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映画『悪は存在しない』のラスト、私はこう考察した【ネタバレ】

公開から1カ月以上経ってしまったが、先日濱口竜介監督の新作『悪は存在しない』を鑑賞した。

あらすじ

長野県、水挽町(みずびきちょう)。自然が豊かな高原に位置し、東京からも近く、移住者は増加傾向でごく緩やかに発展している。代々そこで暮らす巧(大美賀均)とその娘・花(西川玲)の暮らしは、水を汲み、薪を割るような、自然に囲まれた慎ましいものだ。しかしある日、彼らの住む近くにグランピング場を作る計画が持ち上がる。コロナ禍のあおりを受けた芸能事務所が政府からの補助金を得て計画したものだったが、森の環境や町の水源を汚しかねないずさんな計画に町内は動揺し、その余波は巧たちの生活にも及んでいく。

『悪は存在しない』公式サイトより

序盤〜中盤の感想

序盤から中盤にかけては、あまりにも地獄絵図な住民説明会、あまりにも地獄絵図なコンサルとのオンライン会議に笑いが止まらなかった。
家で配信されたものを鑑賞していたら、多分「いや、地獄過ぎるwww」と、声に出してゲラゲラ笑っていただろう。

住民説明会では完全に悪役だった芸能事務所の高橋と黛も、コンサルとのオンライン会議では一転して被害者側の「かわいそうな立場」となる。

オンライン会議で悪役チックに描かれていたコンサルも、言ってしまえば与えられた条件下でやれることをやって目一杯の成果を出そうとしているし、社長も従業員の給料を払うため、雇い主として社員の生活を守るために、コロナの補助金を利用できる新規事業を立ち上げた。
二人とも、「完全悪」ではないのである。

また主人公の巧は、便利屋として村人から信頼され、村の自然に関する知識も豊富である。
一方で、過度に忘れっぽいところがあったり、手土産の酒を「いらない」ときっぱり言ったり、同乗者がいる中断りもなくタバコを吸ったり、特に例も言わずにさも当然かのごとく高橋からタバコをもらったりと、かなり常識に欠ける部分がある。

世の中に、100%の善人はいないし、悪人もいない。
「なるほど、これはまさに『悪は存在しない』だな〜」と思いながら、作品を鑑賞していた。

ラストシーン

そんな中迎えた衝撃のラストシーン。
ラスト10分間、私は考えうる最悪の事態を想像しながら恐怖に震え続けた。
とにかく怖かった。
そして、解釈の余地をかなり残したままエンドロールが始まった時には、「嘘でしょーーーーーー!」という心の叫びが止まらなくなった。

ラストシーンの流れは、下記の通りである。

  • 巧の娘である花が、学童を出発後行方不明になる

  • 明け方、花が手負いの鹿と向かい合っているところを巧と高橋が発見

  • 高橋が花を助けようとする

  • 高橋を巧が羽交締めにして気絶させる

  • 巧が仰向けになった花を抱き抱える

  • 暗闇の中高橋と思しき人物が起き上がり、終幕

最も解釈が分かれるのは、「巧はなぜ、娘を助けようとした高橋を羽交締めにしたのか」という点である。

私は、「都会人の高橋が花を助けに近付いたところで、何の役にも立たず、共倒れになる可能性が高いと判断。あえて花を一人にさせることで、三人とも生き残る方に賭けた」と、巧の行動を理由付けた。
自然の生態に詳しい彼なら、たとえ自分の娘が死に瀕するピンチであっても、感情に邪魔されず平静に適切な判断ができるであろうと思ったからである。
我ながら、なんともリアリスティックな解釈だなあと感じる。

このラストシーンをどう解釈するかについては、鑑賞者の性格が如実に反映されるのではないかと考えている。
それがつまり、映画のキャッチコピーである「これは、君の話になる」の真の意味なのではないかと感じた。
いやはや、濱口竜介恐るべしである。

その他の要素

ストーリーやラストシーン以外で印象に残った点を、簡単に3点書き記しておく。

巧役・大美賀均さんの演技

巧は、いい意味で「俳優が演じている」っぽさが全くもってないなと鑑賞中感じていた。
鑑賞後にキャストについて調べたところ、巧を演じた大美賀さんはこれまで映画の助監督や制作を担当してきた裏方さんだと知り、かなり驚いた。
そんなことなんてあるのか……。

音楽

ストーリーがホラー方面へ大きく舵を切るのは終盤からになる一方で、石橋英子が手掛ける劇伴は冒頭からずっと不穏な雰囲気を醸し出していた。
弦楽器の音が絡み合う中で、スパッと音が全く聞こえなくなるシーンが何度かある。
この一気に無音になる瞬間が特に怖ろしく、印象に残った。

印象的なカット

巧が学童に娘を迎えに行くシーン(一度目)では、画面左から動きを止めた子どもたちが映し出されていく。
どんな突飛な演出かと思ったら、「だるまさんがころんだ」の途中だったという種明かしには脱帽した。

巧が学童に娘を迎えに行くシーン(二度目)では、ぐるぐる回る遊具(グローブジャングルというらしい)の半球のみ映していたのも、明確に言語化できず恐縮だが、なんか良かったなと思った。

最後に

今回本noteを執筆するにあたり、あえて他人の感想にはあまり触れように意識して、まずは自分の解釈を言語化することを優先した。
今作を見た映画ファンがラストをどう解釈したのが、これから読み漁るのが非常に楽しみである。

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