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とろけるような甘~いお話

Vincent Casselと言えば、言わずもがな、フランスを代表する色気のある俳優の1人である。イタリアでは、Monica Bellucciの元夫と言った方がわかりやすそうだが、私の中では、飽くまでも彼は演技派俳優の1人で、Monica Bellucciよりも知ったのが早かった気がする。
逆三角形の顔で目が離れているし、決して美男ではないが、画面からも伝わるあの色気は何たるや、と毎度見る度にうなってしまう。

写真: 最近のVincent Cassel
写真: 少し前だと思われるMonica Bellucci

彼が若い頃、といっても30代くらいの頃は、それほど色気がムンムンというわけではなかった。ところが40代に入ってから、「もしあの人に間近で見つめられたら、確実に思考回路が停止するな」というほどの凄まじい色気を醸し出すようになった。それは私の男の趣味が変わったのかもしれないし、彼が人間としても俳優としても深みを増したのかもしれないし、その両方かもしれないが、とにかく、どんな役を演じても、たとえ主役ではなくても、ここ数年は彼の熱をスクリーン越しに感じるようになった。

とある初夏の土曜の朝のことである。生憎見たい映画もなく、午後のダンスレッスンもフリーにしたので、すぽっと予定が空いてしまった。まだ敬遠するほどの暑さでもないから出かけないのはもったいない、と取り敢えず外に出、地下鉄に乗る。
さて、どこへ行こうか。どうせなら土曜しかやっていないところがいいし、少し不便な場所がいいな、と思いを巡らす。そして、興味があったのに一度も行ったことのない花の市場へ行くことにする。
一時間後、花市場に着くが、鉢植え以外はそれほど安くはなく、買わなくてもいいな、と市場を出る。
途中の乗り換えで、そういえば野菜の青空市場が近くにあったな、と思い出して寄り道する。野菜のブースは3か所しかないから、どこも混んでいて、チケットを引き、30人待ちと知る。待っている間、チーズや米やパンや、その他のブースも見て回るが欲しいものがない。
しかしはちみつのブースで、「Ailanto」という見知らぬ名前の付いた瓶を見つける。まだプラハで買ったあまりぱっとしない味のと、ブダペストで買った見知らぬ植物のと2瓶あるけど、もう1つあってもいいか、とブースの太ったおじさんに色々質問する(私はちょっとしたはちみつオタクだ)。ただ、欲しいはちみつの小サイズがなく、躊躇う。おじさんは商売気がないから、私が買わないと思ったのか、一旦座る。

Ailanto(ニワウルシ)の蜂蜜(9月にリピートした未開封の瓶)


すると横で、「あれっ、珍しいはちみつだ、買わない理由はないな」という中年男性の声がする。そして、「オレ、はちみつ大好きなんだよ」という声に連れられて、咄嗟に「私も」と声が出る。
横を向く。
目が合う。
誰かに似てる。
あ、誰だろう・・・小さいVincent Casselだ。。
私達ははちみつについての他愛のない話を3、4分し、お互いに1瓶ずつ買い、じゃぁ、と手を上げる。

イメージ: イタリアの野菜市場

野菜のブースへ戻る。まだ14人待ちで、その人の背中をちらちら目で追う。
うん、声は違うけれど、目がVincentだ、と思う。
8人待ち、5人待ち辺りで、その人は市場での買い物を終え、たまたま目が合った私にウインクする。お互いに手を上げる、私の番はまだだ。

アスパラとグリーンピースとナシを買い、トラムに乗る。
やっぱり、あの目はVincentだったな。
また、映画のない土曜があるといいな。
その時、また偶然会えるといいな。
と思いながら、少し重いはちみつの瓶が割れないように、そっとバッグの中を確認する。


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