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人事のプロが紐解く経営組織論⑦ 組織の階層化に関する考え方

1.私たちの働き方と在り方

この10年ほど働き方改革が叫ばれるなか、少子高齢化に相まっていっこうに進んでこなかった各種政策が、昨年からのコロナ禍によって一気に加速することとなりました(笑)。
これまではいったい何だったのか、と思いますが、それくらい命に関わらないと優先順位が上がらないのが、「従業員の在り方・働き方」といえるでしょう。

働き方が柔軟になってきたことはもちろんのことですが、働くということの「在り方」は、時代の推移ごとでざっくり考えると、バブルまでが「正社員の総合職と一般職」、その後の氷河期からリーマンショックまでの働き方が「正規雇用と非正規雇用」、それ以降の10年が「企業勤めとフリーエージェント」という流れになろうかと思います。

皆さんも若い世代の方々の価値観が非常に多様化していることをご存じでしょうが、彼らの動きを見ていると、より強い企業勤め志向、早期に自己実現を目指す起業独立志向、自由を求めるフリーエージェント志向がそれぞれに強くなっていっています。

また、企業勤めする人も全般にスペシャリスト傾向が強くなってきており、その度合いが非常に有能な人から全ての動作を指示しなければならない人まで実に幅広くなっています。

異なる世代の人たちが働く会社の中にあっては、日頃使っている言葉の意味がそれぞれに違うので、明確に「定義」していかないと仕事が成立しなくなってきています。面倒かもしれませんが、これは誰が悪いということではなく、時代の変化と共に対応しなければならないことの一つといえます。

たとえば、「仕事をする」という言葉一つを取っても、管理職層以上は「プロとして付加価値を提供する」意味合いで使うと思いますが、スタッフ層は「言われたことをする」意味合いで使うことが多いでしょう。よって、「当社では、仕事をするということは…」と定義を明確にして、その意味を仕事を通じて理解させ続けていく必要があります。

人そのものが多様化しているので、会社の中の階層や職制もある程度多様化していくのが望ましいといえます。従来は、地位だけを表すことの多かった階層が、近年では職制や職種、勤務条件などの考え方が加わって複雑化してきているからです。

いわゆるひと昔前のような「上のポストを目指す生き方」はもはや選択する人が少なく、「他でも通用する専門性を高める生き方」「仕事のやりがいを大切にする生き方」「生活のために腰かけで働く生き方」などがこの階層化や職制に反映される必要があります。


2.雇用区分と考え方

まず、雇用区分ですが、これは正社員やパート・アルバイトといった雇用の区分です。
通常は、定年まで働くことを想定した無期の正社員、定年再雇用や無期に至る経過措置としての有期の契約社員、パート・アルバイト、派遣社員といった形態です。

これに加えて、今後上手く活用したほうが良いと思われるのが、特定資格や免許、スキルを持った人たちを出向役員・出向社員として迎えるような形態です。こうした方は複数社で契約を行い、時間を按分して一定の役割・責任範囲の中で仕事をしていきます。コンサルタントにスポットで高い金額を払うくらいなら、長い期間関わってもらって仕組みや組織を作るほうが良いというケースがあります。

また、最近になって結構聞くようになったのが、「正社員という働き方が重い」という話です。本人は実力もあってしっかり働くし、場合によっては正社員よりも気が利くのに「非正規のほうが良い」と言うのです。これには大きく2つあります。

一つは、正社員になると途端に提案や企画を求められたり、部署の取りまとめで複数の部下をつけられるなど、本人が描いているより負担が大きくなるからです。そしてもう一つは、会社に縛られる(契約的に、かつ精神的に)のが嫌だからです。こうした方の多くは、兼業や副業を自分のペースで自由に行いたいという方も含まれています。

そこで、契約社員やパート・アルバイトでも実力のある人であれば社員と同じように評価を行い、時給テーブルを作成して給与設定が社員並みに上がるようにしていくと良いです。または、業務範囲や責任を明確に切り分けられるのであれば、個人事業主として会社と契約するという方法もあります。

ある意味、こうした方のほうが変なぶら下がり社員よりもよほどプロ意識を持って働いてくれるケースがあり、お客様のためにも大変役に立ってくれます(=会社の業績や信用につながる)。


3.階層の基本形態と考え方

次に、階層化の基本的な考え方についてですが、以下のように5つに分けられます。

①経営幹部層(エグゼクティブ)
②管理職層(マネジメントスペシャリスト)
③専門職層(タレントスペシャリスト)
④監督職層(リーダー)
⑤一般職層(ワーカー)

小売業界であれば一般職層(ワーカー)が全体の大部分を占めるでしょうし、IT・システム業界であれば専門職層(タレントスペシャリスト)が大部分を占めるでしょう。

実務的には、上記をそのまま5階層とすることもあれば、管理職層と専門職層を並列にして役職で区分し4階層とすることもあります。また、組織規模が小さければ、経営幹部層、管理職層、一般職層の3階層で済ませて肩書だけを別途つけることもあります。

それでは、以下にその定義を見て行きましょう。

①経営幹部層(エグゼクティブ)
経営トップとして社長を始め、取締役や執行役員、本部長といった肩書を持つ階層です。
経営責任の全体もしくは一部門を負うことにより、それに見合った報酬や権限を与えられています。労働者-使用者でいうところの使用者にあたります。

②管理職層(マネジメントスペシャリスト)
経営幹部層から方針や計画を提示してもらった上で、担当部門の目標を達成するべく、一定の権限を持って部署マネジメントをする階層です。多くは部長や課長、室長のような肩書を持ちます。部署が目標達成をすることが役割となるので、必ずしもプレイヤーである必要はありません。多くは使用者と一体と見なされ、連結ピンの機能を果たす立場にあります。

ただ、近年は業務量の増加と人手不足に伴い、管理職層の専門職層化が激しくなって管理職として動くことができない方が激増しています。会社と本人、部下のことを考えると「専門職層への転換」が望ましいと思えるケースが多々あります。また、これは本人のキャリア志向と能力に依拠するので、研修したからといってすぐにできるようなものでもありません(とはいえ、刺激しないと芽も出ませんが)。

③専門職層(タレントスペシャリスト)
経営幹部層や管理職層から方針や計画を提示してもらった上で、担当範囲の目標を達成するべく、高度なスキルや知識を活用して部署や会社に貢献する階層です。
通称となる肩書は持たない方もいますが、自ずとエキスパート、スペシャリスト、プロフェッショナル、シニア○○、担当○○等が多くなります。経営幹部層や管理職層のような決定権限は持たず、それらの上位階層と協調しながら目標達成のために業務を遂行します。

差し当たっては、管理職に向かず本人も管理意向がない場合には、専門職層の給与テーブルと評価制度を設け、こちらに移行してもらうのも一つでしょう。

④監督職層(リーダー)
管理職層から方針や計画、目標の共有をされた上で、指示を受けて一定の範囲もしくは単位の業務を遂行したり、部下や後輩を育成することで会社に貢献する階層です。
管理職層のような大きな成果責任は負いませんが、部署目標をブレイクダウンした個人別目標またはチーム別目標を持つことが多いといえます。肩書は、リーダーやディレクター、スーパーバイザー、係長、班長、職長といった名称となります。

この方々は未来の管理職層でもあるので、単にプレイヤーとして使い続けて成り行き上、専門職層にしていくのではなく、経営幹部層がしっかり指導していくことで管理職に引き上げていくようにすることが組織拡大の要となるでしょう。

⑤一般職層(ワーカー)
管理職層や監督職層から指示を受けて、一定範囲もしくは単位の業務を遂行し、会社に貢献する階層です。上位層のような成果責任を負うことはなく、多くは定型的業務をいかに効率よく正確に、丁寧に行えるかということが求められます。
肩書は特にありませんが、正社員として比較的責任を負う方から契約社員やアルバイトなど責任の軽い方まで幅広い扱いとなるでしょう。

この責任の負い方についてですが、「正社員の責任」というのがぼんやりしており、若年層からすると「非常に不透明でわかりづらい」ものとなっています。できれば、業務分掌やタイムスケジュールなどで「いつ、何をするのか」「どんな成果を上げる必要があるか」「できた場合(又はできない場合)どうなるか」を明確にすることが大切です(そこが人事評価制度となります)。


上記の階層については、人数が増えることにより、さらに等級(階級、グレード等)に分けて表現する場合もあります。
例えば、1等級を一般(一般職層)、2等級を主任(一般職層)、3等級を係長(監督職層)、4等級を課長もしくは担当課長(監督職層・専門職層)、5等級を部長もしくは担当部長(管理職層・専門職層)、6等級を本部長(管理職層)といったイメージです。
大企業になると、これが9~13程度の階層を持ちますが、増やし過ぎてもどのような違いがあるのかを従業員に説明できない(また従業員も理解できない)ので、社員数が500人を超えるまでは7等級程度までに収めるのが得策といえるでしょう。この、等級階層が多い組織をトール型組織、逆に階層が少ない組織をフラット型組織と呼ぶことがあります。

設定そのものは誰にでもできる階層区分ですが、実際に運用するとなると、人には得意不得意があるので難しくなってきます。あまり良くないのは、全くできないのにそのポジションに据え続ける、というものです。
「一度ポジションを落とすと本人が傷つくのではないか?」「社員からすると、ポジションが下がるならなりたがらないのではないか?」と心配する経営者もいますが、全うできずボコボコにされ続ける本人も可哀そうですし、全くできない上司に振り回される部下も可哀そうです。また、従業員は案外ドライですので、ポジションが落ちても「あぁ、やっぱりね」程度で終わります。何より、全く機能しない人を当該ポジションに据え続けることで会社の業績が芳しくない状態になるのは避けたいところです。

こうした制度の運用が適切にできるかどうか、はひとえに経営幹部層の判断次第となります(ちなみに「判断しない」ということも判断です)。ですから、方針や価値観に沿った経営はとても大切なのです。


4.職群・職制と考え方

さて、上記の階層を「職群・職制」に分ける場合もあります。職群とは、平たくいえばコースのことで、幹部コースやスペシャリストコースに分けたようなものといえます。企業によっては、入社後数年間を養成期間として本人の能力や適性を判断して職群に振り分けることもあります。

①総合職
総合職とは、ジョブローテーション(配置転換)を繰り返しながら、全体最適の視点や総合的な思考力、組織マネジメントスキルを身につけて将来の幹部候補(管理職層や経営幹部層)になることを狙ったコースのことです。

②専門職
専門職は、特定分野の企画力や技術力を提供するスペシャリストとして、一定範囲内のジョブローテーションにより専門的な知識やスキル、キャリアを身につけ、新たな商品やサービスを生み出すコースのことです。

③一般職
一般職は、効率性や正確性を追求しながら定型的業務や補助的業務を担当し、円滑な事業運営に資することで会社に貢献するコースのことです。


一般的には、これらの職群ごとに給与レンジを定めており、一般職よりも専門職のほうが、専門職よりも総合職のほうが、相対的に高い給与レンジを設定されています。こうしたコースごとに給与レンジを設定することにより、会社全体の人件費を一定にコントロールすることが可能となります。

また、コースごとに等級や階層を分けることがあります。一般職1等級~一般職5等級、総合職1~総合職7等級のようなイメージです。最近では、漢字が古めかしいということで、横文字を使うことも増えています。コースごとに等級や階層が分かれている場合は、従業員の成長やライフスタイル、キャリアに併せて職群を変更(移行)することができるようにしておきます。その際、何をどうしたらコースが変更できるのか、また等級が上がるのか(下がるのか)をしっかり理解させることが重要になります。

階層区分でも職群でも同じことですが、仕組み上は役割や業務の違い、責任の違いをハッキリと分けておくことが大切です。
たとえば、運用上においても総合職のほうが一般職よりも仕事ができない、といったことがあります。その場合はできる一般職を総合職に移行させる、または総合職を一般職に移行させる、といった措置を取って適性に合った仕事に就いてもらいます。
または、評価上救いようがなくどうしても厳しいようであれば、正社員から契約社員またはパート・アルバイトに転換していただく、ということもアリといえます(そうするにはそれなりの明確な評価結果と説明責任が必要となりますが、今の時代はドライなので受入れられやすくもあります)。


他には、地域限定や全国転勤などの勤務地で職制を分けるケースもあります。共働き世帯が増え、個々人の働く目的も多様化しているために、階層や職群のみならず勤務地や勤務条件を細かく変更できる企業のほうが、定着率が高くなっています。昔ながらの全員が管理職を目指す階層設計では(実際にポストもありませんが)、従業員のニーズに対応できない時代になったといえます。

5.どのように設定していくか?

上記に述べたことは、どれも「こうした選択肢(オプション)がある」ということであり、労働法に抵触しない限りは、経営者の考えによって自由に決められる性質のものです。(ここで労働法を出しましたが、別に恐れる必要はありません。会社は業績を維持向上させていかなければ生き残ることはできませんから、会社が求める働きをしないのに不当な要求ばかりする人間には、それ相応の評価を下して処遇すれば良いだけです。)

これまでに述べた階層化については、管理職層と監督職層の管理スパンがどのくらいの規模かをしっかりと検討したうえで組織設計をする必要があります。上司一人が直接的に見る部下人数としては、8名以下が望ましいですが、多くても15名程度にしておきます。

それ以上となると、目標達成と組織維持に必要となる十分なコミュニケーションが取れなくなり、手薄なところが出てきて目標達成を損なうか、トラブルが発生することになるからです。
コンビニエンスストアなどの小売店、居酒屋やカフェなどの飲食店を展開する企業では、自ずと20名以下になると思われますが、スーパーや家電量販店などの大型店を展開する企業では、部門や役割、階層をしっかりと分けて統括管理する必要があります。

また、組織によっては部署の責任者を経営幹部や管理職が兼務することがあります。この兼務する数が増加すると上記と同じ結果となりますので、兼務しなければならないのであれば、いたずらに部署数を増やさない方が賢明であるといえます。

例えば、管理者が一人であるならば人事課、総務課、経理課、経営企画課と分けて全てを兼務するのではなく、一括りの「管理部」として管理者がその長になる、という具合です。兼務すると、人事課と経理課とで相反する考え方が出たときに(兼務していることから)自己矛盾となり、部下に説明しづらい場面が出てくることになります。また、ライン組織の従業員からすると、人事課の管理者として扱うべきなのか、経理課の管理者として扱うべきなのか判別できず混乱をきたすことになりかねません。

当然、企業全体としての目的実現や目標達成が一番の関心事であり、目標達成に資する組織であることが重要なのですが、上記のようなことを踏まえたうえで組織図を設計することが必要となります。こうした組織設計については、また改めて述べて行きたいと思います。

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