名前が変わる嬉しさも、さみしさも、きっと人それぞれ。
同棲していた「彼氏」が、ついに先日、晴れて「夫」となった。
交際時からお互い結婚前提としてお付き合いし、年明けてすぐ同棲したけれども、実は「何月何日に入籍する」と具体的には決めてはいなかった。
6月に正式なプロポーズを受けて、そこから「じゃ、いつ入れる?」と急遽その場で決めたのだけれど、一旦決まってからは怒涛のように次の予定が決まっていき、7月の半ばに両親との食事会のあと、末に入籍をした。
入籍するということは、婚姻届けを提出するということで、どちらかの姓名も変わるということだ。
私も大方世間と同じく、スタンダードに夫の姓になるつもりで、
面白い事にその苗字になったほうが姓名判断の運気が爆上がりになるし、フルネームの響きも旧姓がゴツかった分ずいぶん可愛らしい感じになるのも嬉しいと思った。
それに仕事では旧姓での通称継続を希望しているので、今まで通りとほぼ変わらない。周りの人へも説明しなくて良いし、改めてもらう必要もない。
結果としてどっちも名乗れるんだし、法律上だけでいいから早く彼の苗字に変わりたいな~と思っていた。
なのに、入籍前日に急にマリッジブルーとやらがやってきた。
彼と結婚したくないわけじゃない。
大好きだし、伴侶になりたい。
家だって実家よりとっても住みやすく場所も便利だし、彼のご家族や友達もみんな酒飲みで楽しくてすぐに好きになった。
そんなウキウキの結婚前夜に突然おとずれたマリッジブルーの正体が、まさか「苗字が変わること」だなんて思いもしなかった。
この言いようのない「なんか、嫌な気持ち」はなんだろうと思案した。
彼の苗字になるのが嫌なんじゃない。むしろなりたい。
ただ、生まれた時からずっとあった自分のフルネームではなくなることが、なんだかむしょうにとてつもなく寂しいと思ってしまった。
まるで今までの自分が無くなってしまうような寂しさ。
言うなれば、新しい苗字になりたいけれど、今までの苗字も「捨てたくない」ような気持ちに近い。
なんならミドルネームのごとし旧姓も残したいほど。
欲張りな私は、書類上でもどちらの名前でいたい、と一瞬思ってしまった。
(身分証明の旧姓併記とはまた違った意味でね……)
まさに朝ドラ「虎に翼」で主人公が2回目の結婚を前に「姓名を変えること」について考えこむのと似ているかもしれない。
夫とはわりかし普段からなんでもよく話し合える関係を築いているけれど、何となく姓名変更マリッジブルーについては言えなかった。
「明日に入籍できるの嬉しいね。楽しみだね」とお互い口にしていたし紛れもなく本心だ。
その中で「本当は、名前かえたくないわけじゃないけど、今までの名前じゃなくなるのも寂しい。結婚はしたいけど名前が変わるのは自分じゃなくなる気がして、今までの自分がいなくなっちゃった気がして嫌だ」と入籍前夜になんとなく言えない私がいた。
けれども、マリッジブルーのとっても都合のよいところ。
寝て、朝起きて、一緒に役所に行き書類が受理され、住民票とマイナンバーカードの手続きが1時間ほどで終わった。
新しい住民票と変更表記されたカードを目にした瞬間、
(新しい名前だぁ~!!もう奥さんなんだ!住民票にも「妻」って書いてある~!!新しい名前いいじゃん!素敵じゃん!!ようこそ新しい私!フゥ〜〜〜ッ!!!)
前日の夜に「旧姓なくなるの寂しいよぉ……」とさめざめしたセンチメンタルな気持ちは、都合が良いくらいに一瞬でいなくなっていた。
その数日後、夫から「ちひろはやっぱりマリッジブルーとかあった?結婚するのやっぱりやだとか思ったりしなかった?」と聞かれたので、入籍前夜に突然おとずれたマリッジブルーと理由を正直に打ち明けた。
すると、こんな風に答えてくれた。
「本当なら名前なんて変わりたくないだろうし、生まれた時からずっと付き合ってきた、ちひろだけの名前だったんだから寂しかったよね。
寂しく思うのは当たり前だし、ちゃんと寂しい思っていいんだよ。逆に気持ちを言わせてあげれなくてガマンさせちゃってごめんね。
名前を変える方は色んな手続きも大変なのに。俺のほうに合わせてくれてありがとう」
結婚したのがこの人で本当に良かったと、心の底から改めて思った。
思い返せば、記入済みの婚姻届けをテーブルに出してプロポーズしてくれた時も、「姓名はどちらにするか」のチェック欄はきちんと空欄にしてくれて差し出してくれていた。
私のさみしさを置き去りにしないで、立ち止まって振り返ってくれる優しい部分。ちゃんと私の気持ちを確認してくれる。自分といて楽しく幸せに過ごしていてくれるか、ちゃんと一番に大事にしてくれる人。
仕事を介して知り合い、気が付けば10年の月日の中で私の中で育っていた夫への信頼感は、そういうものだった。
誰にも言えなかったけれど、本当は心の底でずっと好きになっていた人だったから。
そして今。
結婚してみて思ったのが、手続きで書類上は変わるけれど、当たり前かもしれないが私は私のままだ。
仕事の関係者は今まで通り旧姓で呼んでくれる。
とくに仕事での旧姓呼びは、何となく「今まで励んできたアイデンティティ」がそこにあって認められているような気がして、私もその方が嬉しいし周りも呼び直すこともないし、おそらく気も遣わず楽なんじゃないかと思う。
一方で、病院や市役所の手続きの際に新姓で呼ばれるのもやっぱり嬉しい。
大好きな夫の苗字とお揃いになったんだなぁというこそばゆさもあって、おもいきり新婚気分を堪能している。
若い時は「早く大好きな人の苗字とお揃いになりたいな~」と思っていたのに、結婚しなくてもいいいかもと思えるまでになったら「生まれてからのこの名前を大事にしていきたい!」と強く思うようになった。
人によっては、色々な思いを抱えて、事情によって早く自分の名前を変えたいと思う人もいる。
いつだって人は、ないものねだりで、隣の芝生が青く見えて、その時の自分の心によって変わる都合の良いものなんだろう。
けれど考えたら、人は生きているんだから、常に変化があるものなんだから、いろんな感じ方があって当然で、正解も答えもなくて当たり前。
結婚されて苗字を変えたあなたの時は、どうだったでしょうか?
この気持ちが分かってくれる人がどのくらいいるんだろう。
それでも、結婚前夜におとずれた「今までのわたし」が失われていくような、言いようのないさみしさも本心で、
心理学とかで表すならあれはどういった現象なんだろうか。
未だにふと心の中で考える時があります。
名前が変わる嬉しさも、さみしさも、きっと人それぞれ。