【読書】警視庁公安部外事課
出版情報
タイトル:警視庁公安部外事課
著者:勝丸 円覚
出版社 : 光文社 (2021/9/22)
単行本(ソフトカバー) : 200ページ
日本を守る最前線
著者は約20年間の警察人生ほとんどを警視庁公安部に勤めたという。その間、3年間は外務省に出向し某国日本大使館の警備対策外交官として活躍し、帰国後、在日各国大使館と警察との橋渡しをする外事課のリエゾン担当となったというベテランだ。そして退職して書いたのが本書である。最近ではテレビドラマのVIVANTの公安監修をした。本書のような「公安」についての本を執筆するには打ってつけの人物である。
スパイ天国と言われる日本。スパイ防止法のない中で、いかに日本の技術を守り、機密情報を守り、治安を維持し、国家を守るか。
この本を読むと、それは本当に地道な努力の積み重ねであると、よくわかる。地道、というか地味すぎる、というべきか。基本的には目立ってはいけない「溶け込む」ことがお仕事のベースなのだ。
それぞれの立場の方が、体を張って、時には命の危険も省みずに日本を守ってくださっているということがわかる。それを思うと…胸が痛むし、感謝の言葉しか、ない。
本書は非常に読みやすい。面白いエピソードが多く、読んでいて飽きさせず期待を裏切らない。本書は普段は目立たない「公安」の人々が何をしているのか、関心を持つのにぴったりな一冊だ。
そもそも公安とは
通常の警察とは、取り締まりや監視の対象が異なる。
「ミクロの目線から日々の市民生活を守るのが普通の警察で、マクロの目線から日本という国家全体を守るのが公安」p19 と考えればいいそうだ。
公安(スパイ)に向いている人
公安(スパイ)に向いているのは、健全な愛国心を持ち、質素な生活に耐えることができ、家族を愛している人、だというp25-p26。
また社交性も必要だとのことp29。
あまり極端な思考や思想を持っている人は向いていない。そして捜査には結構大きな予算がつくこともあるので「道徳心」や「健全な経済観念」を持っていなければ、あっという間に汚職にまみれてしまう。また愛国心の基本は家族愛だとのことだ。家族を愛していればこそ、「家族の住む祖国を守ろう」ということになるのだろう。
ある程度、誰とでも関係構築し、必要な情報を得る。「笑顔を絶やさず、常に相手のことを思いやり、懐に入っていくようにする。ときには無理な頼みごとも聞いてやる。そうしたことを積み重ねていううちに…重要な情報をくれるようになる」のだというp29。
見張ることでしか守ることのできない日本
日本は、スパイ天国であるという。著者 勝丸によると、例えばロシアからは常時120人!ほどのスパイがいるという。
日本は法律上、「見張る」以上のことはできない。もちろん法律を犯せば逮捕もできるが「スパイをしたから逮捕」するのではなく不法侵入とか窃盗とか横領とかで逮捕することになる。
そもそも外交官は「不逮捕特権」を持っているので、情報を渡す側の日本人は逮捕できても、外交官がスパイであれば何度でも日本に舞い戻ってくる。イタチごっこなのである。
逆に言えば、これ以上ないほど、日本の公安は「見張る」「監視する」の達人なのである。
以下はネタバレを含むので、ネタバレを飛ばしたい方は、もくじをお使いください。
*ここからネタバレ
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勝丸はいう。
コワリョフはロシアのスパイの名前である。またロシアのスパイ組織SVRやGRUやFSBについては本書をお読みいただくか、「日本を守る情報関連組織:各国との比較」をご覧いただきたい。
またスパイは、外交官や外交武官のみならず、商社マン、留学生なども。ロシアは元々のスパイを民間人に装わせ、中国は適宜、都合が良い人をスカウトする。ロシアの例では
なぜこれほど日本にスパイがいるのか、といえば、豊富な技術情報、ゆるいセキュリティ、他国のスパイとの接触が挙げられるという。
具体的なテクニック
点検と消毒
点検とは、自分が尾行されていないか、チェックすること。消毒とは、尾行を巻くことであるp55。
強制尾行、秘匿尾行
強制尾行は対象者につきまとい、相手の意図する行動をさせないようにすること。秘匿尾行は、いわゆる尾行で、相手に見つからないように相手の行動を監視し、必要な情報を得るための尾行であるp50。
失尾、脱尾
失尾は対象に気づかれたり逃げられたり見失うこと。脱尾は高度な判断によりあえて尾行を止めることp50。
「スパイの外交官A」と「Aに接触するスパイでないB」がいたら、Bを尾行するという。そもそも外交官は逮捕できない。
外国では、国によっては外交官Aを拉致などして、スパイ実態を自白させる、などしているのだろうか?
格付け
具体的なエピソード
これこそ本書の真骨頂なので、ぜひ、本書を読んでほしい。ここではほんの少しだけ、概要を述べることにする。
大使館でのカジノ
富裕香港人などを招いてカジノなどを開くという。大使館は日本の中の外国なので、日本の司法権が及ばない。警察官が立ち入ることもできない。だが、そういう不法行為が表沙汰になり、外務省が公式に知るところになれば、監督責任などのある大使などに対して、PNG(ペルソナ・ノン・グラータ)(外交官として相応しくないので国外退去処分にする)を通告することになる。これは大変不名誉なことで、本国での評判は落ちるし、その国の国際的な評判も落ちるという。
日本を守る情報関連組織:各国との比較
ロシアを基準に情報関連組織の比較図が掲載されていた。米国、英国とも対応する組織がはっきりしているのに日本は、組織が分散されている印象である。なんとか整備はできないものなのだろうか。今は過渡期ということなのだろうか。防諜組織がないというのは、どうなのだろう。
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*ネタバレはここまで
本書を読んで
この本と並行して「閉された言語空間」を読んでいた。いや「閉された言語空間」を読む合間に、これを読んでいた、というべきか。「閉された言語空間」は米国政府が戦時中いかに周到に言論統制を計画し、戦後いかにGHQが実行したかを一次資料をもとに読み解いた江藤淳の著作である。しかもそれは日本占領は終わっても言論統制はまだ自主検閲=忖度という形で残っており、じわじわと日本文化を内部崩壊させているという。言論統制と防諜や諜報、各種工作は同じ目的を持つ事柄の表裏の関係にある。実際日本への言論統制を担っていた米政府の機関はその後のCIAへと変化した。
そういう全体を俯瞰して見るに、日本にスパイ防止法がないのは、著者 勝丸のような最前線でスパイと向き合っている方にまったくもって申し訳ないし、また、スパイ防止法どころか、もっと全体的に今の日本にふさわしい「情報機関」のあり方を考えて行くべきなのではないか、とすら思うのだが。これは行き過ぎた考えだろうか?
いや、まずは著者のような公安の方たちが日夜日本を守ってくださっている、という現実を多くの日本人が知るのが大切、ということなのだろう。
引用内、引用外に関わらず、太字、並字の区別は、本稿作者がつけました。
文中数字については、引用内、引用外に関わらず、漢数字、ローマ数字は、その時々で読みやすいと判断した方を本稿作者の判断で使用しています。本文内『「」pページ』の「」中は、pページ内文章をそのまま記述していることもありますし、pページ内に記述されている重要部分を本稿作者により要約していることがあります。
おまけ:さらに見識を広げたり知識を深めたい方のために
ちょっと検索して気持ちに引っかかったものを載せてみます。
私もまだ読んでいない本もありますが、もしお役に立つようであればご参考までに。
これから発売される本です。2023年11月22日出版予定。
著者の事務所のHP。話題のドラマ VIVANTの公安監修もしている、と。
人気ドラマの書籍化。著者 勝丸はこのドラマの公安監修をしたという。
著者はYouTube番組も持っている。
インタビュー番組。新幹線へのテロも未然に防いだ、と。
こちらもインタビュー番組。このふたりで新しい本を出版予定。
珍しく立件されたスパイ事件。当時の農水大臣まで巻き込みマスコミも報道した。外務省の出頭要請にもかかわらず、李は出国していった。
Wikiから戦前の情報関係組織図と、現在の組織図(多少の解説付き)を掲載する。詳しく見てほしい、というよりも、戦前のある程度のスッキリさと、現在の組織図の複雑さ(まるで複雑骨折しているかのような)を見て欲しくて掲載した。戦前が素晴らしい、と言っているわけれはない。防諜は国に関する免疫システムであるような気がしている。
防諜機関を整えていくためには、国民一人ひとりが「日本とはどういう国なのか」「どういうことを脅威に感じどう守っていく必要があるのか」「だからどういう防諜機関が必要なのか」を考えていく必要がある時期に来ているような気がしているのだが…
各国の情報機関の一覧。日本については最後の方に記載されている。いかに戦前のものと、現在のものを抜粋してみた。
戦前
明石機関 - 明石元二郎大佐がロシア工作を目的に欧州で育成した協力者グループ
特務機関 - 明石機関をモデルに大日本帝國陸軍省・海軍省・外務省・民間企業・民間人が創った情報機関群
日露通信社 - 旧日露貿易通信社
露西亜通信社 - のちに日露通信社を吸収して日蘇通信社に改称
現在
日本の情報機関として有名なものに内閣官房の内部組織の内閣情報調査室(内調)がある。内調は主に情報の集約やオシントを行っている。またその他の情報機関として、警察庁警備局(公安警察)、外務省国際情報統括官組織、防衛省情報本部、法務省公安調査庁などが挙げられる。
日本の情報機関において特徴的なのは、警察(公安警察)が人事面で優勢である点にある。日本の情報機関における取りまとめ的な位置づけである内閣情報調査室には警察官僚やノンキャリアの警察官が数多く出向しており、トップの内閣情報官は創設時から警察官僚が代々起用されている。また、外務省国際情報統括官組織、防衛省情報本部、公安調査庁などにも警察官僚が出向している。
日本の情報機関の一覧は以下の通り(★印は内閣情報会議または合同情報会議のメンバー)。
内閣
日本の政治の中枢である内閣における政策を審議・決定するために、第2次安倍政権下で国家安全保障会議 (NSC)が設置され、NSCへ政策を提言・立案する下部組織の事務局として国家安全保障局が設置されている[1][2]。国家安全保障局が政策を提言・立案するためには様々な情報が必要であり、内閣官房に設置された日本政府の情報機関の代表のような性質を有する内閣情報調査室(内調)も情報を提供している機関のひとつである。内調は外国政府の情報機関との公式なカウンターパートとなっており、内調トップである内閣情報官は定期的に首相に内外の情勢報告を行う。また政策提言・立案のため国家安全保障局と内調の情報が共有される必要があるため、警察庁出身者のポストとなる国家安全保障局の情報部門の班長には内調からの出向者が当てられる。
また、縦割り行政を排し各省庁間のインテリジェンス・コミュニティーの連携を図るために、年2回事務次官が集う内閣情報会議が開催され、隔週ごとに局長級が集う合同情報会議が設置されている。
カウンターインテリジェンス推進会議[3]
内閣官房 ★
内閣情報調査室 (CIRO) ★
カウンターインテリジェンス・センター
国際テロ情報集約室
内閣サイバーセキュリティセンター (NISC) - サイバーセキュリティ対策(防諜)組織
国家安全保障会議 (NSC)
国家安全保障局 (NSS)
警察
治安維持を目的とした法執行機関であるが、公安警察はカウンターインテリジェンスを任務としており、警察庁警備局が全国の公安警察を指揮下に置いている。国際テロ捜査のために国外に警察官を派遣することもあるほか、在外公館警備対策官として在外公館に警察官を派遣している。