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note、はじめます。3人でつなぐ #2000字のドラマ

 「まっちゃん、note って知ってる?」
「…ノート? 知らないなぁ。いま流行ってる何か?」
 あかりは、流行に敏感だ。しかも、必ず波に乗る。新しいことが好きだし、しっかり波に乗って、その良し悪しを判断するのもうまい。
「流行ってる、っていうか、7年くらい前にできたプラットフォーム。創作したことの発表の場、とでも言えばいいかな。そこで、沢(たく)がね、物語を書くんだ!って、張り切ってるわけよ。イラストじゃなくて」
「ブログみたいなもの?」
ブログもTwitterもInstagramもしない わたしには、遠い話だった。

 わたしの名前は、逢瀬まつり。多摩川のそばに暮らす。蔡 あかりとは、2年前に友だちになった。マンションの隣の隣の部屋に、あかりが越してきたのだ。越してくる前は、上野毛に住んでいたそうで、遊歩道沿いの瀟洒な建物が並ぶ風景に飽きて、ここを選んだ、と遠慮なく、言った。
「私の名前には、まつりが宿ってるんだよねー。これって、ご縁ってヤツ!」
が、口ぐせである。
 沢は、あかりの幼なじみ。
「同じ病院で生まれ、同じ保育園に通い、同じ小学校で机を並べ、同じ中学を卒業し、その後は別々の道を歩んだ友だちです」と、紹介された。
 沢は、どちらかといえば、地味で静かな人。よく見ると、美しい顔をしている。すごいなと思うのは、美しいことを、相手にまったく気づかせない力をもっていること。ほぼ、神ワザ級の。まつりが、沢の美しさを発見したのは、あかりに紹介された日の、8ヶ月と5日後だ。能ある鷹は爪を隠す、というが、賢い沢は美しさを隠してるみたい、だった。でもね、美しさは、隠せば隠すほど研ぎ澄まされる、って、知ってる?
 「沢くんさぁ、服、もうちょっと何とかしたらどうかな。せっかくだから」
偉そうなことを言うわたしに、沢は、何がせっかくなのか、わからない振りをする。お気に入りは、群青の麻のシャツに履き倒したジーンズ。スニーカーは、ブランド不明の白。美しさを深い海の底に沈めたような、そのコーディネートを、わたしは、密かに気に入っていた。

FI:CRAZY LOVE with Van Morrison

 「私ね、あかりのことを好きだったのですよ。ずっと。で、中学3年のとき、ついに言った。つきあいたいと。多摩川の土手を歩きながら。夏草の匂いがして、あかりは自転車押してた」
 沢は、自分を 私 と言う。
「うん。それで?」
「…いま、あぁ振られたんだ、って、思ったでしょ?」
当たり。そう思った。
「ところがさ。『いいよ!』って、あかりは即答。えっ、何⁈って、こっちがためらってたら、『ただし、一生そばにいてくれるなら、ね』と」
いきなりの逆プロポーズに、沢は腰がひけ、砕け、
「やっぱ、やめときます。幼なじみでお願いします」
と締めたそうだ。
 さすが、あかりだ。中学生とは思えない切り返し。わたしには思いつかない、愛に満ちた NOだ。沢が、あかりに惹かれた訳がわかるような気がした。

 「で、そのノートというの? 沢は、いつから始めるの?」
「9月5日からだって。フレディ・マーキュリーの誕生日。でね、相談なんだけど。沢ね、noteへの投稿、3人でリレーしながら やりたいって言ってるのさ。noteって、そういうこともできる」
「えっ…」
「まつりさんさ、ときどき文章書いてますよね」ドキリ。
「普段感じてることを、物語仕立てにして、3人で順番に書いてくと面白いと思いますよ。結末は、最後まで読んだ人のお楽しみで」
真剣な頼みごとをするとき、あかりは丁寧な口調になる。それから、こう付け加えた。
「沢にさ、まつりさんの気持ちを伝える、いい機会にもなると思うよ」
なに、何⁈  なんでもお見通しなのね。

CI:You're My Best Friend / Queen
                                             [→ FO]

 沢に惹かれたのは、自分に起こる出来事を、いつだって淡々と受け止め、たおやかに対処するからだ。辛いことを前にしても、堂々として、まず、騒がない。でも、心の内はどうだろうか。小さいころに両親を亡くし、兄弟姉妹もなく、叔母さんに育てられたと聞いた。
「ベイマックスにでてくるヒロの叔母さんみたいな人だよ。沢という名は、愛を沢山授かりますように、と叔母さんが付けてくれたらしい」
絵描きをしている叔母さんの影響で、沢はいま、イラストレーターをしている。目指すは、副業をしない絵描き。
 「沢はさー、早いうちに家族を亡くしてるから。頑張ってきたから。居心地のよい愛情が必要よ」
あかりは、なんでも知っている。

 3週間後。note への投稿が始まった。初回は、沢の担当。それは、小学生の作文みたいにストレートで、愛らしい文章だった。

  これから、私たちの物語をはじめます。
  私たちとは、
  私の幼なじみ、私、
  そして、私の大切な人です。
  この物語は、とくべつな事件が
  起こるわけじゃありません。
  私たちの毎日を、
  素直に記すことで、
  生きる証、感謝の印としたいのです。

  ……。

  お待たせしました。
  それでは、note、はじめます。

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✴︎最後まで 読んでいただき、
 ありがとうございます。

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 楽しいこと、悲しいこと、
 痛いこと、心がふるえること。
 全部 抱きしめて 歩いていく人たち
  (自身もふくめ)に
 エールをおくりたくて、
 書きました。

 心に響く何か があったら、
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くださると
 嬉しいです。
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☆投稿コンテスト応募作品です。



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