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〔連載小説〕 うさぴょん ・その156

その 1 へ


 だいぶ日が陰ってきた。とはいえまだまだ暑いし、人がいっぱいいるから余計に蒸し蒸しするように感じる。四条通りをうろちょろしていた時にもらったうちわが大活躍だ。
「宇佐美君、パトカー、パトカー」
 飯田君の指さす先では警無車がサイレンは鳴らさず警光灯だけをつけて通っていく。いつもより明らかにパトカーが多く走っていて、あちこちでしょっちゅう見かける。やはりお祭りだ。
 大型輸送車をいっぱい見れて、写真も撮れた。しかもかなり間近で細かいところまで観察できた。窓越しだけれど内部をちょっと覗くこともできた。
 四条通りや烏丸通りなんかの大規模な交通規制は18時から始まる。なので、17時45分くらいには四条河原町の交差点のどこかにいい場所を見つけておかないといけない。四条通りを塞ぐ作業を見物するのだ。
 パトカーも多いが警察官も多い。そこかしこで見かけるし、消防局の人もいる。
「あれは何したはんの? 熱中症の人とか見回ったはんの?」
「あれは、屋台でひい使うし、それちゃう」
「ああ、それかあ。ほんで乗ってきた消防車はどこに止まってんにゃろ」
「うーん、どこやろ」
 時間を確認すると、17時11分だった。もう水やりは終わっただろうか。僕は今日、夕方の水やり当番だったけれど、佐々野さんにお願いして替わってもらった。
「そろそろ向かった方がいいかもなあ」
 と、飯田君が言った。
「そやな、ほな行こかあ」
 
 四条河原町に着いて、高島屋の角のところにいい場所を確保できた。
 鴨川の方からも阪急の駅からもわんさか人がやってきて歩道は人であふれている。宵山に来たのは初めてで、人が多いだろうということは分かっていたが、これは想像以上だ。
 あさがおの柄の浴衣を着た人が通って行った。浴衣を着た人がちらほらと目につく。カップルも多い。佐々野さんならどんな浴衣でも似合いそうだ。なんとなくそんなことを思った。
 警察官がぱらぱらと交差点に出てきた。時計を見上げると、針は18時3分前を指している。飯田君は交差点の方にカメラを向けて準備万端の態勢だ。しばらくして小型の輸送車が近くに止まった。18時きっかりになって四条通りが封鎖されて歩行者専用になった。
「撮れた?」
「ばっちり」
 四条通りは歩道から出てきた人であふれかえっている。これから交通規制がされている範囲の外周を一周する予定でいる。
「ちょっとは、お祭りも見ていく?」
「えっ、別に。人が多いとこは苦手やし」
「後祭に行くからええかあ」
「うん」
 できるだけ明るいうちに回った方がいい写真が撮れるに違いない。
 まだ見たことのない車両が待っている。 


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