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#6「在りたい自分と、社会をつなぎ、創ってゆく。」服部さんの「はたらく」ができるまで。


はじめに

今回の「あの人の“はたらく”ができるまで」は、服部秀子さん。

いつもなら、その人オリジナルの「はたらく」が形づくられるまでの「詳細な流れ」も書かせて頂くことが多いのだが、今回は、それは書かないでおこうと思う。

なぜなら、服部さんご自身が書き綴ったnote、著書があるから。

私が言葉にすればするほど、服部さんの「言葉」がもつ「温度」と離れていってしまうような気がして、今回はそのアプローチをとらないことにした。

その代わり、ぜひ、服部さんのnote、著書を読んでみてほしい。


彼女が、体験し、感じ、考え、行動し、葛藤し、手放し、いかにそれらを通り抜けてきたのか。現在の取組みが生まれた経緯が、素晴らしく言語化されている。

ぜひとも、彼女の言葉、写真、行間等から、それらを感じてほしい。

お話を聞かせて頂いた中で、服部さんの「はたらく」を紐解く要素は3つ。
「手放す」「一致」「Authenticity(オーセンティシティ=本物性)」だ。
私は、この3つがキーワードだと感じた。

「Authenticity(オーセンティシティ=本物性)」とは、服部さんが長年携わってきたイエナプラン教育で用いられる言葉だ。

その言葉の意味を、服部さんの著書から引用させて頂こう。

【Authenticity(オーセンティシティ=本物性)】 
       
1つは、教材の本物性。 
イエナプラン教育では、本物から学ぶことに重きをおく。               
例えば、鳥について学ぼうとする時、鳥の絵を使うのか。それとも、鳥の写真を使うのか。もしくは、本物の鳥を使うのか。いろんな方法があるが、イエナプラン教育では、本物の鳥を扱うことを強く推奨している。                          
…                                        
もう1つは、教師の本物性。
私個人の発言と、教師としての発言が一致していること。言葉にすると簡単だけれども、これを今の教育現場ですることはとても難しい。教育現場に限らず、大人が社会で生きていく中で、組織に入れば、不可能に近いことかもしれない。

…                                       
たくさんのズレをもった大人が子どものすぐ近くにいて、どんな良い影響があるのだろうか。本物の自分として、本物の人間として、子どもの前にたつこと。それをイエナプラン教育は大切にしている。

先に挙げたキーワード以外に、服部さんの「はたらく」の在り方も興味深い。
・塾の運営を主な収入源としていない点
・主な収入を得る手段として「フリーランスのWebディレクター」を位置させている点

それらが、良い塩梅で重なっている。

「働き方」「教師のキャリアチェンジ」「ライフワークとライスワーク」など。

そのような切り口でも、いくらでも語れそうな服部さんの「はたらく」。
そのような服部さんの「はたらく」は、どのようにして創られてきたのだろうか。お話をうかがった。


【プロフィール】
服部秀子さん
17歳で母になり、民間企業に勤めながら通信制大学で教員免許を取得。27歳から小学校教諭として教育現場へ。しかし、次第に日本の教育に違和感を抱くようになる。そこから海外の教育法を学び始め、教育先進国と呼ばれるオランダに3度渡り、イエナプラン教育専門職員の資格を取得。
帰国後、「子どもが幸せに生きる社会には、幸せに生きる大人がいる」と感じ、オンラインコミュニティ「教室のえんがわ」をオープン。オンラインで20回以上開催し、リアル開催を望む声が広がり全国8箇所でも開催。
その後、日本発のイエナプランスクール大日向小学校に勤務し、退職。現在は、私塾「そらとくらす」を運営。自己選択、自己決定など、学びのプロセスを大切にした学習観を社会に広げる活動をしている。また、フリーランスでWEBディレクター業務も行っている。


「教師として学校現場にいた経験と、そこから離れた世界で生きる経験。塾運営とweb仕事。」


―本日はよろしくお願いします!
 
服部さん よろしくお願いします。

―最初にお聞きしたいのですが、現在は「塾の運営」「webのお仕事」、両方を行っている、そのような認識で合っていますか?

服部さん そうですね。塾は「そらとくらす」という私塾を運営しています。そして、Webはフリーランスとして、ディレクション業務を受託しています。

―ありがとうございます。塾やwebのお仕事を始める前、服部さんは、大日向小学校(日本初のイエナプランスクール※)の教員として働かれていましたよね。教員を退職後、web関連の仕事を始めるまでの経緯としては、どのような流れだったのでしょうか?

服部さん 教員をやめて、「1年間は働かない」と決めていました。そして、その間に「やりたいことがあるなら別で稼ごう」という思いに至り、たまたまwebのお仕事とご縁があって、という流れですね。

―そういう流れなのですね。Web関連のお仕事に興味をもったキッカケは、何でしょうか?

服部さん 1番最初のきっかけは、友人がweb関連の仕事をやっていたことです。話を聞いてみて、興味をもち、独学で勉強し、学校へ通い、身近な人に声を掛け受注していました。といっても簡単なサイト制作等を数万円で請け負う、といった具合です。

―実際に受注して制作していたのですね。すごいです。そのまま続けようとは思わなかったんですか?

服部さん そうですね。そのままクライアントワークを行うのは、ちょっと違うなと思いました。「人と関わること」が好きだし、そういう意味からも結局、「制作」ではなく「webディレクション」という業務に落ち着きました。

―そうなんですね。「本当にやりたいことはそっちじゃない」という思いもあったんでしょうか?

服部さん ええ。やりたいことは「教育」だったので。

―「できること・得意なこと」と「やりたいこと」って別なケースも多いと思います。服部さんのnoteを拝見しましたが、「教育」という軸を、ずっとブレずにお持ちですよね。

服部さん ええ。でも、webの仕事もやってみると、「教員と似ている」と思いました。全体を見て、動かして、スケジュール管理して、あっちの要望を聞き、こっちの要望を聞き、みたいな。でも、塾運営と両立したかったので、そのように働ける場所を探しました。そしたらちょうど紹介してくれた人がいて。現在のwebのお仕事は、その時のご縁から続いています。

―そうなのですね。「教員」から「web関連の仕事」へ。全く異なる仕事への移り変わりは、そのようにして生まれたのですね。

 

※【イエナプラン教育】    
ドイツで生まれ、オランダで発展。    
自分で計画を立て学習を進めることで「自立」を学び、他者との違いを生かしながら、協働的に活動をすることで「共生」を学ぶ教育法。 
学級は、3学年混合の学級編成を採用しており、対話をベースに教育活動が進んでいく。
オランダは、子どもの幸福度が高いことで注目を集めており、イエナプランは、一部のメディアから”日本の3周先をいく教育”と呼ばれていた。


              

「ライフワーク(塾運営) 」と「ライスワーク(web仕事) 」を重ねる。


―服部さんのnoteを拝見しますと、葛藤していた時期もあったかと思うのですが、今、ものすごくスッキリしてるように見えます(笑)現在はスッキリしていますか?

服部さん スッキリしていますね(笑)

―それは「やりたいことが明確になったから」でしょうか?

服部さん 「やりたいことがやれるようになったから」ですね。

―転換点があるとすれば、教員を退職されたタイミング。つまり、1年間休んで、考えて、感じて、内面的変化があって。そこから続く流れでしょうか?

服部さん そうですね。

―なるほど。今の活動のお1つ、塾「そらとくらす」の構想が出てきたのは、その頃でしょうか?

服部さん はい。1年間「本当に“教育”に携わり続けたいのか?」を問い続けました。そして、結論としては、「やはり携わりたい」と思いました。また、「フリーランスとして教育関係で何が行えるか」を考えた時、「塾」が最適だったとも言えるかもしれません。

―塾は、確か最初の数回はオンライン開催でしたよね?

服部さん そうですね。最初は、オンラインスクールとして「そらとくらす」を立ち上げました。この時、とても自然な流れで立ち上げている自分がいました。

―実際やってみていかがでしたか?

服部さん オンライン、かつ、無償でやりましたが、とても楽しくて。それで気付きました。「やっぱりやりたいんだな」って。そこから、徐々に構想が深くなっていったと思います。

―現在はオンラインでなく、実際に場所を借りて運営されていますよね。

服部さん ええ。そうですね。

―服部さんを見ていると、本当にやりたいこと(教育・塾)、その原資となる手段(web)、これらがちょうどイイ具合にバランスしているように見えるのですが、ご本人的にも良い塩梅なのでしょうか?

服部さん そうですね。

―「はたらくこと」のバランス感って、「どんな状態が心地よいか」は人それぞれだと思いますが、服部さんの場合、自分の中の「ちょうど良いバランス(web業務は原則週3日程度、塾はその時の受け入れ状況に合わせて柔軟に)」を知っていて、それをきちんと、社会と接続している印象を受けます。その点、とても参考になる視点だと思いました。

服部さん ありがとうございます。

―ある程度の「働く」量的経験をなさって、その後に減らしていく。手放していく。そういう順番だから、できているのかもしれませんね。


子どもって大人よりも「人間のまんま」。だから、その人たちと一緒にいるのがすごくたのしい。


―相対的にみて、服部さんは「教育」に興味関心が強いと思います。熱量を注げる対象として、「教育」が位置する理由は何かありますか?

服部さん 「教育」に興味関心が強い理由は、言語化できています。それは、「人はどういう存在なのか」「人はどうすれば幸せに生きられるか」。そうやって、「人」という存在を考え続けられるからです。だから好きなんです。それに、子どもって大人よりも「人間のまんま」じゃないですか(笑)?だから、その人たちと一緒にいるのがすごくたのしい。

―なるほど(笑)!確かに、子どもって何色にも染まっていないことが多いですもんね。とっても素敵な状態を保っている存在だと感じます。

服部さん そうそう。だから、そのまま行けー!って思う(笑)

―そうだそうだ!(笑)行け行けー!!(笑) 服部さんがnoteに書かれていた「子どもが幸せな国は大人が幸せに生きている」という言葉。これ、とても考えさせられる言葉でした。「幸せに生きる」。それを考え続けられるから、「教育」に関心が強いのですね。

服部さん そうですね。
 
―服部さんと接していると、とても「自然体」に見えます。noteに書かれていた頃、特に行動し、考え、葛藤していた頃の「働く」と、今の「はたらく」は、エネルギー源が異なるように思えるのですが、いかがでしょうか?

服部さん そうですね、どうでしょう。

―noteに「行動することだけが取り柄で“動く”ことだけでしか道をつくったことがなかった」とか、「自分以外の何かを変えようとするから何も変わらない」と書かれていました。私には、ある時点から、意識のベクトルが外側から内側に切り替わった印象を受けた境があったのですが、切り替わっている実感はありますか?

服部さん そういう意味では、確かに、「行動」してきました。でも、「これずっと続けるの?」と思うタイミングがありました。その頃に比べると、今は自分の感覚だけを頼りに生きていて、「やりたい!」と思ったことだけをやる。そのような感覚ですね。外側から見れば同じ「行動」ですよね。つまり、「行動している」ようには見えると思うんですが、確かに以前とは違います。内面では、両者では性質が異なります。だから、良い意味で、今はとても「楽」です。

―なるほどですね。なんだか分かるなぁ、その感じ。だからとっても自然体で、服部さんらしく、「一致」している印象を受けるのかもしれませんね。

服部さん そうかもしれませんね。

―ちなみに、塾「そらとくらす」は、「自ら学ぶ為の学習法に特化した伴走型の学びの場」として、子ども一人一人の特性に応じた「個別最適学習」と、イエナプラン教育のブロックアワーを参考にした「自立学習」を取り入れている、と理解していますが合っていますか?

服部さん はい。

―その具体例として、「教材選び」や「授業定期テスト対策」、「動画」や「アプリ」を使った学び、「地域探索」に「プログラミング」、「神山まるごと高専の入試対策」の他、「出版の伴走」など。かなり多岐に渡りますが、「本人がやりたいと思えば、なんでもやっちゃう!」というスタンスでしょうか?

服部さん そうですね(笑)私で手に負えないことは、私の周りにいる信頼できる大人たちに声を掛けることもありますね。そうすると、そっちに行っちゃうから塾を辞めてく場合もありますが(笑)まぁそれはそれでいいかと。

―「塾の運営を主な収入源としない」と決めているからこそできるんでしょうね(笑)生徒さん1人1人で異なる、最適解を、広い視野で伴走しながら一緒に考える、と。

服部さん そうですね。現時点では「塾の運営を主な収入源としない」と決めています。主たる収入はweb業務で得ておく。それを目指していました。それに、公立学校という無料のサービスがありますから、1つの見方として「教育はお金にならない」という側面もあります。特に自分にビジョンがあればあるほど、です。

―なるほど。そこに「お金」が入ってくると、「塾をうまく運営すること」というベクトルに労力を割くことにも繋がりそうですもんね。

服部さん そうそう。だから、どうやったって広がらないビジネスモデルですよね(笑)でも、それでいい。

―だからこそ、服部さんのこれまでの「1人の生身の人間」としての経験が活きそうですね。「ライフワーク」に近いですか?

服部さん 塾はそうですね。かと言って、Web業務も楽しいです。良い人たちに恵まれていて、正解がはっきりしていて、教育とは全然違う世界だけど、楽しいです。

―そう考えると、「教育」と「web」は真逆な印象を受けますね。だからバランスが良いのかもしれないですね。

服部さん そうかもしれないですね。

―なるほどです。服部さんの現在の取組み内容、そこに至るほんのわずかな過程。それらを垣間見ることができました。本日はありがとうございました!!!



<編集後記>

彼女のnoteに、こんな1文が出てくる。

1人のライフストーリーが誰かの思考を刺激した。

私も間違いなく、彼女のライフストーリーに、思考を刺激された一人だろう。

そのくらい、彼女の言葉には力がある。

彼女のnoteに書いてあるもののうち、私が好きな1文が他にもある。実際にイエナプラン教育を学ぶ為、彼女がオランダ視察へ行った際のことだ。

最も尊敬するイエナプランの先生。ヒュバート。
                 
彼にこんな質問をしたことがある。   

“あなたにとってのイエナプランって何ですか?” 

彼は即答した。             

“家にいるような感じだよ” 

1つの考え方として、ある特定の教育法のみに重きを置くことに違和感がある、という視点もあるだろう。

教育に限らず、「特定の何か」で切り分ける、線を引く。その行為、思考自体が、世界を、人間を、そのまま理解することにはつながらない可能性があるからだ。
 
オルタナティブ教育と言えば、イエナプラン教育以外にも、サドベリー教育、モンテッソーリ教育、ダルトン教育などが挙げられる。日本で普及しているもの、ある特定分野(幼児教育等)で聞くものもある。

彼女のnote、著書を読むと分かるが、彼女は、ある時点までは、イエナプラン教育を「世界中の子どもたちが幸せに生きるための手段」と考えていた。

しかし、オランダ視察の過程で「イエナプラン教育は何も特別じゃない」ことを理解する。

そのことは、次のように彼女のnoteにもしっかりと綴られている。

家にいるときはリラックスしていて、  
ヒュバートにとっての         
イエナプランはそれと同じってこと。 
                      
自分で選び、決めることも       

誰かとともに、生きることも      

学びと暮らしを、つなげることも     

人が生きる上で、自然なこと。      

人が人らしく育つために、イエナプランは何も特別じゃない。
     

彼女は、尊敬する師の言葉をしっかりと受け止め、咀嚼した。

ここが彼女のすごいところだと思う。
人は、誰でも少なからず、思い込みを抱いて生きている。しかも、自分が肯定しやすい方向で、意味を付けたがるだろう。

この時、彼女が「いや、あくまでもイエナプランは、子どもたちが幸せに生きるための手段であるはずだ」と解釈し、手段に拘る意思決定をしていたら、現在の取組み(塾)の質感も異なるものになっていたかもしれない。

しかし、そうではなく、特定の「手段」については、それはそれとして扱い、包含しつつも、「自主性」「在り方」「状態」に重きを置いた「伴走者」として接することにした。

これは、イエナプラン教育の強み、弱みを十分に“体感した”彼女だからこそできる、接し方であり、彼女にしかできない「塾」の在り方、社会との接続方法だろう。もはやそこに「差別化」などという概念は存在し得ないようにすら思える。

私が子どもたちに望んでいることは    
                     
“自分が心地よいと思う人生を、      
自ら選び、つくり、生きていってほしい“ 
                     
ということ。
 

                                   

無垢な子どもの描く「絵」は、自由で伸び伸びしていて素敵だ。

だが、そこから多様な経験を経て、力強く「いきる」ということに向き合い、1周まわってから、「子どものように」描ける「絵」もあると思う。
 
その「絵」には、深み、広さ、強さ、優しさなど。あらゆるものに寄り添える、何かがあると思う。
 
私は、彼女にはそのような「何か」を感じた。
 
そして、そのような「人間」と接する子どもは、自然と、「いきる力」を学ぶだろう。
 
 


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