「聞き上手な編集者」ほど、傑作に恵まれやすい単純な理由/編集者の言葉#21
自分以外には書きえないものを書く。それが書き手の仕事です。それだけに誰にも手伝いはできません。その孤独の中を「これでいいだろうか」「いややっぱり、こちらのほうが」さぐりながら前に進んでいく。
よしんば快調にすすんでいたとしても、ふとしたことから筆がとまって、このまま前に進んでいいものかわからなくなる。「書く仕事」はそうした不安との戦いでもあります。
こんなとき、書き手に寄り添って励ましを送るのが編集者だと、理論社の創業者である小宮山量平さんは言います。
小宮山さんが活躍していた時代にはFAXもメールもなかったでしょうから、「原稿ができた」と言われれば受け取りにうかがうのが普通だったでしょう。では、原稿を受け取ったときどのようにして、書き手に寄り添って励ましていたのでしょうか。小宮山さんは述べます。
たとえば「今回は苦労したんだよ」と言えば「ご苦労がうかがえます」と答え、「特にこの場面が難しくてねえ」と言えば「そうでしたか、それは大変でございましたね」と答える。
腕の立つ編集者は、聞き上手でもあります。おそらく小宮山さんも、そうやって書き手の不安を解消していったのではないでしょうか。そうすれば、書き手も勇気を得てよりよい労作を生み出そうと奮起してくれます。
最近では原稿の受け取りはメール一本で片がつきます。便利な世の中になりましたが、簡単さにあぐらをかいて、書き手をないがしろにしている編集者が見受けられないこともありません。
たとえば、「原稿受け取りました。ありがとうございました」と平板な定型文で返信してくる編集者。なかには原稿を送ったのに何の連絡もよこさない編集者さえいます。小宮山さんがまだご存命なら「編集者失格!」と怒鳴られていたかもしれません。
もしメールが届いたなら、できればすぐに読んで「原稿ありがとうございました! 今回のお話、思わず吹き出してしまいました。次回も楽しみにしております。どうぞよろしくおねがいいたします」と、簡単な感想を述べて返信したいものです。それだけで書き手のやる気がよりふくらみます。
小宮山さんは、「著者に寄り添って励ましを送ること」を、「聞き上手」になると表現しています。
その聞き上手さを活かして小宮山さんは、今江祥智さんより『ぼんぼん』『兄貴』を、灰谷健次郎さんより『兎の眼』『太陽の子』を、しして倉本聰さんより『北の国から』(テレビ・シナリオ全二巻)など、さまざまな名作を世に送り出しています。
本書は、戦後から1980年代までの編集者がどのように考え、どのように本を作ってきたかがわかる1冊です。当時と今では取り巻く環境は違っていますが、ものをつくる心構えという点では参考になることが多い本でした。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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