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〔連載小説〕 うさぴょん ・その146

その 1 へ


 柴崎君が事故に巻き込まれた、というのはその通りなのだが、正確には事故のために生じた渋滞に巻き込まれている、のだという。まあ、柴崎君が事故に遭ったということでないならそれはそれで良かったのだが、乗っているバスが全く動かない、と山室君に知らせてきた。
「うわっ、うさぴょん、これ」
 大沢君と一緒にパソコンの画面を見ている大野先輩がせわしなく手招きしてくる。
 画面には、道路をふさぐように倒れている大型トラックが映っていて、反対側の車線の真ん中にはでんとブルドーザーが道を塞ぐように不自然に止まっている。どういうことだろう。これは積み荷か。何がどうなったらこんなことになってしまうのだろう。これが渋滞をつくっている原因のようだが、片付けるのには時間がかかりそうだ。
 たぶん、パトカーは何台も来ているだろう。救急車も来ているだろうし救助工作車も見られるかもしれない。それはそうとして、柴崎君は小野村さんの三者面談が終わるまでに学校に来られるのだろうか。もし柴崎君が学校に来られなかったら、今回の計画は失敗だ。
「どうしよ、とりあえず、佐々野さんに言いにいった方がええかな」
 柴崎君が来れなかったら、今回のことはなかったことにして、小野村さんは三者面談の後、佐々野さんと一緒に特に何もなく寄り道して帰っていくことになる。まあ、しょうがない。やっぱり、こういうことをするのはよくなかったということだろうか。
 えっ、とスマホを見ていた山室君が声をあげた。「柴崎君学校に向かってるって」
「ああ、バス動いたん」
「それが、走ってくるみたい」
「走る? えっ、あそこから」
「うん、そうみたい」
 それで間に合うのだろうか。というか、他にバスとか何かないのだろうか。たぶんないのだろう。柴崎君がいるのはそういう場所だ。
「とりあえず、佐々野さんに言わな」
 僕は佐々野さんに柴崎君が遅れてしまうこと、それと走ってこっちに向かっていることを連絡した。
 すぐに返信が来て、それから佐々野さんがコンピュータ室にやってきた。
「柴崎君は怪我とか大丈夫なんですよね?」
「走ってこれるくらいやからそれは問題ないと思うんですけど」
「それで、間に合いそうですか?」
「いやー、どうなんやろ。よう分からへん感じです」
 佐々野さんは難しい顔をしている。1年生の三者面談なんて、余程成績やら素行に問題のある奴でない限り長引くこともなくさっと終わってしまうだろう。面談後、適当な理由をつけて待ってもらうにしても限度がある。
「今回はやめときますか?」
「柴崎君は来てくれるんですよね」
「えっ、はい、そうみたいですけど」
「私、飛鳥ちゃんに話して待ってもらうことにします」
「いやっ、それは」
 佐々野さんがコンピュータ室から出ていこうとする。
「うさぴょんも行けよ」
 と、大野先輩が言ってくる。なんで僕が、と思う反面、まあ仕方がないか、とも思う。
 柴崎君の方は山室君と大野先輩と大沢君でなんとかしてくれるというので、僕は佐々野さんについていくことにした。 


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