いちごなつもも

「うさぴょん」という小説を書いています。 長編小説です。 ぜひ、覗いてみてください。

いちごなつもも

「うさぴょん」という小説を書いています。 長編小説です。 ぜひ、覗いてみてください。

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〔連載小説〕 うさぴょん ・その1

うさぴょん  これから3年間、僕はこの駅から地下鉄で学校へ通うことになる。初めての電車通学だ。まあ、だからどうということもないけれど。  ホームの端っこにぽつんと立っている女子がいた。  すらりと背が高く、長い髪はつやつやと輝いていて後ろ姿からしてきれいだ。しかも僕と同じ学校の制服を着ている。  あの人もこの辺に住んでるんかなあ、と思ったりしながらちらちらと見ていたら、竹田行の電車が入ってくるとアナウンスが流れて、ホームに地下鉄が入ってきて、わっと風が起こった。なびい

    • 〔連載小説〕 うさぴょん ・その91~その157をnoteに投稿し終えて

                     御挨拶 ご無沙汰しております。 「うさぴょん」その91~その157までの投稿を完了することができました。 ここまででいったんの区切りとします。 これまで読んでくださった皆様、スキやフォローをしてくださった皆様、 誠にありがとうございます。 あらためて読み返してみて、なんだかごちゃごちゃしているな、と自分でも思ったりするわけですが、それでもやっぱり自分はこういうのが好きなんだと思ったりもするわけです。 この先もまだまだ宇

      • 〔連載小説〕 うさぴょん ・その157

        その 1 へ  佐々野さんが隣にいる。  やはり佐々野さんは目立っている。たぶん山鉾と同じくらいに、といったら言い過ぎかもしれないけれど、周囲の視線を集めていることには違いない。でもまあ、大丈夫そうだ。こんなに人がいれば。  後祭は前祭に比べると規模が小さいということだけれど、それでも十分に大勢の人が見物に来ているし賑わっている。 「おいっ、うさぴょん。飯田はどこ行った? もうすぐ始まるぞ」  と、大野先輩が聞いてくる。 「どっかその辺で写真を撮ってるんとちゃいますか?」

        • 〔連載小説〕 うさぴょん ・その156

          その 1 へ  だいぶ日が陰ってきた。とはいえまだまだ暑いし、人がいっぱいいるから余計に蒸し蒸しするように感じる。四条通りをうろちょろしていた時にもらったうちわが大活躍だ。 「宇佐美君、パトカー、パトカー」  飯田君の指さす先では警無車がサイレンは鳴らさず警光灯だけをつけて通っていく。いつもより明らかにパトカーが多く走っていて、あちこちでしょっちゅう見かける。やはりお祭りだ。  大型輸送車をいっぱい見れて、写真も撮れた。しかもかなり間近で細かいところまで観察できた。窓越しだ

        • 固定された記事

        〔連載小説〕 うさぴょん ・その1

          〔連載小説〕 うさぴょん ・その155

          その 1 へ  画面にパトカーが映っている。昔のパトカーだ。サイレンを鳴らしながら高速道路を走っていく。電子式サイレンでなくモーターサイレンというサイレンなのだという。  飯田君が見つけてきた動画をスマホで見ている。最近のお気に入りはこれだ。パトカーはもちろんだが、嫌みったらしいナレーションもまたいい。  軽快な音楽にのって動画は進んでいく。今度は空撮だ。パトカーがまっすぐな高速道路を走っていき橋に差しかかる。大きくて立派な橋をパトカーが渡っていく。  チャイムが鳴って休み

          〔連載小説〕 うさぴょん ・その155

          〔連載小説〕 うさぴょん ・その154

          その 1 へ  今月10日、自身の所有する自動車へ放火したとして末田達吉容疑者(32)が京都府警に逮捕された。  キラキラネームが話題となる昨今において「達吉」なる古風な名前を持つこの男、実は、未成年者に対して常習的に盗撮を行っていたグループの中心的なメンバーとして警察にマークされており、のちに京都府迷惑行為等防止条例違反の容疑で再逮捕される。  末田容疑者は京都市内の不動産会社に勤務する傍ら、5年ほど前からSNSを通じて知り合ったメンバーらとともに女子中高生をターゲットに

          〔連載小説〕 うさぴょん ・その154

          〔連載小説〕 うさぴょん ・その153

          その 1 へ  先生に呼ばれて連れてこられたのは、学校本館の応接室だった。そこには知らない人がいて警察官と紹介されて驚いたし、どういうことなんだろう、どうして自分が呼ばれるのだろうと不安になった。  刑事さんの前に座らされ、私は女の刑事さんから色々と尋ねられた。そして学校の横の河川敷で「不審な人を見かけたりしたことはありませんか?」と聞かれたとき、そういうことか、とひとつ疑問が解けた。応接室に入る時、廊下に宇佐美君や飯田君がいたけれど、そういうことだったのか、と。 「不審な

          〔連載小説〕 うさぴょん ・その153

          〔連載小説〕 うさぴょん ・その152

          その 1 へ  飯田君を追いかけてみんなで車に近づいていく。  バルサンとか冗談を言っていたつもりだったけれど、間近で見てみると明らかに車内が煙っていた。これはまさか。 「ひゃっ」と声を上げた佐々野さんが背中にぶつかってきた。振り返ると同時に、ぴろぴろぴろぴろぴろっ、と大きな音が響く。 「うわっ、盗撮野郎」  近くに立っていた盗撮野郎がぎょっとした顔でこっちを見てくる。ぱんっ、と破裂するような音がして振り返ると車内に炎が見えた。 「うわっ、火事や」  飯田君が叫んだ。 「な

          〔連載小説〕 うさぴょん ・その152

          〔連載小説〕 うさぴょん ・その151

          その 1 へ  最近、飯田君は警察の車を見なくなったと言っていた。本当にいなくなったのか、巧妙に隠れてしまったのか、どっちなのかよく分からなかったのだが、もしかすると、巧妙に隠れていただけで事件自体は解決していなかったのかもしれない。 「あの、佐々野さん、もし危ないと思ったらひとりでも逃げてくださいね」 「はい」  ふたりで正門を出たところで、今度は大野先輩から連絡が来た。“移動してるぞ。鉢合わせすんなよ”と。また絡んでいるみたいだ。  怪しい奴というのが、どう怪しいのか分

          〔連載小説〕 うさぴょん ・その151

          〔連載小説〕 うさぴょん ・その150

          その 1 へ  晴れたり曇ったり、という天気だったので今日は思っていたより作業がはかどった。曇ったところで涼しくなるわけではないが、かんかん照りの中で作業するよりはいい。つる巻きはもちろん野菜の手入れもいっぱいできた。近々なすは収穫できそうだ。伏見とうがらしもいい感じになってきている。  水やりの前に部室や花壇の周りを少し掃いた。最近は柿の実がそんなに落ちなくなっている。このまま全部落ちてしまうじゃないかと心配していたけれど、生理落下の時期は終わったのだろうか。まあまあの量

          〔連載小説〕 うさぴょん ・その150

          〔連載小説〕 うさぴょん ・その149

          その 1 へ  とりあえず手計算でやる手順を一通り書き出してみた。これをそのままプログラムにできれば完成、ということだけれど、それがなかなか難しい。  若山先生は三者面談の合間にちょこちょことコンピュータ室にやってきて課題を出していく。  素因数分解のプログラムを作るように言われたのだが、for文を散々いじくりまわしたが上手くいかず、ついには嫌になってfor文をやめてwhile文を使ったらあっさりと解決した。ちょっと拍子抜けだがいいのができた。 「結構空いたけど、やっぱりふ

          〔連載小説〕 うさぴょん ・その149

          〔連載小説〕 うさぴょん ・その148

          その 1 へ  正門のところには、大野先輩が立っていた。僕は小野村さんがついてきているのをちらっとだけ確認してから大野先輩のところに小走りでいった。 「上手くいったんか?」 「あんまり。ちょっとけんかみたいになってるような」 「へえー、でも来てはくれたんやな」 「まあ一応。山室君やらはどこに?」 「ああ、さっきまで拘置所の辺をうろうろしてたけど、なんか向こうの方に行ってしもた」  小野村さんは怒っているとも困っているとも、どっちつかずな顔で目を伏せている。とりあえず、どうな

          〔連載小説〕 うさぴょん ・その148

          〔連載小説〕 うさぴょん ・その147

          その 1 へ 「あのう佐々野さん、引き伸ばしってどれくらい出来そうですか?」 「少しくらいならできそうですけど、あんまり長くなるとちょっと」 「まあそうですよねえ」  今ならまだ全部なかったことにして引き返すという手もあるのだが、佐々野さんにそのつもりはなさそうだ。山室君からはまだ連絡が来ない。走ってくるなんて、柴崎君の到着はいつになるのだろう。ともかく小野村さんには本当のことを話すしかなさそうだ。でも、そんなことをしたらどうなるのだろう。  小野村さんが図書室に入ってきた

          〔連載小説〕 うさぴょん ・その147

          〔連載小説〕 うさぴょん ・その146

          その 1 へ  柴崎君が事故に巻き込まれた、というのはその通りなのだが、正確には事故のために生じた渋滞に巻き込まれている、のだという。まあ、柴崎君が事故に遭ったということでないならそれはそれで良かったのだが、乗っているバスが全く動かない、と山室君に知らせてきた。 「うわっ、うさぴょん、これ」  大沢君と一緒にパソコンの画面を見ている大野先輩がせわしなく手招きしてくる。  画面には、道路をふさぐように倒れている大型トラックが映っていて、反対側の車線の真ん中にはでんとブルドーザ

          〔連載小説〕 うさぴょん ・その146

          〔連載小説〕 うさぴょん ・その145

          その 1 へ  キーボードの裏がなんだか汚れているというのか、ほこりっぽいというのか、とにかく掃除が必要な状態だと判断した。今までにここを拭いた人はいるのだろうか。固く絞った雑巾で丁寧に拭いていく。 「おいっ、うさぴょん、なんか気が散るなあ」 「もおう、図書室かどっか他に行って下さいよ」 「受験生やのに冷たいな」 「受験生はもっと勉強するもんですよ」 「ビラ配りまでやったんやから結末まで付き合わせろよ」  僕はコンピュータ室の掃除をしている。別に誰に頼まれたのでもない。どう

          〔連載小説〕 うさぴょん ・その145

          〔連載小説〕 うさぴょん ・その144

          その 1 へ  改札を出て佐々野さんと別れた。もわんとした空気の漂う自転車置き場から自転車を出していたらスマホが震えた。佐々野さんからだ。 “パトカーがとまってます”  とある。これは見に行かないといけない。僕は佐々野さんが使っている地下鉄の出入口の方に自転車を走らせた。  佐々野さんが歩道に立っていて、その少し先にパトカーが止まっている。そのまた少し先では黄色と青の制服の人が何かしている。どうも交通事故みたいだ。 「ありがとうございますう」 「あっちで交通事故みたいですよ

          〔連載小説〕 うさぴょん ・その144