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「読者に届く本」をつくるために編集者がやるべきこと/編集者の言葉#14

松田哲夫さんといえば、『逃走論』(浅田彰著)や『老人力』(赤瀬川原平)などのベストセラーを世に送り出し、『ちくま文庫』を創刊したことでも知られています。この言葉はその松田さんの著書にある一節です。

ぼくは、それでも「編集者にとっては、プロモーションより大事なものがある」と牢固に信じている。それは何か? 「一冊の本が注目を惹き、読者に手にとってもらえるためには、その本を作っていく過程で、人びとをひきつける装置をしっかり仕掛けていかなければならない」ということだ。/

『これを読まずして、編集を語ることなかれ』

編集者の仕事は本をつくることから、実際に本を必要とする読者に届けるまで多岐にわたります。

本を作ること、本を届けること、いずれも大切なことなのですが、1日200点近くの新刊が出るいまの世の中で、いきおい編集者も本を届けることに力を入れることが多くなりました。

たとえば、見本ができたときにリリース文をつけて紹介してくれそうなメディアに献本をしたり、書店さんでのサイン会や、トークイベントの実施、最近ではWEBで「はじめに」や「第一章」の無料公開、細かいことで言えば、読者の方からの読書感想をリツィートして拡散することも積極的に行われています。

それでも松田さんは、「編集者にとっては、プロモーションより大事なものがある」と述べています。つまり読者に本を届けるにあたっての力のいれどころが違うというのですね。

では編集者はどこに力を入れていけばいいのか。当たり前のことかもしれませんが、内容です。〝まず、書名や、装丁、帯のコピーなど外観の要素で、書店の人たちに、「この子、光ってるね!」と思ってもらえるようにしなければならない〟

というのも、そうすることで書店店頭の目立つ場所に置いてくれる確率が高くなるからです。

そういう意味でいうと、松田さんの編集した『ちくま日本文学全集』は、人びとをひきつける装置がしっかり仕掛けられた企画でした。

なんといっても驚いたのが、文庫版でハードカバーという斬新な造本。(後に並製にマイナーチェンジ)。装画も素晴らしく、つい揃えてしまいたくなる仕掛けがしてありました。


本文についても小口側に注釈がつけられ、原文の読みやすさを高めていました。解説者の人選も面白く、しかも価格は1000円。つい手に取ってしまいたくなる仕掛けに溢れていました。

もちろん予算によってできることは違ってきますが、少なくともタイトルや帯回りのコピーに関して言えば予算は関係ありません。まさに編集者の力の見せ所です。自分が惚れこんだ作品を読者に届けるために、最善の努力をしたいものです。

編集者という仕事は、作品と読者をつなぐ仕事です。そのためには、本を作っている段階から、この本を読者に届けるために自分には何ができるかと常に考えることの大事さを、思い起こしてくれた言葉でした。

本書は、松田さんが考える編集論と対談で構成された一冊で、いまや古本でしか手に入らないようですが、幅広い面から編集について考えさせてくれる一冊です。

最後まで読んでくださりありがとうございました。
よい一日を!

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