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ストーリーを作ります。 coco0315wang@gmail.com

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創作大賞2024恋愛小説部門『三つ目のストーリー』6 最終話

霜は雅旭の部屋のドアを押し開けた瞬間、壁に貼ってある数十枚のポイントが書いてある付箋が一斉に揺れ、鳥が羽ばたくような音を立てた。白いカーテンが風に揺れ、カップラーメンの匂いが漂っている。霜は靴を脱ぎ、裸足で部屋の中を歩き回った。掛け布団はぐちゃぐちゃに丸められてベッドの隅っこに押しやられ、コバルトブルーのコートはきちんとクローゼットに掛けてある。ゴミ箱がいっぱいになって、カルピスの空き瓶がゴミ箱の隣に転がっている。机は相変わらず本や問題集で埋もれており、途中まで解いた試

    • 創作大賞2024恋愛小説部門『三つ目のストーリー』5

      大雨が一晩中降り続き、昼近くになってようやくやんだ。霜は空気を入れ替えるため窓を開けた。庭の枯れ葉が殺虫剤を撒かれた蝶々のように地面に敷き詰められている。冬という季節だけある景色だ。霜は少し息苦しさを感じ、厚手のコートを着てマフラーを巻き、外に出かけようとした。  玄関で指先がドアノブに触ったら、一瞬止めた。ドアを開けたら雅旭に会えるだろうか?ショーを見に行った日以来、二人は普段通りに戻っている。雅旭は家庭教師に行く時に、書店まで霜を乗せていく。たまに羽柴家のテラスで

      • 創作大賞2024恋愛小説部門『三つ目のストーリー』4

        午前十時頃は、南方書店の比較的な閑散の時間帯だ。この時間になると、霜はいつも充電切れで自動的に充電ドックに戻る掃除ロボットのように、脚立に座って本を読む。お気に入りの小説のほか、最近は『法学達人』や『黄金の記憶術』のような本にも夢中になっている。本来、このような本は霜にとっては噛み砕けない氷のような手ごわい存在だった。 読書に疲れて遠くを眺めると、羽柴家のテラスにいる雅旭と視線を合わせることがある。霜は顔をそむけて見なかったふりをすることもあれば、本を閉じて顎に

        • 創作大賞2024恋愛小説部門『三つ目のストーリー』3

          星野家はようやく法事を済ませた。 十六歳の霜は一人で墓地から出てきた。彼女の記憶は、少し前に両親と交わした最後の会話にとどまっている。 かろうじて半日の休みを取った星野広平は、ネクタイを緩めながら不満げな顔をしている。 霜の母親、星野泉は娘の手を握り、優しく言った「あのね……霜は今日は失敗しちゃったところがあるけど、選ばれるチャンスがまったくないわけじゃないのよ。最後に帰るとき、スタッフの方が話しかけてくれたんじゃない?」 「失敗は失敗だ。やらかしたことどうし

        創作大賞2024恋愛小説部門『三つ目のストーリー』6 最終話

          創作大賞2024恋愛小説部門『三つ目のストーリー』2

          夕方頃、霜は金剛寺ホテルに到着した。かつてはホテルだったが、数年前から賃貸アパートに変貌した。霜はこの古びた三階建ての建物を見回し、また道端の反射鏡に映った自分の姿を眺めた。このど田舎で安価な住まいは、刑務所から出たばかりの彼女にぴったりなのだ。「まるで私みたいだわ」と、霜は錆びついた鉄門を押し開け、中に入った。  部屋はほぼホテルの客室のままだが、清潔で整った客室とは違い、生活感が溢れている。前の住人は退去時に掃除の仕事をせずにそのまま霜に残した。無慈悲ではあるが無

          創作大賞2024恋愛小説部門『三つ目のストーリー』2

          創作大賞2024恋愛小説部門『三つ目のストーリー』1

          あらすじ: 八年前、過失で夫を殺した霜は、出所後に故郷に戻り、隣人の雅旭と出会った。失業した雅旭は弁護士になった初恋の女性に憧れ、自分も司法試験に挑もう決めた。雅旭は宇多津で家庭教師をしており、霜も近くの書店で働いていることから、霜を乗せて往復している。そのうちに、霜は痛ましい過去を背負いながらも、シャイな雅旭に心を打たれた。雅旭も徐々に霜に心を開いていった。しかし、二人の間には十五歳の年の差と、雅旭の忘れられない初恋という乗り越え難い壁がある。雅旭が初恋とデート後、霜とじ

          創作大賞2024恋愛小説部門『三つ目のストーリー』1