江古田煩人

えごたぼんじん。一次創作小説個人サークル「泥眼書房」主催。 創作にまつわるエッセイをち…

江古田煩人

えごたぼんじん。一次創作小説個人サークル「泥眼書房」主催。 創作にまつわるエッセイをちまちま書いています。 泥眼書房HP→https://doromesyobou.jimdosite.com/

最近の記事

短編「巣篭もり卵」

 つくづく鉋は美味いものをこしらえることに余念のない人間だった。  ことに朝飯には念を入れて、品数は少なくとも滋味のあるものを揃えようと苦心していた。私が朝早く、三時とか四時とかのまだ日も昇らないような時間にアパートへ戻ると、ぷうんと味噌汁の甘い香ばしい匂いが私を出迎え、そうして小さな卓袱台にはきちんと二人分の朝食が並んでいるのである。食用蛭の解体で疲れ切った私に一日の終わりを告げるその光景は実にたのしいもので、いりこ出汁の味噌汁、青菜の揉み漬け、それに塩を効かせた卵焼きを

    • エッセイ:推しを悼む話

       推しが亡くなった。  享年二十五歳。若いと言われればあまりに若いが、それについて感傷的に話すことは今の私にはまだできない。とあるバンドのボーカルで、作詞や作曲も担当していた。  彼らを知ったのはデビュー前だから、2021年の上旬ごろか。音楽サービスで曲をザッピングしていた時、強烈にエッジーな曲が耳に飛び込んできたのを覚えている。歪んだギターと挑発的なメロディーライン、がなるような歌声に最初は戸惑ったものの、数回リピートした後に指が自然とチャンネル登録ボタンを押していた。  

      • エッセイ:名前を思い出せない映画

         小さい頃に見たきり題名を思い出せないアニメ映画がある。恐竜ものだった。  観たのはたぶん幼稚園の頃。年長組おゆうぎ会のビデオの隣に、手書きのラベルを貼り付けられたVHSが母親の本棚に収めてあったのを覚えている。あきらかに正規品ではなく、テレビか何かで放映されていたものを宅録したビデオだったので、少なくとも映画館で上映されるようなアニメではなかったはずだ。あまりにマイナーすぎるせいか、大人になってあらすじを検索しても一向にヒットしない。その肝心のあらすじすら薄ぼんやりとしたう

        • すごい書いてたまに休む〜2023年創作振り返り

          この記事を孤独のグルメ大晦日スペシャルを観ながら書いています。 来年は辰年ということもあり、自創作「SCALY FOOT」より龍人の噺家、剣崎雨月にヘッダーを務めてもらいました。おお、縁起よさそう。 今年はわりかし創作がらみで色々なことがありました。文学フリマ東京への2度の出店、そして4つのアンソロへの参加。おかげさまで泥眼書房の新刊も2冊出せましたし、既刊の重版も行えました。いろいろと実り多い一年になったと思っていますが、それを改めて文字にして振り返ってみると自分で思って

        短編「巣篭もり卵」

          おもてなすぞ、人類〜TAMAコミ&文フリ37レポ〜

          イベントの興奮冷めやらぬ中この記事を書いております。先週末は文学フリマ東京37にデザインフェスタvol.58とカルチャーイベントが盛りだくさんでしたが、ご参加された方はいかがでしたでしょうか。 私は前回の反省を生かして万全の体制でイベントに挑んだおかげか、今回はブースから売り子を追い出すこともなく無事にイベントを完遂することができました。イベント的には大成功ですがおもしろレポ的にはいまいちとれ高に欠ける内容となったため、今回は思い切って「対面イベントの個人的意義について」とい

          おもてなすぞ、人類〜TAMAコミ&文フリ37レポ〜

          人生初の文学フリマで私は売り子を追い出した

          先日、一冊の本が出来上がった。『SCALY FOOT①』である。 SCALY FOOT。ケモノが暮らす架空のスラム街「ガラ通り」を舞台に個性豊かなキャラクターたちがそれぞれの暮らしを送る、アングラ日常群像短編。カクヨムなどの投稿サイトで書き溜めていたものを加筆修正して本にしたものである。そこらへんの死体をバラして密売するような話を日常群像短編と銘打っていいのかは分からなかったが、作ってしまったものは仕方ない。なので売ることにした。 あらゆる文芸作品の祭典、文学フリマで。

          人生初の文学フリマで私は売り子を追い出した

          あるサティの思い出

           がらんと開けた茶色い敷地に、かつてのショッピングモールの面影はなかった。    近所のサティがついに潰れたと知ったのは、閉店からしばらく経った後のことだった。 いや、閉店したこと自体はなんとなく頭の片隅にあったのだが、近所といえど自宅からはそこそこ距離があったので頻繁に通っていたわけでもなかったし、閉店してから数年経っても紅イモ色をした商業ビルは相変わらず敷地内にぽつねんと佇んでいたので、通りがかりに目に入ることはあったものの、あれがもう営業していない廃ビルであるという実感

          あるサティの思い出

          創作者が冬季うつに立ち向かうためのライフハック術

          はじめに〜ここだけでもいいですから〜記事のポイントは以下の通り。 ・感覚に意識を持っていけ ・なるべくでいいから体を動かせ ・決まった時間に寝起きしろ ・納豆ご飯、卵かけご飯一杯でもいいから三食きちんと食え ・創作はしばらくあきらめろ、いずれまたやりたくなるから ・もし創作したくなったら、ぼんやりできることをやれ ・どんなに好きでもホラーや暴力系の創作を見るのはしばらくやめとけ 本当に疲れてるならとりあえず上記のことを気に留めてくれるだけでいい。 続きを読むのは少しでも元

          創作者が冬季うつに立ち向かうためのライフハック術

          ケモナー界隈でひっそり話題の映画「バッドガイズ」を観てきた(ネタバレあり)

          少し前からTwitterのタイムラインがざわめき始めた。 「最高にイケメンなケモノ集団が強盗を企てるクライムコメディCGアニメ映画があるらしいぞ」と。 その名は「バッドガイズ」。 イケケモの集団(ヘビやピラニアとかもいるが)が華麗に強盗を働く、という筋書きだけでも興味をそそられたが、だんだんタイムラインがおかしくなってきた。 「ガキっぽい男同士のクソデカ感情のぶつかり合い」 「距離が近めの異種間腐れ縁ブロマンス」 「ルパンと次元のあの掛け合いを延々と引き伸ばして観られる

          ケモナー界隈でひっそり話題の映画「バッドガイズ」を観てきた(ネタバレあり)

          大人の自由研究!!!創作パイルアップ!!

          Twitterを利用している創作者の方なら一度は耳にしたことがあるかもしれない香水屋「カオリバーFINCA」。 「自分のイメージに沿ったオンリーワンの香りをパイルアップ(香水の重ね付け)によって作れる」という、まさにバーでカクテルを作るかのような香り体験ができるお店なのだが、なんとこのお店、創作イメージのパイルアップもしてくれる。というかそちらが本命らしく、TwitterでFINCAさんを調べてみると推しパイルアップ体験で情緒をゴリゴリに狂わされた方々の叫びがわんさか出てくる

          大人の自由研究!!!創作パイルアップ!!

          あけまして2021年ふりかえり

          あけましておめでとうございます。 温かいおこたで酒飲みつつおせちを食べつつ昨年のまとめを書こうとしてるんですが、おかげさまで脳が溶けそうです。お煮しめのニンジンをつついて野菜を取った気になっている、そんな2022年令和4年の元旦。まとめていきましょう。 2021年、創作の大きなターニングポイントはこちら。 占い師さんによる創作指針の発見 紙の本を出すぞ、という決意と実行 創作(すけりふ)の煮詰まりと、新たなる創作の発見 より能動的に創作していくための計画を立てる

          有料
          100

          あけまして2021年ふりかえり

          あなたは 東興随筆集 試し読み(とその顛末について)

          いくつか私の記事を読んでくださった方なら多分もうご存知だろうとは思いますが、趣味で小説を書いています。 はじめましての方ははじめまして。こちらの記事からお読みになるとよいかと存じます。 「脳内にひとつの街がある話」 「SCALY FOOT」。平行世界である「東興」を舞台に様々なキャラクターが活躍する群像劇である。もう10年近くこの創作をしているが、作品にし始めたのはここ数年である。 で、この度ひょんなことからすけりふ(愛称)を本にすることになった。生まれてはじめての同人誌制

          あなたは 東興随筆集 試し読み(とその顛末について)

          方言考

          「それどこの方言?」と最初に聞かれたのは、いつのことだろう。 「〜なん」「〜なんね」 意識せずとも口をついて出る、不思議な方言が頭の中にずっとある。たぶん、はじまりは幼稚園。「変な喋り方をするのはやめなさい!」と怒られた思い出がある。それで意固地になったのかなんなのか、頑としてやめなかった思い出もある。わりと面倒くさい子供だった。 そんな私がどこ出身かというと、生まれも育ちも埼玉県だ。ほぼ標準語だし、少なくとも私の住んでいる地域にこういう方言は一切ない。なのにどこから湧いてく

          そんなものはないの品物

          そんなものはないの品物を見つけるのが好きです。 なんだそれは。ここでいう「そんなものはないの品物」とは、一見聞き慣れない名前なんだけどもなんとなくそれがどういうものか想像がつくような、あるいはどこか知らない国や知らない地方に実際に存在しそうなものを指す。 たとえば以下のもの。 もたつく手足を動かしかけたはすみは、すぐに自分の体が透過迷彩の重金属ワイヤーできつく縛られていることを理解した。階段に張られていたのもこれと同じものだったのだろう、屈折率が限りなく低いオルゴン金属

          そんなものはないの品物

          はすみのツノは内巻きなのか外巻きなのか

          「SCALY FOOT」の主人公、互藤はすみの話。 主人公というのは違うかもしれない。このSCALY FOOT自体日常系群像劇という形で書いたり描いたりしているので、そうなってくると主人公なんていないというか、登場人物全員がなんらかの形の主人公というスタイルなのだが、そうなってくると物語の焦点がブレてくるため便乗上はすみを主人公ということにしてある。 さて、はすみである。ヤギの獣人。種類までは分からなかったが、多分ザーネン。と思われる。 私達が日常生活で「私は北方系古モン

          はすみのツノは内巻きなのか外巻きなのか

          創作の街を探す話

          もうめっちゃくちゃにきたないところが好きです。 と言うと、多分(かなり)語弊がある。 ここでいうきたなさとは生ゴミや汚物といった衛生観念的なものではなく、機能性を重視しすぎた結果としての見た目のきたなさである。 たとえて言うなら工場地帯。いや最近は工場もライトアップされたり夜景スポットとしてもてはやされたりなかなか綺麗ですよ、という話ではなく、見た目のことなんかどうだっていいからとにかく機能性を、という果てしない頑張りの結果爆誕してしまった、何十本のパイプやらダクトやらで

          創作の街を探す話