〔連載小説〕 うさぴょん　・その144

その 1 へ

　改札を出て佐々野さんと別れた。もわんとした空気の漂う自転車置き場から自転車を出していたらスマホが震えた。佐々野さんからだ。
“パトカーがとまってます”
　とある。これは見に行かないといけない。僕は佐々野さんが使っている地下鉄の出入口の方に自転車を走らせた。
　佐々野さんが歩道に立っていて、その少し先にパトカーが止まっている。そのまた少し先では黄色と青の制服の人が何かしている。どうも交通事故みたいだ。
「ありがとうございますう」
「あっちで交通事故みたいですよ」
「そうですねえ」
　人だかりができて大騒ぎに、という感じではない。警無車が１台と、向こうにはライトバン型のパトカーが止まっている。救急車が必要になるような事故だったのか、もう行ってしまったのか。よく分からない。
　そろそろと近づいていってみると道の端にバイクが止めてあった。ぱっと見た感じ特に壊れているところもないが、あのバイクが事故ったのだろうか。
　なんとなく眺めながら警無車の横を通り過ぎ、ライトバンの方に歩いていく。
「あれって、交通事故処理車ですか？」
　と、佐々野さんに聞かれた。
「へえっ、いやー、あれは、あー、なんやろ？　交通鑑識かなんかかな？」
　よく分からないものは、とりあえず写真に撮って飯田君に見てもらえばいい。
　しかしなんなのだろうこの事故は。鑑識が出てくるようなそんな大層な事故なのか。もしかして当て逃げか何かだろうか。だとするとそれはもう事故ではなく事件だ。それはそうと、
「どうかしましたか？」
「いやっ、あの、よく知ってますねえ」
「へえっ？」
「いや、あの交通事故処理車とか」
　変な間があった。
「あっ、弟の持ってる本に載ってたんです」
「あー、弟さんの」
　子供向けの本でも、そんな車両まで載っているのか。　

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