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ツッコミどころ満載な、粋(?)なお蕎麦屋さん【ヤマシタのおたより #25】

いまから数年前、まだコロナの影もなかったころ。
とある「粋(?)なお蕎麦屋さん」に出合った。

その日は、よく飲みに行く友人と、某飲み屋街を探索。
夕方からいくつか梯子しようと、楽しく過ごしていた。

件のお蕎麦屋さんに入ったのは、二軒目。
おなかはある程度膨れていたけれど、日本酒がおいしそうだったし、何よりお店の佇まいが素敵だった。

こじゃれた感じで、ビストロみたいな。
でも落ち着いていて、しっとりと飲めそうな。

こんな雰囲気のお店を行きつけにできたら嬉しいな。
そんな風に思い、いざ入店。

出迎えてくれたのは、60代くらいのご主人。
モロ師岡さんのような、そんな雰囲気。

ちょっと不愛想だけど…
それさえも、なんだかいい感じに思える。

カウンターに通されて、わくわくしながら、つまめるものを何品か注文。
ハイボールをごくごく飲んで、気分もいい感じに乗ってきた頃…

「えっいま蕎麦食べるの?もっと後だよ普通。」


こんな声が聞こえてきた。
冷たく鋭い、そんな声。

ぎくっとして振り返ると、例のご主人が、小ばかにしたように笑っている。
彼の目線の先には、初々しいカップル。

え、彼氏めっちゃ気まずそう。
たぶん、いい感じの佇まいに惹かれて彼女を連れてきたんだろう。

そんな言い方せんでも、ええやん…

でもご主人は、気にも留めない。
吐き捨てるように、ひとこと。
「蕎麦は、最後だね」

私は、思った。

蕎麦屋で蕎麦頼んで何が悪いねん。

横に座る友人をふと見ると、「蕎麦屋で蕎麦頼んで何が悪いねん」という顔をしていた。


ちなみにこのお店。
料理とお酒は、文句なしに美味しかった。

会話も弾むし、一軒目の存在を忘れるくらい、食もお酒も進む。
まあそれは、どんどんと。

飲むお酒もいつしか日本酒へと変わり。
こちらも文句なしに美味しくて。
きりっとした辛口が、心地よい。

結構飲んだし、そろそろお水でも挟もうかと思って、私はご主人に尋ねた。

「あの…お水いただけますか?」

…。
一瞥するご主人。
「ボルビックだけどいい?」

有料かあ…。
私も友人も、お水がどうしても欲しいわけではなかったので、それならお酒代にまわしたいなと、思い。

「あ、すみません、やっぱりお水、なしで大丈夫です」とお伝えすることに。

するとご主人。
「あのね。」
「水道水なんて飲んだら、日本酒の味がぼやけるんだよ」


私「すみません、あまり慣れていなくて…」
(ご主人の言い方には違和感あったけど、譲歩)

ご主人「ふっっ。」

私&友人の心の声
(え、いま鼻で笑った?)

ご主人
「粋じゃないね
。水道水なんて。
ミネラルウォーターじゃないと、ぼやけるんだよ味が。
そんな店もあるんだろうけどさ、粋じゃないね。
そんな店、粋じゃないよ。」


「(だから謝ってるしお水も辞退したがな)すみません、勉強不足で」

ご主人
「水道水…ふっ。粋じゃないねえ…」

「だから、謝ってるやんか!!!!!!」
と言いたい気持ちをグッと堪える私たち。
互いに目配せして、軽くスルーして日本酒をごくり。

もう一度言いますね。
料理とお酒は、文句なしに美味しかったです。

さて、そろそろお蕎麦を頼もうかと思い、ふと先ほどのカップルの席(ようやく注文を許されたらしい)を見ると…

「お蕎麦の量…めっちゃ多いやん…」

〆にしろと言うくらいだから、もう少し可愛い量なのかと思いきや。
ガッツリ、ある。結構な量が、ある。カップルも、ちょっと戸惑っている。


私「あの…お蕎麦の量って、少なくしたり…」

ご主人
「(食い気味で)ないね。」

友人
「(間髪入れずに)ですよね!!」
↑粋じゃない、と言われるのを阻止したんだと思う。


仕方がない、シェアしますか。

私「では、お蕎麦を一人前お願いします」

ご主人「ふっ。あいよ。」

私「(また笑いよったで…)あと、お取り皿もお願いします」

ご主人
「はぁっ!?シェアリングするの!?ふたりで!?」

私「(シェアリングてなんやねん)あ、あの、量が多そうで、残すと申し訳な…」

ご主人「(かぶせて)粋じゃないけどねえ、シェアリングなんて!
蕎麦をシェアリングなんて!!!
粋じゃないよねえ!!!!」


「(何で動名詞なん…あ、進行形?←どうでもいい)すみません、量が…」

ご主人「粋じゃない!

私「あ、じゃあお蕎麦遠慮した方が…」

ご主人「まあ作るけど。粋じゃないねえ。粋じゃないよほんと、粋じゃない…」(と言いながら厨房奥へ消えていった)


いや作るんかいっとツッコミたくなる気持ちを抑える私。

シェアリング、という独特の言い回しも引っかかってしかたないけど、我慢する私。

友人はどう思ったやろか…と思ってふと彼女を見ると。


「粋じゃない粋じゃないって、あのおっちゃんが一番粋じゃないやんな!!」


バッサリ言い捨てて、日本酒を飲み干していた。
かっこいいな、おい。

「本当は粋じゃないけどねえ、シェアリングなんて」
と、まだ「粋じゃない」「シェアリング」を繰り返しているご主人が持ってきたお蕎麦は、美味しかった。とても美味しかった。

ただ、「”粋”とは…?」「シェアリングとは…?」という2つの疑問がグルグル頭を回り続けていたのは否めないし、友人が言う通り、ご主人が一番粋じゃなかった気もした。

しつこいけれど、お料理とお酒は美味しかった。
だけどあれから一度も、お店には訪れていない。

だって怖いから。
なんでわざわざ嫌な思いをしにいかなあかんねん。

たまにお店の前を通るけれど、営業は継続している様子。

お客の入りは分からないけれど…
あの「粋じゃないシェアリングご主人」は、今もビシバシと若者を鍛えているのでしょう。

私のなかでは、日本酒を飲み干しながら「粋じゃない粋じゃないって、あのおっちゃんが一番粋じゃないやんな!!」とバッサリいった友人が大優勝。

彼女はいまも、いい飲み友達です◎


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