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夜明けには出発しよう。
眠い目を擦りながら、外出用の洋服に風変わりして、自転車を走らせる。
下り坂で風を切る。冬仕様の冷ややかな空気を横切って、足をペダルから外して風の抵抗を感じる。
缶詰め状態から抜け出すために、ショッピングモールの端に位置するカフェに避難する。
予め本屋を事細かに視察してから、万全の態勢でカフェに降り立つ。
本屋を三周した結果、購入に至った本は二冊。
「夜明けのすべて」と、「ゲームボーイアドバンスパーフェクトカタログ」だ。
兼ねてから私は、夜明けという言葉が大好きだ。
夜という存在が身近なものであると知ってから、背中を向けるのをやめて、親しくなろうとした。
ネガティブになってしまいがちな真っ暗な時間に抵抗しようとはせずに受け入れる。見えない傷を抱えつつ、苦しくなってしまう夜も平等に明ける。
ネガティブを含む思考の迷路に連れてってくれる夜と、太陽という一般社会の架け橋を、夜明けが担っている。
そう私は捉えて、夜明けという言葉を自分なりに大事にしてきた。
自分と重ね合わせて、大切にしてきた言葉は、特別な思い入れがある。
その言葉を町で見かけると、一際目立って見える。
頻出するような言葉ではあるまいし、敢えてこの言葉が選ばれているのを見つけると、思わず拍手を送りたくなりながらまじまじと眺めてしまう。
新商品注目のコーナーに積まれていた、「夜明けのすべて」。
私が向きあってきた夜明けの新しい解釈に出会えるかもしれない。夜に照る光の意味合いが変わってくるかもしれない。
瀬尾まいこさんが著者だ。2019年に「そして、バトンは渡された」で本屋大賞を受賞し、話題でもちきりだった作家さんだ。とやかく考えずにこれは安心していいだろう。
内容をまともに読むことなく、購入を決意した。
「ゲームボーイアドバンスパーフェクトカタログ」は、攻略本の棚の上に追いやられていた、レトロゲーム関連のコーナーを偶然見かけることができたからだ。
他にも、ファミコン、PCエンジン、20世紀アーケード、ゲームキューブ、セガサターンなどのカタログもそこには並んでいた。
幸運にも売り場を発見できてから、買おうと決意するまでが早かった。
どのシリーズにするかを迷った結果、身近な存在だったゲームボーイアドバンスを選んだまでだ。
他のバージョンも欲しいと思えるパーフェクトさであれば、買い揃えることになるだろう。それほどにはレトロという古き良きジャンルが好きだ。
積読が増える一方であることは重々承知している。
購入した本をパラパラと眺めるだけ眺めたところで、次のお楽しみとしてバッグにしまうと同時に、自宅から引っ張り出してきた参考書を取り出す。
購入当初の熱が冷めていたとしても、とにかく今は手をつけていないものを読み切る段階に進まないと、次の一冊には進めない。自分がそこまでの想いで購入に踏み切った一冊なのだから、どこかに魅力があるに決まっている。もしくは何かを学びたくて持っているに決まっている。
参考書の内容を読み、自分なりに解釈をして、ノートにまとめる。三ヶ月近く放置していたが、ようやく着手することにした。
スタートを切るまでにものすごい時間がかかってしまった。
自分がスタートを切るかどうかで躊躇している間に、人は資格の勉強をして合格してたりするから、マイペースと言ってごまかしている場合ではない。
次なる目標が定まってきたような気がする。この勉強を始めたからには、どうにかものにしてやりたい。
この参考書の勉強を続けて、どうにか形にしてみる。想像を見えるものに変えてみせる。
上手に攪拌しきれなかったカフェラテの底に溜まったほろ苦さを一気に飲み干して、カフェに入る前の自分とお別れを告げた。
自分を甘やかしてご褒美に使わせていただきます。