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おしょうゆ味のチャーハンは父の作ってくれた、たったひとつの味

父は「昭和の男」。
育児は気が向いた時だけ。
男は仕事をしていればいい、という、タイプ。

わがままではないけれど、いつも自分のことが中心だった。
人に、というか、家族に合わせることは、ない。
予定や、好みや、生活を。

貧しい農家で苦労して育ったせいか、細かいことをいう。
玉子を割った時、殻に残る白身をちゃんと取れ、とか。
魚の骨の周りもきれいに食べろ、とか。

「お母さん(私の母のこと)はお嬢さん育ちだからな」と冷たくいうことがあった。
母は確かに倹約家ではなかったし、材料を無駄なく効率的に使うのもうまくなかった。

一方、母が嫌がったのは、タオルで鼻をかむこと。
「紙だと捨てるけれど、タオルはまた使える」というのだが、
「洗うことを考えてほしい」と陰で怒っていた。


父と母がそろう休日は、あまりなかった。

父は休日にゴルフや、誘われてどこかに行くことが多く。

母もお出かけ好きだった。

その方が平和でよかったのだけど。


ごくたまに、父だけのいる休日があって。

ある日、珍しく。

「昼飯、食うか」
といって、チャーハンを作ってくれたことがあった。

玉ねぎくらいしか入っていない、おしょうゆ味の、ごはん炒め。

これが妙においしくて。

「おいしい!」というと
「そうか、そうか。お母さんはこういうものは作らないからな」
得意げだった。

おしょうゆ味が香ばしくて、飽きの来ない味だった。


父と母はのちに離婚するのだけど。
母は、父の作ったものを食べたことはないかもしれない。
父は母の料理によく文句をつけていたけれど、母がいるときに作ることはなかったから。


休みの日、たまに息子にチャーハンを作る。
私の作るチャーハンは、いつも具だくさん。

鶏肉、玉ねぎ、にんじん、ズッキーニ、玉子、コーン・・・
あるいは
豚肉、きのこ、長ネギ、ピーマン・・・
などなど。

「具が多すぎ!」と小さい時から、文句?をいわれた。

確かに、ほぼごはんだけのチャーハンっておいしいんだよね。
それは知っている。
でも、栄養を考えないとね。

そう思って。
父のチャーハンを思い出すけれど、息子に作ったことはない。

だけど。
そうだ、今度おかずを別にして、作ってみようかな。

おしょうゆ味の炒めごはん。
ただ一つの父の味。



※イラストはまるいみさきさんからお借りしました。ありがとうございます。


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