク映画祭、59回目の今年(2021)は劇場上映に戻って安心した。世界から厳選された32作品が上映されたメイン部門のほか、話題作や実験映画、修復された古典上映部門もあり、数多くの映画を見ることができた。その中で印象に残ったのはメイン部門のルーマニア映画2本とジョージア、その隣国の北オセチアの映画であった。 イカれたポルノ  『アンラッキー・セックス、あるい

          (45)ルーマニア、ジョージア、そしてオセチア