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【連続小説】オリジン

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最初の物語を読み切りの超短編小説として書きましたが、連続小説の形に変え、全9話で完結となりました。
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オリジン⑨(最終話) セカイ

オリジン⑨(最終話) セカイ

「今夜は満月だな」
エレワがマカロニに声をかける。

「おう、エレワ。呼び出して悪かったな」
「別にいいさ。明日は漁が休みだ。少しくらい寝るのが遅くなっても構わない」
そう言ってエレワはマカロニの横に腰を下ろす。

「エレワ、文字を覚えたか?」
「少しずつ覚えてるところだ」
そう言ってエレワは、砂の上に指で三つの単語を書いた。

canaha (カナハ)
yuak (ユアク)
cchino (チノ

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オリジン⑧ 繋がる人びと

オリジン⑧ 繋がる人びと

森に囲まれた村「カナハ」
海辺の村「ユアク」

二つの村を初めて往復したのはイトナという一人の男だった。

いつしか二つの村を結ぶ道ができ、数多くの人間が行き交うようになった。

カナハからユアクへは、ウルの干し肉や木の実、そしてチョコレイトが運ばれた。チョコレイトは、海辺の土地では育たなかった。

ユアクからカナハへは、干し魚や野菜、果物が運ばれた。

あるとき、二つの村のあいだにある草原で、モ

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オリジン⑦ 二人の物語

オリジン⑦ 二人の物語

イトナはコレムトに語った。

海について。
海辺の村について。
そこで暮らす人びとについて。
人びとが話す言葉について。

コレムトはイトナに語った。

村長になったことについて。
大きくなった村について。
チョコレイトの木について。

「チョコレイトの木を育てたのか。それはすごい。俺にも教えてほしい。海辺の村でもチョコレイトの木を育てて、食べさせてあげたい」
「また海辺の村に戻るのか?」
「ああ

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オリジン⑥ コレムトの村

オリジン⑥ コレムトの村

イトナが村を去り四年の時が流れた。

コレムトは村で一番の弓矢の名手であり、人間の倍の背丈もあるウルを前にしても怖気づくことのない勇猛さがあった。また、コレムトの草色の大きな瞳は、時には強く輝き、時には優しさに満ちた潤いを持って村人たちを惹きつけた。

コレムトが村長になるのは自然の流れだった。

そしてコレムトは長老のもと、チョーリと婚姻の契りを結び、村の中央に住居を構えた。

コレムトが村長に

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オリジン⑤ 海

オリジン⑤ 海

「これがウミなのか…」

海である。
イトナは目の前の光景に圧倒された。

どこまでも広がる青。
遥か彼方の水平線。
寄せては返す波。
海上を飛び交う鳥たちの鳴き声。

すべてが新鮮で美しく感じられたが、イトナはそれを表す言葉を持っていなかった。ただ黙ってずっと海を眺めていた。

やがて夜になり、月明かりが海を仄かに照らし、イトナは静かな波音を聴きながら眠りについた。

〜〜〜〜〜〜〜

翌朝イト

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オリジン④ 荒野

オリジン④ 荒野

崖を降りると荒野だった。

荒野はどこまでも続いていて、地平線の彼方に荒野の終わりは見えなかった。

イトナは荒野を歩き続けた。

夜が訪れるたびに、腰につけた鹿の皮に印を刻み、村を出てからの日数を記録した。

ウルの干し肉とチョコレイトはとうに食べ尽くし、ときおり見かける小動物を捕らえて、なんとか糊口を凌いだ。

村を出てから三十六日経ったとき、イトナの目の前に大きな川が現れた。これほど大きな川

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オリジン③ 旅立ち

オリジン③ 旅立ち

「俺はウミを見てみたい。村を出る」

イトナはコレムトにそう告げた。

「ウミ?いったいどこにある?それに長老が話してるだけで、本当にウミというものがあるのか分からない」
「それでも俺は行く。あのあと俺も長老にウミのことを訊いてみた。南のずっと遠くへ行けばウミがあるかもしれないと言っていた」
「南へ行ったら崖で終わりだ」
「崖を降りる。縄を作って、崖の縁にある木に結びつければ、縄をつたって降りられ

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オリジン② ウル追い

オリジン② ウル追い

ディスコの森の奥深い場所で、コレムトとイトナがじっと息を潜めている。

ウルを追って8日、やっとウルの巣を見つけた。

春はウル追いの季節だ。ウル追いは村の若い男の仕事とされている。ウルを捕まえて村に持って帰らなくてはならない。今年はコレムトとイトナがウル追いをすることになった。

コレムトとイトナは、ウルが巣穴から出てくるのを待っている。近づきすぎるとウルに警戒されてしまう。遠くに離れすぎると矢

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オリジン① とある誕生の物語

オリジン① とある誕生の物語

草色の瞳をしたコレムトが狩りを終え、鹿を引きずりながら村に帰ってきた。腰には大きな豆をいくつかぶら下げている。

「スコの森の奥で豆を見つけた。もしかしたら食べられるかもしれない」

空色の瞳をしたイトナが、コレムトからその豆を一つ受け取る。
「チョーリの瞳と同じ色だ」

首飾りを直していたチョーリが振り向く。チョーリの瞳は土色だ。イトナがチョーリに豆をわたす。

チョーリが豆の表面を撫でながら言

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