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「ラジオで聴いた若いOLの話である...」3分で読める感動実話

「人の心に光を灯す」


ラジオで聴いた若いOLの話である。

彼女の生家は代々の農家。
もの心つく前に母親を亡くした。
だが、寂しくはなかった。
父親に可愛がられて
育てられたからである。
 
父は働き者であった。
3ヘクタールの水田と
2ヘクタールの畑を
耕して立ち働いた。

村のためにも尽くした。
行事や共同作業には骨身を惜しまず、
ことがあると、まとめ役に走り回った。
そんな父を彼女は尊敬していた。
父娘2人の暮らしは温かさに満ちていた。

彼女が高校3年の12月だった。

その朝、彼女はいつものように登校し、
それを見送った父はトラクターを
運転して野良に出ていった。

そこで悲劇は起こった。
居眠り運転のトレーラーと
衝突したのである。

彼女は父が収容された病院に駆けつけた。
苦しい息の下から父は切れ切れに言った。

「これからはお前一人になる。
 すまんなぁ……」

そして、こう続けた。

「いいか、これからは
『おかげさま、おかげさま』と
 心で唱えて生きていけ。
 そうすると必ずみんなが助けてくれる。
『おかげさま』を
 お守りにして生きていけ」

 
それが父の最期だった。

父からもらった
「おかげさま」のお守りは、
 彼女を裏切らなかった。

親切にしてくれる村人に彼女はいつも
「おかげさま」と心のなかで手を合わせた。
彼女のそんな姿に
村人はどこまでも優しかった。
その優しさが彼女を助け、支えた。

父の最期の言葉がA子さんの心に
光を灯し、その光が村人の心の光となり、 
さらに照り返して
彼女の生きる力になったのだ。

・   ・   ・   ・   ・

もう一つ、
作家で詩人の高見順の晩年の話である。
高見順は食道がんの手術を受けて
病床に横たわった。

ふと窓外を見ると、
激しい風雨のなかを
少年が新聞を配達している。

その姿に胸を揺さぶられ、
高見順は一編の詩を書いた。

なにかをおれも配達しているつもりで
今日まで生きてきたのだが
人びとの心になにかを配達するのが
おれの仕事なのだが
この少年のようにひたむきに
おれはなにを配達しているだろうか

ひたむきな新聞配達の少年の姿が
晩年の作家魂に光を灯したのである。
 
心に光を灯された体験は、
誰にもあるのではないだろうか。

人の心に光を灯す。

それは自分の心に光を灯すことでもあるのだ。
そういう生き方をしたいものである。

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『致知』2002年11月号
特集「人の心に光を灯す」総リード より
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