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狭霧 織花
2024年7月31日 17:16
暑さから逃れるための方法として、何があるか、ということがふとした会話の中で、議題となった。 冷たい飲み物。アイスキャンデー。冷風機。アカデミーの外にあるミスト発生機(ただし常に満員状態)。口々にあげてはみたが、全員が薄々感じていることは同じだった。「なんか、違うんですよねぇ」 研究室の助手が事務書類を束ねながらうーん、と唸る。魔法の研究とあらば体調、奇行、雰囲気その他あらゆる諸々を気にしな
2024年7月22日 12:35
思えばつくづく、不運な生まれだと思う。祝福を受けていると言われても、実感できないほどには、この身に受けた特性はうとましいものだった。 『神の恩恵』と呼ばれる魔法のうち、雨の魔法の性質を持って生まれたと知ったとき、喜びよりも落胆の理解を覚えた。 なにせ、雨の魔法といっても使いこなせないうちは知らず知らずのうちに雨を降らせてしまうがゆえに、外での行事はほぼ確実に雨天決行もしくは中止の状態だった。
2024年7月8日 12:28
威勢のいい掛け声ひとつ。それを聞いた瞬間には、狙いの相手は絶命している。ただし、このたびの的は敵の武人ではなく、何重もの円を描いた訓練用の的だったが。 的の中央あたりにまっすぐ射られた矢は、しっかりと突き刺さっており、射手の腕と力を思わせるものだ。「いつもながら、お見事」 ぱちぱち、と乾いた拍手と共に与えられた賛辞に、射手は言われて無言で膝を折り頭を下げた。雷のごとく、と言われるほど鋭い弓