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〔連載小説〕 うさぴょん ・その150

その 1 へ


 晴れたり曇ったり、という天気だったので今日は思っていたより作業がはかどった。曇ったところで涼しくなるわけではないが、かんかん照りの中で作業するよりはいい。つる巻きはもちろん野菜の手入れもいっぱいできた。近々なすは収穫できそうだ。伏見とうがらしもいい感じになってきている。
 水やりの前に部室や花壇の周りを少し掃いた。最近は柿の実がそんなに落ちなくなっている。このまま全部落ちてしまうじゃないかと心配していたけれど、生理落下の時期は終わったのだろうか。まあまあの量が残っているし、青い実は丸々と大きくなってきている。こっちも収穫が楽しみだ。
 つる巻きをした時、僕はあまりしつこい感じにならないように注意しつつ、佐々野さんに小野村さんのことを根堀葉堀聞いた。いやまあ、たぶん変なことになっていないだろうということは分かっていた。小野村さんは陸上部に入ったし、昨日と今日、教室での佐々野さんと小野村さんをなんとはなしに観察していたのだが、今までと変わりなくしゃべったりしていたし、こじれたようなことにはなっていない、と思ってはいたものの、やっぱりちょっと心配だったのだ。
 小野村さんは、本当にあれの翌日に陸上部に入部したということだった。とりあえず見学してみたら、と佐々野さんは言ったそうなのだが、見学に行く、のではなく、入部してその日から練習にも参加したらしい。
 それと、もう1つ気になっていることがある。「あの時、土手で小野村さんと何を話したんですか?」と佐々野さんに聞いてみた。が、それは「内緒です」らしい。
 
 着替えを終えた佐々野さんが生物室から出てきた。
「お待たせしました」
「いえ」
「どうかしましたか?」
「なんか今頃になって晴れてきましたね。水もやったのに」
 夏になり切っていない今の時期の天気はよく分からない。
「そうですね」
 佐々野さんは窓から入ってくる日差しに目を細めながら空を見上げている。
「あのう、佐々野さん」
「はい」
「24日って、予定あったりってしますか?」
「24日?」
「再来週の金曜日です」
「ああ、えー、特に何もありませんけど」
「あのその日に僕、飯田君と救急車を見に祇園祭の後祭に行こうと思ってるんですけど、佐々野さんも一緒に来ませんか?」
「へえっ?」
「いやその救急車は山鉾を見る前に写真撮ったらそれで良くて、ああ、片付けんのも見るけど、それでその山鉾の巡行を見に行きませんか? あっ、飯田君以外にも何人か誘おうと思ってるんです。大沢君とか山室君とか他にも。あっ、小野村さんも誘って」
「行きます」
「へっ? あの、ああ、分かりました。ほな」
「あの、救急車って?」
「ああ、高度救急救護車っていうおっきい救急車が見られるんです」
「へえー、それってどんな救急車なんですか?」
「普段は市立病院のとこの消防署に配備されてて、大型トラックくらいの大きさがあるんですよ。それが高島屋の辺で救護所になるらしいです」
「それは、スーパーアンビュランス、ですか?」
「えっ、はあ。それと同じですけど、京都のはハイパーアンビュランス、あのう佐々野さん、前から思ってたんですけど」
 その時、スマホが震えた。飯田君からだった。
“怪しい人が土手にいる” 


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