⭐️速い男泣く女　849

2024年8月22日 00:12

修は速い男だ。
だから人気者だ。

修（仮名、長男）は、3人きょうだいの真ん中。
イオン系スーパーで長年アルバイトをしている。

家では最近、同人誌を読んでは笑っている。
さてはコミケの収穫だな。
一体なん冊買ってきたんだろう？

今でこそ短髪で爪を短く切り揃えお腹に多少の脂肪を蓄えてるけど、ここでバイトを始めるまでは、髪はぼうぼう、爪は伸ばし放題、ガリガリの骨川筋右衛門だった。

ご覧の通り、ヘッダー画像では今でもひょろりとしてるけどね（隠し撮りby母）。

修はサービスカウンターにいてもレジにいても評判が良い（らしい）。
仕事が早くて、速くて、よく気がつき、愛想が良くて、よく動く（らしい）。
「らしい」というのは、私が目にする機会は滅多にないから。

私と喋ることをやめてからの修は、私が彼のレジに並ぶと露骨に嫌な顔をする。
そして一切喋らない。
「お待たせしました」も「ありがとうございます」も言わない。
そんなことで彼の評判や評価を落としたくないから並ばない。

修の列はスイスイ進む。
セルフレジが増えた今でも、修の列は圧倒的に速い。
横目で見ながら一向に進まないノロノロ列に並ばなきゃならない。
いつしかそのスーパーには足が向かなくなった。

でもねぇ酸素系漂白剤を買いに行きたいんだよね、なくなる前に。
よりによって修の勤務日。
修に見つからなければいいか、と出かけたのは8月15日（木）のこと。

あのレジが速い‼︎と思って近づいて行くと案の定、修のレジだった。
致し方なく修の背面側のレジに並び直す。
あちらはスイスイ、こちらはノロノロ。

「クーポンお持ちですか？」
無愛想な女性店員が顔も上げず目も合わせずに訊く。
滅多に来ないけどアプリは持ってる。
でも今日はクレカで払った方がお得になる日だって知ってるから、iPhoneは OFFのまま。

清算機に移動すると、「クーポンを使った方が絶対にお得ですよ」とニコニコ顔の別の店員さんが近づいてきた。
クーポンで3%OFF、クレカ引き落とし時に更に5%OFFになるとのこと。
慌ててiPhoneをONにする。

息子が長年働いているというのに、知らなかったなぁ今まで。
だって教えてくれないんだもん。
何なら修が従業員価格で買ってくれれば、後から支払うのに。
損をするのは悔しいけれど、得する情報にはカラキシ疎いんだ、私。

サッカー台で漂白剤5個をダラダラのろのろとエコバッグに入れながら、耳をダンボにして修の様子を伺う。
さながらスクープを狙うパパラッチ。

お客様が清算してる間に、カートの下段に荷物を載せる修。
良い子だなぁと嬉しくなる⤵️

スキャナーを手渡す修。
声かけも仕草も優しくて、やっぱり嬉しくなる。
本来なら左端の女性店員（左手•エプロン•左足だけ写ってる）の役割りだ。
「あっ」と言ってそうな左手の形⤵️

「こちらのレジが空いてます。
こちらへどうぞ」
修の声が聞こえたのは、5kgに耐えられる生地だったっけ？と不安に思いながらエコバッグを肩に掛けようとしたとき。
他のレジに並んでいたお客様に声をかけてた。
うんうん、優しく言ってる。

感心したのは、お客様が移動してくるまで横倒しにしたカゴをレジ台の上に置き、他のお客様が並ばないようにしていたこと。
たまにあるじゃないですか、後ろの方に並んでいた人がサーっと移動してきたり、元々並んでなかった人が「ラッキー」って移動してくること。

私、泣いてた。
静かに泣いてた。
嬉しくて胸がいっぱいだった。
私に声をかけてくれたわけでも優しくされたわけでもないのに。
修はきっと、日頃から自分が当たり前だと思ってることをやってるだけなのに。

ヤバい。
これ以上いたらバレる。
しかも泣いてたりしたら絶対に~~ウケる~~ウザい。
ここはズラかるに限る。
5kgのエコバッグを赤ちゃんみたいに抱っこしてズラかる。
首がすわってないから横抱きにする。