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ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ

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Twitchのクリエイターについてページで連載中の小説まとめです。
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ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ その後

ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ その後

――数年後

チョイスは見知らぬ土地でとあるショッピングモール内の旅行代理店の窓口の職を得た。全国を旅していたのが面接官にウケたようだった。

「いらっしゃいませ」

カップルが来店した。少しやんちゃそうな背の高い男と、青い髪の美女。

「ハネムーンですか?」
「はい」

2人は仲睦まじく、ニコニコしている。

「今ちょうど、ハネムーンのお得なキャンペーンやってまして」
「へー、よかったね」
男が

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ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ 第10話

ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ 第10話

チョイスは毎日配信をした。

受け入れられない過去の自分の正体を探していた。

わがままで不器用で何の才能もない平凡以下の人間が、この世界に生きる意味を探していたのだった。

俺がこの世界で生きていてもいいと言ってほしい、ある種の自己顕示欲を満たしたいと、日雇いを続けながら1日数時間、必死にかかさず配信を続けた。

あるゲームのワンシーンが彼の心に突き刺さった。

ゲイであることを隠してきた主人公

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ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ 第9話

ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ 第9話

そうは言っても家賃は待ってはくれない。チョイスは残り1週間で5万ほど稼がなければならなかった。決して不可能な数字ではなかったが、身も心も怠けきったこの男にはかなりの苦痛であった。

日雇い労働は想像以上に過酷である。割の良い案件はすぐに人員が埋まり、働くのが面倒だ、と仕事を探すことを恐れている人間のもとには転がり込まない。

そしてようやく見つけた仕事の内容はたいてい重いものを運ぶのが主で、監督官

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ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ 第8話

ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ 第8話

夜が明けてチョイスは自分の甘さに気がついた。だが自分の愚かさにはまだ気づいていなかった。30分もすれば帰ってくるだろう。1時間もすれば帰ってくるだろう。2時間もすれば帰ってくるだろう。ルーシーが帰ってくることしか彼は想像できなかったのだ。そして、彼女にどっぷりと骨の髄まで甘え切っていたことには気づいていない。

あいつは俺が好きだったのだ。俺以外に行くところがあるわけがない。そう信じていたのだ。

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ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ 第7話

ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ 第7話

どういうこと?

何してたの?

配信は?

お金ないよ

どうするの?

家賃はどうでもいいけど

これからあなたはどうしたいの?

配信はしないの?

働くの?

ねえ

なんでだまってるの?

なにか言ってよ

働くよ

配信はちょっと休む

働くから

今仕事探してるの

すぐに見つからないから

金稼ごうと思ってパチンコ行ったの

昨日まではお金あったの

どうにかしようと思ってたの

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ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ 第6話

ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ 第6話

配信をしなくなってから1週間が経った。ルーシーにはまだ企画が固まらないんだ、この企画に懸けているから入念に仕込みたいんだ、と言い訳をした。おそらく彼女は気づいているだろうとチョイスもまた気づいていた。お互いに馬鹿ではなかった。そしてお互いに愚かだった。

彼は配信をすることで多少の活力を得ていた。逆を言えば配信をしなければ風呂に入ることも飯を食うことも忘れかけていた。ルーシーがいることでかろうじて

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ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ 第五話

ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ 第五話

チョイスは今日も配信をした。明日も配信をするだろう。
誰のために? 何のために?
生活のためだろうか。収益は2ヶ月もゼロのままだ。
たまにコメントをしにくる視聴者のためだろうか。
二言ぐらいしゃべって去っていく、通行人みたいな奴らのために?

2日後、チョイスは配信をしなかった。
配信をしない理由はなかった。用事もなかった。
その逆もしかりで、配信する理由もなくなってしまっていた。
日がな一日、だ

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ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ 第四話

ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ 第四話

「どうだった?」
「よかったよ」

「どうだった?」
「よかったよ」

ルーシーとの生活は質の悪いアニメだった。
どの街もどの場面もどの展開も平坦な、代わり映えのない世界。
しかし、炊事洗濯その一切を任せていたチョイスにとって、
彼女は必要不可欠なものになっていった。

彼は退屈した。
「よかったよ」
なにが? どう? 
俺が暗い顔をしていようが明るい顔をしていようがよかった。
よかっただけ。

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ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ 第三話

ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ 第三話

配信で住所を言うべきではなかったなとチョイスは後悔していた。
自分のような知名度が低い者にいたずらを仕掛けてくるような人間はいないだろうと高をくくっていた。
住所や本名を公開してしまったほうが気が楽だろうと考えていた。

ぽみみ改めルーシーが家に転がり込んできた。
「私がいたほうがなにかと楽だよ?」
彼女は屈託のない笑顔でそう言うと、自身の荷ほどきも早々に、ぞんざいに転がっていた掃除機を拾い上げ半

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ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ 第一話

ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ 第一話

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

チョイスは右手にある窓に目を向けると、また雨だと独り言ちた。それは黒いマイクを通して10人の耳に届いた。チョイスはまた画面に向き直った。
春の小雨は3日間続いていた。
「まぁ僕は外に出ないので関係ないですけどね」
女の言葉が文字になって画面に表示される。これから仕事で雨は困る、と。
「お気をつけて、帰ってきてもまだやっている

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ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ 第二話

ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ 第二話

彼女は名乗らなかった。
インターネット上の名前だけで、チョイス、ぽみみと呼び合った。
チョイスにとっては名前など重要ではなかったからだ。この半年間の空虚を埋めるために過ぎない女であった。
そんな男を誘惑するのは簡単であったようで、二人が出逢うのにそれほど時間はかからなかった。

彼は彼女を抱き、彼女は彼に抱かれた。
裸の肌が汗とともに混ざり合った後でチョイスは言った。
「楽しかった、また会いたい」

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