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作家・橋本治の研究をしています。まだ著作を全部読めていないので、しばらくはその読書記録…

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作家・橋本治の研究をしています。まだ著作を全部読めていないので、しばらくはその読書記録になります。この10年間ほぼ毎日読書をしてきた私が、本とは関係ない仕事の傍ら何をどのくらい読んだのかのドキュメンタリーでもあります。誰かの読書のモチベーションになれたらいいなという気持ちも込めて

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たった一人が書いた本を読むことに人生を懸けると決めた

作家・橋本治と聞いて、いったいどれだけの人がピンと来るのだろう? 夏目漱石のように学生時代に習って知る人でもないし、SNSで読書家と自負するアカウントでも頻繁に目にする名前ではない。 それでも私は、橋本治の本を読むことにこれからの人生を懸けると決めた。 知る人ぞ知る、ではないけれど、確かに橋本治を読んでいる人はいる。でも全部の著作を読んだ人は恐らくいないだろう。 なぜならば、分野があまりにも多岐に亘るから。 橋本治を知らなくても、よく読書をする人であれば「上司は思いつきで

    • リア家の人々、お前もか……

      文庫になって復刊された『対談集 六人の橋本治』(単行本時タイトルは『TALK 橋本治対談集』)には、最後に文庫版増補として宮沢章夫氏との対談「『リア家』の一時代」が入っている。だから6+1で実際には“七人の橋本治”なのだけど、そうはならなかったらしい。タイトルは変えたのに。なんで今これが復刊されたのか若干疑問に思いながらも刊行記念で読了。出版社の壁を無視して復刊するのなら私は『ひらがな日本美術史』を写真減らしてもいいから縮尺版で出してほしいと常々思っている(マルメロ方式)。マ

      • 災害救援部隊的作家〈橋本治読書日記〉

        再読している『親子の世紀末人生相談』で、橋本治が自分のことを「災害救援部隊的作家になっちまいました」(p.217)と書いていて、ほんとにその通りだと思って笑ってしまった。 人生が切羽詰まって破綻をきたしかけたときに橋本治に出会ったという人は橋本治読者には多いだろう(私の場合は『シンデレラボーイ シンデレラガール』)。まァそこまではいかなくても、ずっと言いたかったけど言えなかったことを言ってくれている!とか。人生相談もそうだが、橋本治の文章は多くの場合「誰のために書いているか」

        • 未来で話そう─少年軍記と人工島戦記

          橋本治はバブル期にマンションを買った。その借金を平成の間中返し続け、遂に返しきって、令和改元直前に亡くなった。 バブルの波に乗ってイケイケになったから買ったわけじゃない(と思う)。 同じように、全共闘運動に乗っていたからあのポスターを書いたのではない(と思う)。この二つはどこか似ている。真意は常に巧妙に隠されている。 1981年5月頃から書かれた「少年軍記」は、約5ヵ月後、編集者への手紙をもって中断され未完に終わる。全共闘世代の女性を主人公とする全共闘の話だ。 その数年後、

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        たった一人が書いた本を読むことに人生を懸けると決めた

        マガジン

        • 橋本治読書日記
          21本
        • 日めくり橋本治
          165本

        記事

          私は一体何を手に入れたのでしょう

          映画を観て初めて知ったんですけど、橋本治・岡田嘉夫『マルメロ草紙』特装版が発売されたとき、全150部にはシリアルナンバーとサインが入っていたそうなのです。 ところが、上の記事で書いたように、私がオークションで入手した本でソレを見た記憶がない。 翌日。引っ張り出して確認したらやっぱりなかった。サインも、シリアルナンバーも。…まァそういうことですよ。オークションに出されたときに外函がなかったというのも…まァそういうことでしょうねェとしか言いようがないのだが、だとしたら私は一体

          私は一体何を手に入れたのでしょう

          映画「豪華本『マルメロ草紙』はこうして生まれた─知られざる8年間の闘い─」

          ドキュメンタリーフィルム「豪華本『マルメロ草紙』はこうして生まれた─知られざる8年間の闘い─」を観に、神奈川近代文学館へ。 「帰って来た橋本治展」関連イベントはこれでおしまい。展示を見るのも4度目を数えて、私がカナブンに行けるのも今日が(ひとまずは)最後、一区切りのつもりで行ってきた。 2013年12月に、限定150部、定価3万5千円で発売された『マルメロ草紙』。完成までにかかった期間は8年、その制作過程は映像に記録されている。 『蝶のゆくえ』が柴田錬三郎賞を受賞し、それに

          映画「豪華本『マルメロ草紙』はこうして生まれた─知られざる8年間の闘い─」

          「帰って来た橋本治展」関連イベントの書き起こしが公開されました。松家仁之さんと橋本治さん実妹柴岡美恵子さんによる記念講演・対談。「冗談と真情と」というイベントタイトルを文字通り現すような場でした。 https://kangaeruhito.jp/interview/759078

          「帰って来た橋本治展」関連イベントの書き起こしが公開されました。松家仁之さんと橋本治さん実妹柴岡美恵子さんによる記念講演・対談。「冗談と真情と」というイベントタイトルを文字通り現すような場でした。 https://kangaeruhito.jp/interview/759078

          新聞の人生相談が炎上して橋本治『青空人生相談所』が再注目されている。古本も根こそぎなくなり、私の居住地の公立図書館も予約ですぐには借りられない。でも、単行本には予約が一件も入っていない…。『親子の世紀末人生相談』でも探してね。私は再編集・抜粋されていない単行本をおすすめします。

          新聞の人生相談が炎上して橋本治『青空人生相談所』が再注目されている。古本も根こそぎなくなり、私の居住地の公立図書館も予約ですぐには借りられない。でも、単行本には予約が一件も入っていない…。『親子の世紀末人生相談』でも探してね。私は再編集・抜粋されていない単行本をおすすめします。

          ただのファンに戻って

          千木良悠子さんの『はじめての橋本治論』は素晴らしかったが、自分のやりたかったことを自分では到達できないレベルでやられてしまったという事実は認めざるを得ない。膝から崩れ落ちて膝の皿が割れるくらいの衝撃ではあった(精神的に)。橋本治が『源氏供養』で紫式部に「ご苦労さま」と書いたように、私も橋本治にそう書くことを憧れてもいたが、千木良さんが本編の締めで「橋本さん、ありがとう。おつかれさま」と書かれているので、もう、完膚なきまでに自分の目標ってなくなっちゃったのかなー、という日々を送

          ただのファンに戻って

          愛すべきひねくれ者─多層体の橋本治

          神奈川近代文学館で開催中の「帰って来た橋本治展」記念講演の第二弾は社会学者橋爪大三郎氏であった。 “橋本治は全共闘に親和的だった”という話があって、私はそれに大きな違和感を覚えていた。闘争華やかなりし濃厚な文脈のなかであのポスターを描いたのだからというのが理由だったと記憶しているけれど、“愛すべきひねくれ者”である橋本治はそう簡単に他人の考え方や既存の思想に乗っかったり迎合するだろうか?どうしてもそうとは思えない。あのポスターだって大いなる皮肉─社会や時代をも客観視した皮肉

          愛すべきひねくれ者─多層体の橋本治

          二度目の橋本治展、講演、『はじめての橋本治論』

          新潮社の編集者だった作家の松家仁之さんと、橋本治の実妹である柴岡美恵子さんの講演と対談を聞きに、神奈川近代文学館に行ってきた。 展示ももう一度見る。初日と違ってお客さんがたくさんいた。 講演もおもしろかった。その場が、橋本治の人柄そのもののような温かい雰囲気だった。笑って泣いて。橋本治が特に好きだった歌詞、鐘の鳴る丘の4番を紹介しようとして泣けてきて読めなくなった松家さんが「助けて美恵子さん」と言ってその流れのまま対談に入ったのには、笑いながらもらい泣きした。お母さんの話、

          二度目の橋本治展、講演、『はじめての橋本治論』

          「帰って来た橋本治展」に行って来た

          『人工島戦記』の発売が発表される前、なんとかして『人工島』を読めないものかと情報収集していたときに知ったのが「少年軍記」という小説である。『人工島』に関する情報が限られているなかで、当時の私は「少年軍記」は『人工島』が『人工島』になる前の仮タイトルかな?と考えていたこともある。つまり同じ小説だと思っていた。今となってみれば『人工島』と「少年軍記」が違う小説であることを知っているし、どちらも未完で終わり、『人工島』は発売されたが「少年軍記」は未発表のままであることもわかっている

          「帰って来た橋本治展」に行って来た

          本に棲むナマズ─3月に読んだ本

          3月に読んだ本 ①『国家の尊厳』先崎彰容 ②『鏡の中のアメリカ』先崎彰容 ③『ぼくは翻訳についてこう考えています 柴田元幸の意見100』柴田元幸 ④『新装版 動物のお医者さん2』佐々木倫子 ⑤『中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史』與那覇潤 ⑥『違和感の正体』先崎彰容 ⑦『池澤夏樹、文学全集を編む』河出書房新社編集部/編(*橋本治の名前だけが一度出てくるのみ) ⑧『維新と敗戦 学びなおし近代日本思想史』先崎彰容 ⑨『なぜオスカーはおもしろいのか?受賞予想で100倍楽しむ

          本に棲むナマズ─3月に読んだ本

          深さを求める読書─1月2月に読んだ本

          1月に読んだ本 ①『歴史なき時代に』與那覇潤 ②『仕事は辞めない!働く✕介護両立の教科書』木場猛ほか ③『偽情報戦争』小泉悠ほか ④『文学研究から現代日本の批評を考える』西田谷洋編 ⑤『大いなる助走』筒井康隆 ⑥『昭和史講義〔戦後文化篇〕(上)』筒井清忠編*橋本治言及あり ⑦『謎解きとコミュニケーション〜語用論から西欧の知を考える〜』山本英一 ⑧『日本人はなぜ存在するか』與那覇潤 ⑨『源氏供養(上)新版』橋本治 論文「橋本治『草薙の剣』論(後)」千木良悠子(「文學界」2024

          深さを求める読書─1月2月に読んだ本

          “桃尻”供養をいつの日か─ももんが忌に寄せて

          橋本治の『源氏供養』が復刊したので、読み返している。 これが復刊したのも大河ドラマ「光る君へ」のおかげだろうけれど、今のところ私の中では橋本治の『源氏供養』は「光る君へ」を食っている。橋本治の『源氏供養』は源氏物語論であるはずなのにそれにとどまらず、読んでいると「紫式部」という人間の体温を感じられるような気がする。難解な言葉もなく、読むのに一年もかからないのに紫式部その人を感じられるような。 橋本治は紫式部についてこんなにすごい文章を書いたのに、橋本治が紫式部を書いたように橋

          “桃尻”供養をいつの日か─ももんが忌に寄せて

          あなたはミーハーですね〈橋本治読書日記〉

          やっぱり橋本治をちゃんと読んでいる人が書いた論文をもっと読みたいな、と千木良悠子さんの「橋本治『草薙の剣』論(後)」を読んで思った(「文學界」2024年2月号掲載)。 今回の地震の被害が明らかになるにつれて胸が押しつぶされそうになる。玄関のお正月飾りをそのままに倒壊している家屋を見ると、一瞬にして崩れてしまったものは家屋だけでなく、生活とその基盤そのものであったことが目に見えるようだ。 『草薙の剣』は日本の100年を描く小説で、人にフォーカスが当たりすぎないからこそ、戦争や災

          あなたはミーハーですね〈橋本治読書日記〉