【読書】日本とユダヤの古代史&世界史 その1
出版情報
著者:茂木 誠、田中 英道
出版社 : ワニブックス (2023/6/9)
単行本 : 304ページ
本書の内容と本稿の構成
お気軽に読んで、よくわかるようにできている本なので、特にこんなことする必要ないかもしれないけど、とても濃い内容だったので、私なりに整理した。本書の紹介と感想である本稿も、この順番で行うのが相応しいように思う。 注:この順番がそのまま本書の「もくじ」ではありません。
本稿は下記のような一連のシリーズの1. ユダヤ人とは何者かです。
ユダヤ人とは何者か
ユダヤ人と日本人の関わり
古代日本にユダヤ人が来ていた!そのうち第5波
大航海時代と改宗ユダヤ人
著者のひとりである田中英道の方法論 フォルモロジー(形象学)に関しては、2-1 古代日本にユダヤ人が来ていた!そのうち第1波〜第2波まで に記載しています。
ユダヤ人とは何者か
2022年2月24日以降世界で一番有名なユダヤ人といえばウクライナのゼレンスキー大統領だろう。そして私たちの暮らしにユダヤ人たちが大きく関わっているといえば驚くだろうか。マクドナルド、スターバックスといった飲食系、GAP、リーバイスといったアパレル系、フェイスブック、グーグルなどIT系、ゴールドマン・サックス、リーマン・ブラザーズなど金融系、ロイター、ブルームバーグなど新聞・メディア系、ラルフ・ローレン、カルバン・クラインなどファッション系の各企業の創業者、冒険家のコロンブスも、音楽家メンデルスゾーンも、ビリー・ジョエルもボブ・ディランも、精神分析のフロイト、相対性理論のアインシュタイン、原爆開発のオッペンハイマー、政治家ルーズベルト、みんなユダヤ人だ。なんと日本企業、セガ、タイトーの創業者もユダヤ人なのだ(彼らは1950〜60年代に創業している)。
日本人から見ると、漠然と、ユダヤ人の印象は、お金持ちで、頭がよく、なんとなく閉鎖的。それまで住んでいたアラブ人を押し除けてイスラエルを建国し、世界金融を牛耳り、武器商人もたくさんいる。いわゆるディープステートを構成するのも、彼ら、という陰謀論もまことしやかに囁かれる。イスラエルという国家はスパイ活動が盛んで米国CIAか、英国MI6か、イスラエル モサドか、とも言われている。
地球の人口が80億人に迫ろうとする現在、ユダヤ人の総人口は1500万人程度。それでいて世界中のマネーが集まるニューヨークのウォール街にはユダヤ人によって支配されているらしい。
ユダヤ教という一神教を信じていて、そういえば、イエス=キリストもユダヤ人だった。旧約聖書はユダヤ教、キリスト教、ユダヤ教で共有していて、この3つの宗教は聖地エルサレムも共有している。
国を失って2千年間も世界中を彷徨い続けていても、「ユダヤ人」というアイデンティティを持ち続けている謎の民族…
…そんなユダヤ人が古代日本に来ていたとしたら??
そして、日本神話のスサノオやサルタヒコのモデルとなり、秦河勝(はたのかわかつ)や武内宿禰(たけうちのすくね)と名乗り天皇を助け、古墳時代に土木技術を伝えて16万基もの古墳を日本中に作り、千葉県などに大量に残る武人埴輪のモデルになったとしたら?大陸のDNAと思考で、天皇すら弑虐し、権勢を誇った政治家 蘇我馬子がユダヤ人だったとしたら?
荒唐無稽に聞こえるかもしれない。だがユダヤ人が日本にきていたと思わせる痕跡が、偶然とは思えないほど、数多く残されている…。
例えば千葉県にある武人埴輪と伝統的なラビの装束。
そして国を失って以来、世界中どこででも同化せずアイデンティティを保つ民族であるユダヤ人が、日本では見事なまでに同化したのだとしたら…
それは新しい日本史観であり、新しい日本人論となり、新しいユダヤ人論にならないだろうか?
そんな知的冒険がコンパクトにまとめ上げられているのが本書なのである。
なんども国を失い、虐殺の憂き目にあうユダヤ人
第二次世界大戦のアウシュビッツでの悲劇を知らない人はいないだろう。ユダヤ人大虐殺。あってはならない。知れば誰もがそう思う出来事だ。
だがユダヤ人は3千年間何度もこのような悲劇に見舞われてきた。読むだけでも胸が痛む…。それでもユダヤ教を捨てなかった人々。生き延びるために転向せざるを得なかった人々。あるいは望んで他民族に同化していった人々。人類史の一部だ。
詳しくは世界史の窓をご覧いただくとして、ここではユダヤ人の過酷な歴史の一端を感じる機会となればと思い、主に受難の出来事を抜粋した。
前13世紀ごろ 出エジプト 奴隷暮らしに限界!モーゼに導かれ脱出
前722年以降 アッシリア捕囚と失われた10支族
前586年 バビロン捕囚 捕えられ再び奴隷に!
前135年 ユダヤ戦争に敗れローマ帝国内を離散(ディアスポラ)
325年 ニケーア公会議 キリスト教とは違う!「神聖を汚す」と
11世紀 十字軍結成によりヨーロッパ内ユダヤ人の迫害始まる
13世紀 教皇により異教徒 差別バッジ 着用義務化
13世紀 イギリスにて追放令、フランスにて追放令
14世紀 フランスで井戸に毒を投げ入れたと濡れ衣にて大虐殺
ドイツにて無頼な貴族が大虐殺
黒死病について濡れ衣を着せられヨーロッパ中で迫害
⇨ 多くのユダヤ人がポーランド、ウクライナへ
アシュケナージとなる*
レコンキスタ後のスペインでも、迫害、キリスト教への強制改宗
⇨離散ユダヤ人が地中海世界へ
スファラディとなる*
⇨改宗ユダヤ人はコンベルソと呼ばれる
15世紀 16世紀と宗教改革が起きても迫害状況は続く
17世紀 ポーランドで国王に過剰に庇護されていると反目され虐殺が続く。
18世紀 フランス革命を経てユダヤ人が人権を得て、ゲットーを解放。
帝国主義、ナショナリズムの高揚、民族主義の時代の波により
反ユダヤ主義は続く
1880年 ロシア内で激しい迫害ポグロム(破壊)が起きる。
これが今日のウクライナ戦争にも続いていく
20世紀 ナチスによるホロコースト
1948年 イスラエルの建国
他にヨーロッパに渡らず中東付近に残ったユダヤ人はオリエント・ユダヤ、エチオピアのユダヤ人はファラシャと呼ばれるそうである。
*註 :世界の窓での名称はセファルディ、アシュケナジームであるが、本稿では本書の訳を採用し、スファラディ、アシュケナージとよぶ。
歴史に名を残さないユダヤ人の処世術
ユダヤ人の処世術を田中は以下のように表現する。
目立っていては、生命が危うい、のである。だけれども必要な時には活動しなければ、日々の暮らしは成り立たない。ジレンマがあっただろう。
日本で教えられている世界史では、ユダヤ人は出エジプトやダビデ王などが比較的詳細に扱われた後、次に登場するのは20世紀になってから、なのだそうだ。
表舞台には登場しない。そうせざるを得ないのは、歴史上なんども追放され、虐殺されてきた、という痛みの歴史を抱えているから、だ。
そして世界も、「反省」の名の下に、ユダヤ人を語ることをタブー視してきた。
止まらない陰謀論
今どきだと、陰謀論と言えば、Qアノンがー、とか、ロスチャイルドがー、とか。特定の少数者が陰謀をめぐらして、人々が気づかないうちに世界を特定の方向にコントロールしようとしている、という根拠のないお話のことだ。
茂木によると「世界征服をたくらむユダヤの陰謀論」を描いた初めての小説は1868年に出版されたという。
ゲドシェは秘密警察に関わっていた、という話もあるようだ。ユダヤ陰謀論の定本のである『シオン賢者の議定書』(通称プロトコル)が書かれたのは1890年代でロシアでポグロム(破壊)の後だ。
1860年代〜1920年台にかけて。シャーロック・ホームズ シリーズが出版されたのは、そのちょっと後(1887〜1927年)。それまでは、都市であっても顔見知りが多かった。だけれど産業革命によって人々が都市に流入し、周り中、見知らぬ他人だらけという状況が急に出現した。探偵小説は相手がどういう人か知りたい、という都市住民の好奇心を満たすもの、あるいは都市住民の不安感をベースにしている。フランス革命後、ユダヤ人はゲットーから解放され、都市の中に紛れた。ロシアからは大勢のユダヤ人が流入してくる。陰謀論を煽った各国秘密警察と不安感を元々感じていた市民たち。「ユダヤ人陰謀論」にみなで加担した、というところなのだろうか。
ユダヤ問題についてオープンに語る
ユダヤ問題とは一言でいえば、ユダヤ人、非ユダヤ人がともに抱える社会的、政治的軋轢といったところだろうか。「常に犠牲者であり、ディアスポラであり、難民である可哀想な民族」(p274)というユダヤ人に対する見方と、「ユダヤ人が秘密裏に世界を征服しようとしている」というユダヤ人陰謀論。ナチスのホロコーストの後、ユダヤ問題はタブー視されているようだ。田中はユダヤ問題について次のように述べている。
田中はそれは「我々ひとりひとりだ」といいたいのだろう。田中は続ける。
ユダヤ問題はオープンに語る時代が来ている、と。さらに田中は続ける。
「『語られるべきユダヤ問題』というのは『マルクスをどう捉えるか』ということにも関わってくる」。これについては本稿の その4:ユダヤ人と日本人のこれから で扱うことにする。
世界の中でのユダヤ人:ユダヤ人に対する第3の見方
上の項では、2つのユダヤ人への見方を紹介した。
ユダヤ人への第1の見方:常に犠牲者であり、ディアスポラであり、難民である可哀想な民族
ユダヤ人への第2の見方:「ユダヤ人が秘密裏に世界を征服しようとしている」というユダヤ陰謀論で語られる反ユダヤ的立場
この第1の見方はマルクスの破壊的歴史観に帰結し、第2の立場はホロコーストに帰結している。(前者について詳しくは本稿の その4:ユダヤ人と日本人のこれから で述べる)。
田中は、ユダヤ人に対する第3の見方がある、という。それは
ユダヤ人への第3の見方:そこに帰る国イスラエルがあり、歴史と誇りがある民族なのだ p274
この第3の見方がこれからのユダヤ人との付き合いの鍵になるのではないか。しかも日本人は古代から、このようにユダヤ人を遇していたのではないか、というのが本書の言わんとするところだと感じている。
引用内、引用外に関わらず、太字、並字の区別は、本稿作者がつけました。
文中数字については、引用内、引用外に関わらず、漢数字、ローマ数字は、その時々で読みやすいと判断した方を本稿作者の判断で使用しています。
おまけ:さらに見識を広げたり知識を深めたい方のために
ちょっと検索して気持ちに引っかかったものを載せてみます。
私もまだ読んでいない本もありますが、もしお役に立つようであれば。
世界史の窓。すごくよくまとまっていると思います。参考書も掲載されています。
田中先生がいい本だと言っています。
茂木誠のyoutubeチャンネル
田中英道のyoutubeチャンネル
wikiによると、田中英道のyoutube番組で面白そうなのは、コレらしい。
✨記事執筆のために有意義に使わせていただきます✨