小さな声でささやかれたことが記憶に残っている

この間、買い物をしようと店に入りかけたとき。

「そんな小さな声じゃ、聞こえないでしょ!」

店のわきで、若いお母さんが3つくらいの子に声をあげていた。

女の子は、泣きそうになりながら、何か一生懸命に訴えている、ようだ。

聞こえないけれど。

でも、泣くのをこらえながら、うつむきながら、何かいっている。

お母さんは買い物袋をいくつも持って、立ったまま。


気になったけれど、眺めているわけにもいかないので、店に入った。

数秒後、

うわ~~~ん

と泣き声が聞こえてきた。


聞こえなかったんだな。

お母さんに。

届かなかったんだな。

耳に。


私にも同じ経験はたくさんあって。

自分に余裕がない時、小さかった息子にぐずられてしまうと、

「なに!?」と大きな声で聞いた。

それは、叱っているのと同じ。

聞いていなかった。


でも。

聞けたことが、あった。


旅先の、温泉でのこと。

家族3人で、ゆったり温泉につかって。

お風呂を出た先に、水飲み場があった。

とてもいいお水で、「お風呂上りにどうぞ」とある。

息子も夫もおいしそうに、飲んで。

私はその前に少し飲んでいたので、飲まずに待っていた。

「さあ、部屋に戻ろう」

声をかけると、息子が黙って、急に不機嫌になった。

「どうしたの?」と聞いても、答えない。

口をキュッと結んで、しゃがみこんでしまった。

困った。


旅館で、みんなくつろいでいて、騒ぎたくもないし。

私も、いい気分をこわしたくないし。

旅先で、気持ちに余裕があったし。


しゃがんで、息子の顔を覗き込んだ。

「どうしたの?」

すると、チラッと私を見て、またうつむく。

「何かあったのかな?」

すると話そう、と力を込めている気配があって・・・

「あのね・・・」
ささやくような、小さな声。

「ん? なあに?」

耳を寄せる。

「あのね・・・

お母さんにね、お水を、あげたかったの」

「!」

私が、飲まなかったから・・・


「ありがとう。
じゃあ、ちょうだい」

ぱぁっと笑顔になった。

コップに水を入れて、差し出してくれる。

「どうぞ」

「ありがとう!」

飲んだ水の、おいしかったこと。

するすると、のどを透明にした。


ささやくような声が、くすぐったかった。

届いた言葉が、私を潤してくれた。


数少ない、ちゃんと聞けた思い出だから、おぼえている。

もっと、聞けたらよかったのに。

そんな後悔ばかりが、私を包んで。


大きくど叫ぶように「ちょうだい!」

「だっこ!」

「いやだ!」

大きな声も、残ってはいるけれど。



ささやくような、小さな、甘い、声。

私の中のレコーダーに、大切にしまってある。

どんな大きな声よりも、残っているから。



※イラストはアリエルさんにお借りしました。ありがとうございます。

ありがとう森バージョン

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