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#逢魔伝

筆の森 1-9

筆の森 1-9

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    九

 それ以来、裕次郎とは疎遠になった。
 聞いた話では、女をとっかえひっかえしているうちに、いまは美人局と関係を持ってしまったらしく、相手側の男に、金を絞り取られそうになっているらしい。お前も、気をつけたほうがいいぞ、とそう声をかけてきたのは、一年先輩の秀雄さんだった。俺は、適当に相槌を打って、そのこともすっかり忘れてしまった。
 次に「筆の森」に行ったのは、紅葉も

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筆の森 1-8

筆の森 1-8

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    八

 明け方くらいだったろうか。インターホンの呼び出し音が、静かな室内に響き渡った。ハッとして、目を覚ます。壁にかかっている時計を、見上げた。まだ、四時を回ったか、回っていないかという早い時間だった。横を見ると、酔いつぶれた裕次郎が、机につっぷしたまま寝息を立てていた。もう一度、インターホンが鳴った。起きる気配はない。
 仕方がなく、のぞき穴を見に行こうと、立ち上がっ

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筆の森  1-7

筆の森  1-7

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    七

 人には、それぞれ事情があると言ったのは、誰だったか。ずいぶん、前に読んだある有名な詩人の言葉だ。それを読んだとき、俺はまったくその通りなのだろう、とうなずいた。
 奇異だと思われることにも、さまざまな事情があり、それが、一人出にふわふわと浮かんでいる。日常の中で。
 あたりまえのように。しかし、それは事情を知らない人が見たら、ずいぶんおかしなことばかりだ。だけど

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筆の森 1-5

筆の森 1-5

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    五

 しばらくは、長い沈黙が続いた。そうして、タチバナは曰くつきの墨で何事か、書き出した。それを封筒に入れて、女に寄こした。実に簡単な成り行きに、なんだか俺のほうが不安になった。もう、済んだのですか。女も同じように、心配そうな声を上げた。
 「実際はこんなものです。中は、必ず一人の時に読んでください。そうでなくちゃ、効果はありませんから」
 「一人でないと、どうなるの

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筆の森  1-4

筆の森  1-4

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    四

 客は女性だった。おちくぼんだ目の下には、濃い隈が入っており、もう何日も眠れていないことがわかる。茶色に染めた髪の毛には、こしがなく、心と同じように、くたびれているようだった。タチバナは、女を座敷に上げて、指し向いになって座った。「君は自由だ」と言われた手前、俺は帰り損っていた。二人の様子を障子の隙間から、のぞきこんでいる。声はぎりぎり聞き取れるか、取れないかく

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筆の森(逢魔伝番外編) 1-1

筆の森(逢魔伝番外編) 1-1

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   筆の森

    一

 彼女の噂を聞いてからすぐ、「筆の森」へ足を踏み入れることになった。
古書店を経営する傍ら、少し変わった商売をしているのだという。その話しを聞いてから、しばらく興味だけはあった。興味はあったが、一度も行ったことはなかった。だから今回、友人のドタキャンを理由に、彼女の店を探してみようと思った。思い立ったのも、まったくの偶然であった。神保町の古本屋街を

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筆の森 1-2

筆の森 1-2

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    二

 しかし、裕次郎の話しで聞いていたほど、店を見つけるのには苦労しなかった。古本屋街を抜けた先にある、小さな路地を右に曲がると、あっけなく見つかった。
 小じんまりとした外観、青い屋根には「筆の森」と印字されていた。店はガラス張りなので、中は見えるが薄暗い。扉には、丸いステンドグラスがはめこまれている。その下にかかっている札には、「開店」の二文字。
 つまり、今日

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筆の森 1-3

筆の森 1-3

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    三

 「たぶん、明るいところじゃないだろうね」
 しばらく沈黙したあと、なんでもないように言った。
 彼女は理知的な眉の下で、すっと眼を細め、微笑んだ。それなら、君はここに用はないはずだ。と言って、あとは黙っていた。意味がわからず、俺も黙った。壁にかけられている柱時計が、秒針にあわせてゆらゆら揺れていた。
 「着替えても良いかな」
 彼女は静かに立ち上がると、黒いティ

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作品の合間に思う独り言。

作品の合間に思う独り言。

小説の途中経過的につぶやいてみようかと思い、書いてみている。
こんな時間があるなら、シリーズの先を書いたほうがいいのはわかっているのだが、もう少し赤也の物語を続けるか、次世代に続けるかで、迷っている。

 赤也が現在、30代で先生をしながら、式神達と自由に生きている様は、一番書いていて、自由度も高く面白かった。
これを、あと二三、続けてみるのも良いが、物語を先に進めるという意味では、次世代に渡し

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