映画『LOVE!TAMAGAWA!』脚本【VOL.1】
○ アパート 203号室 (朝)
スマホに森高千里の曲「私がオバさんになっても」が流れている。化粧台に座ってシンプルなメイクをしている。メイクをしている間に電子レンジの音が鳴り出す。丁寧に温めたサンドイッチを取り出してテーブルに置く。コップに牛乳を入れて、サンドイッチを食べる。食べ終わったらささっとテーブルを片付ける。また化粧台に戻ってメイクを続ける。時計に目を向ける。その女、大岡瞬(27)
瞬「やばい!早くしないと!(ヘアアイロンから手を離す。櫛を取って速やかに髪の毛をとかす)良し!」
着替えてから、スマホの音楽を止めて出かけようとする。何歩か歩き出したら引き返してくる。ベランダに入ってお花などに水やりする。それからまた出かけて鍵をかける。
○階段
少し狭めの階段。瞬はデカい段ボールを抱える人を通すために体を端に寄せる。カジュアルウエアにハンチング、ツバで覆われて顔の半分が見えない工藤寛人(32)。
瞬(軽く)「おはようございます」
寛人「……」
もう少し階段を降りたら黒い財布が落ちているのに気づく瞬。財布を拾い上げる。LOEWEの財布で文字入れがついている。
瞬「クドウヒロト……あの…財布、落ちましたよ」
足が止まる寛人。
瞬は財布を持ってトントンと階段を上って寛人のところまで。
瞬「お財布ですよね」
寛人「……」
どうも受け取る余裕がなさそうなので、瞬は財布を寛人の上着のポケットに入れてあげる。
寛人(小さな声で)「ありがとうございます」
瞬は頷いて階段を降りる。
○学校正門の近く
歩いてくる瞬。生徒たちに挨拶されて、いちいち頷いて返す。
○教員事務室
瞬は自分の机に座る。時間割を確認してから、目の前にある宿題添削を始める。
教頭が瞬のところへやってくる。
教頭「大岡先生」
瞬「はい!」
教頭「優さんはお子さんが病気のため、少し休みを取ったんでね、これから何日間の授業と、あと担任の仕事も、大岡先生にやってもらえないかな、頼む」
瞬「はい!承知しました!」
教頭「三歳の子どもって、病気がちな時期なんです。優さんは大変ですよ、一緒に組んだ以上、なるべく手を貸してあげるようにしてください。女性教師なら、みんなこういう時期が来るでしょうから、今は誰かを助けてあげたら、後日助けてもらることにもなる。ねえ?」
瞬「はい!教頭先生のおっしゃるとおりです」
教頭は瞬の肩を軽く叩いて離れる。
瞬は本などを片付けて授業の準備をす る。スマホを手に取って親友の蛍にメッセージを送る。
瞬「こんばんの約束を無しに。朝シャイボーイを手伝ったから、今日は恵まれるほうじゃなくても、せめて厄介なことが起こらないだろうと思ったのにな」可愛いお詫びのスタンプを送る。
蛍「また仕事か」慰めるスタンプ。
○6年B組教室
授業のベルが鳴る
瞬「皆さんにお知らせがあります。前田先生は私用でしばらくお休みになりました。前田先生担当の数学の授業は当面国語に変更することになっています。そして、担任も…」
ざわつく学生。「ええ?今年の何回目?」「3回目か?4回目?もうはっきり覚えてない」「へえ、こんなに国語の授業ゴメンよ」「大岡先生かわいそう」……
瞬(咳払い)「では、授業を始めましょう!皆さん、テキストを34ページに開いてください」
学生「は〜い」
○アパート 204号室(夕)
大きさそれぞれの段ボールが山積み。寛人は一つずつ開けて荷物を取り出す。
╳ ╳ ╳
へとへとになって部屋の空いてる狭い スペースに座る。
寛人「平井さんに手伝ってもらえばよかったのにな。意地を張るべきじゃなかった」
立ち上がって片付けを続ける。
╳ ╳ ╳
夕暮れ、そこそこ片付いた部屋には、夕陽が差し込んでくる。
寛人「床、汚なっ!(段ボールを動かす)平ちゃん、平ちゃん、平ちゃんどこ?出てきて!掃除を手伝って!(バンと頭を叩く)平ちゃん持ってきてない!あ~」がっくりして床に座り込む。
夕日が寛人にあたる。外の景色に惹きつけられ寛人はベランダに出る。手すりに寄りかかって、目を閉じる。風が微かに吹いて髪がゆらゆら。
寛人「気持ちいい……」
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