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〔連載小説〕 うさぴょん ・その154

その 1 へ


 今月10日、自身の所有する自動車へ放火したとして末田達吉容疑者(32)が京都府警に逮捕された。
 キラキラネームが話題となる昨今において「達吉」なる古風な名前を持つこの男、実は、未成年者に対して常習的に盗撮を行っていたグループの中心的なメンバーとして警察にマークされており、のちに京都府迷惑行為等防止条例違反の容疑で再逮捕される。
 末田容疑者は京都市内の不動産会社に勤務する傍ら、5年ほど前からSNSを通じて知り合ったメンバーらとともに女子中高生をターゲットにして盗撮を繰り返していた。盗撮グループの中心的なメンバーの一人とされる末田容疑者は、主に中学校や高校、ときには女生徒らの出場するスポーツの大会会場に出向いては、彼女らの体の線がはっきりと分かる写真や、胸や股間、尻や太ももなどにズームした写真や動画などの撮影を繰り返し、メンバー間で交換するなどして共有し、一部は販売もされていたという。
 さて、末田容疑者の逮捕劇の発端は一昨年にさかのぼる。
 捜査関係者によると、一昨年の12月下旬、京都市内で女子中学生(当時12)が下校中に腕をつかまれ無理やり車に連れ込まれそうになる事件があった。この時は付近を自転車で通りがかった男子大学生(当時21)が騒いだため、直後、車は走り去り犯行は未遂に終わったが、京都府警は2人の証言などをもとに捜査を進め、昨年4月に容疑者の男(当時43)を未成年者略取未遂の容疑で逮捕した。
 警察が容疑者の男の自宅から押収したパソコンを調べたところ、男が盗撮グループに関わっている疑いが浮上し、さらに捜査を進めていくうちに末田容疑者が盗撮グループの中心的なメンバーであることを突き止めた。
 京都府警は盗撮グループを壊滅すべく、今年に入ってから末田容疑者や他のメンバーらの動向を探っていたが、今月になって大きな動きがあった。
 今月10日の午後、末田容疑者は京都市内南部の公立高校近くの人目につきにくい線路横の道路に車を止めると、カメラを仕込んだ鞄を抱えて一人いそいそと高校へ向かった。この日は時折曇るなどしたものの日中の最高気温が35度に迫る蒸し暑い猛暑日となったが、末田容疑者は付近を通りかかったふうを装うなどして高校のグランドに隣接する河川敷から部活動に励む女生徒らの盗撮を始める。約3時間にわたる盗撮の一部始終は捜査員によって把握されていたが、そんなことはつゆと知らない末田容疑者は夕方になって意気揚々と現場を去ったという。
 車に戻った末田容疑者は、しばし車内で一服しながら涼んでいたものの、車を降りて近くの公園の公衆トイレの個室に入った。ところが、用を足した末田容疑者が個室から出ようとしたところ、鍵の金具が変な具合に噛み合ってしまい個室内に閉じ込められる形になってしまった。スマホが普及した現代においてはすぐに救助を呼べば済む話だが、後ろめたさもあったのだろう、末田容疑者は自分で解決する道を選ぶ。この時、末田容疑者はカメラを仕込んだ鞄を個室内に持ち込んでいた。
 押したり引いたり金具をがちゃがちゃとやっているうちにどうにか公衆トイレからの脱出に成功した末田容疑者だが、一難去ってまた一難、そこで目にしたのは煙火に包まれる愛車であった。のちの警察と消防による検証で、車内に置かれていた液体の入ったペットボトルがレンズの役割を果たし発火を生じさせる「収れん火災」と呼ばれる現象が起きたと見られ、当時、車内にはライターや虫よけのスプレー缶などが置かれていたことから、それらに引火し一気に燃え上がったものと推測されているという。
 立て続けてこんな目に遭うなど、もはや罰が当たったとしか思えないが、何を思ったか末田容疑者は、炎上する車を放置し走って逃走を図った。末田容疑者は、放火の現行犯として捜査員らに追われる身となる。
 放火というと故意に火をつけて火事を起こすことを思い浮かべるが、それだけが放火ではない。弁護士に話を聞いたところ、火事の原因を作った本人が、火事が起きていることを知りながら消防に通報するなど適切な対応を取らず放置し周囲に危険を及ぼした場合も放火とみなされることがあるという。
 放火犯になってしまった末田容疑者は、捜査員らの呼びかけにも応じず逃走を続け、付近を流れる鴨川の河川敷を走っていたが、対岸に渡ろうと突如、川に入ったという。その時の様子を目撃した男性(76)は「あの日は暑かったですけど、川の中に入ったはる人がいて、ばしゃばしゃ走ったはって」と証言する。浅瀬を対岸に向かって逃走していた末田容疑者だが、そのうちに深みにはまってしまったようだ。「戻れ、戻れって追いかけてる人も川に入って叫んだはったけど、(末田容疑者は)そのまま進んで行かはって。そしたら、あれっ、もしかして流されてへんかって思て見てるうちに流されて見えへんようになってしもて」(前出の男性)
 溺れて流され始めた末田容疑者は、あっという間に水面下に消えてしまう。急きょ、追跡から救助へと変わった現場には、盗撮の捜査に関わる多数の捜査員に加え機動隊が出動したほか、警察の要請を受けて救急隊やレスキュー隊までも出動してきたことから騒然とした雰囲気になったという。
 末田容疑者は流されてから約20分後に救助されるも、その時は意識がもうろうとした状態であったが、救急搬送される救急車の中で意識を取り戻し、搬送先の病院で建造物等以外への放火の容疑で逮捕された。
 翌日になって、京都府警は末田容疑者の自宅への家宅捜索を行い、ノートパソコンやハードディスクなどを押収し調べたところ、盗撮動画や写真がわんさか見つかり、末田容疑者が、今年の6月に京都市内で開催された運動競技の大会の会場において、同大会に選手として参加した女子中学生の性的な部位を執ように撮影していたことが確認されたという。その後、盗撮グループのメンバーらも次々に逮捕される事態に発展している。
 末田容疑者は警察の取り調べに対し、盗撮については何一つ語らず黙秘を貫いているようだが、弁護士の入れ知恵によるものか、放火については「向こうから勝手にしゃべりだす」のだそうで、「消火のため鴨川に水を汲みにいったが警察に邪魔された」などと消火の意思があったことを必死にアピールしているという。
 というのも末田容疑者が車を止めていた場所が悪かった。車は近鉄京都線の線路沿いの道路に止められていたのであるが、火事の煙が線路上に流れていったことから、普通電車から特急電車まで上下線とも約30分にわたり運行ができなくなりダイヤが大幅に乱れた。失火であるなら基本的に責任は問われないが、放火が原因で運行が妨げられたとなれば話は別であり鉄道会社も黙ってはいないだろう。(前出の弁護士)
 その先にあるには巨額の損害賠償だ。
 
 さて後半では、末田容疑者の歪んだ性癖を生み出したキモすぎる高校時代などについてお伝えする―― 


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