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小売と「サステナブル」をとりまく海外トレンド

CEREAL TALKで毎週お届けしている海外トレンドの中から、「サステナブル」にまつわるトレンドをまとめてご紹介。

「サステナビリティ」はマーケティング戦略か?

サステナビリティを推し出すブランドが多い中、それが実際の目的ではなくマーケティング戦略になっている傾向がある。今では「サステイナビリティ」、「エシカル」、「オーガーニック」、「トランスペアレント(透明性)」、というバズワードが出回っている中、ユーザーは購入しているプロダクトが本当に環境に良いのか混乱している。
SNSを活用して環境問題を解決したい強い意志を見せることが簡単になっているが、多くの会社はただ発言しているだけで、マーケティング要素として活用している。欧州委員会の調査によると42%の会社の「環境にやさしい」という主張は誇張、嘘、ミスリードしているとのこと。H&Mはオーガニックコットンやリサイクルされたポリエステルで服の素材を作っていると発言していたが、それがどう環境に役立つのかを説明していなかったことが批判を浴び、ノルウェーの消費者庁から「グリーンウォッシング(環境に配慮したと誤魔化すメッセージ)」を行なっていると指摘が入った。

ファストファッションとサステナビリティのパラドックス

今のアメリカのZ世代はファストファッションが存在しなかった世界を知らない。今ではASOSは新しいスタイルを毎週5,000以上出していて、SHEINは毎日700〜1,000以上の新商品を出している。

2000年から2014年の間、インフレがあったにも関わらず服の平均単価が落ちたのは、ファストファッションの存在が大きく影響している。『Vox』では、サステナビリティに関心の高いZ世代に対し、新世代ファストファッション台頭によるパラドックスについて特集をしている。

多くのD2Cスタートアップや大手リテーラーはサステナブルなブランドに変えようとしている中、Z世代はファストファッションブランドから洋服を買い続けている。もちろん二次流通アプリのDepopPoshmarkも人気だが、Piper Sandlerの調査などを見ても、SHEINをはじめとするファストファッションリテーラーはZ世代の人気ブランドの上位ランキングに入っている。

これがファストファッション・パラドックスだ。サステイナビリティに対して共感しているのに、実際の購入ではSHIENをはじめ、BoohooFashion Novaなどファストファッションブランドから買っている人が多い。Z世代からすると値段が安いプラットフォームに行きたいので、そうすると二次流通アプリかファストファッションに辿り着く。そんな中、二次流通アプリは何が販売されているか予想がつかないため、特定の服を購入したい場合はSHEINなどに行ってしまう傾向にある。

このパラドックスは、TikTokのZ世代をリサーチするFanbytesの調査を見ても似たような結果が出ている。サステナブルなファッション(服のリメイク動画など)が人気でもあるが、同時にファストファッションの動画も人気。サステナビリティについて理解するのは当たり前であり、ひとつのステータスになっているが、ショッピングの実態とは乖離がある。
環境について本当に興味・関心を持つのは大変なので、ほとんどの人は常に環境について考えていない。ファストファッションの人気を支えている一つの要因はTikTokでもある。TikTokは週ごとにトレンドが変わるからこそ、次の新しい自己表現やトレンドにユーザーは乗らないといけない。そのため、頻繁にトレンドアイテムなどが変わり、ユーザーとしては加速されたペースで商品を購入するようになる。このパラドックスを解決する方法はあるのだろうか。

サステナブルじゃない「返品課題」はどう解決する?

2020年はコロナの影響でEC化率が高まり、同時に返品も増えた。オンライン返品の量は、2019年から2020年にかけて2倍以上になったと言われている。
返品の課題は、主に2つある。1つは金銭的なコスト。返品時の配送料と返品後の検品などが必要不可欠だ。実際にファストファッションブランドのRevolveでは、2018年に$499Mの売上を達成したが、返品コストが$531Mあったと『Vogue Business』が伝えている。
2つめの課題は環境コストがかかることだ。ECで買った商品の返品は実店舗での返品より14%余分なゴミが発生すると言われていて、返品の配送だけでも排出する二酸化炭素の量は多い。
そのため、最近では多くのブランド、特に低価格の商品を販売しているブランドはROIを考えた結果、返品無しで返金している。『Thingtesting』によると、ThinxやOutdoor Voicesが活用している返品プラットフォーム「Returnly」は、再利用が難しい商品(下着やコスメ)の返品をしなくて良いようにした。
マットレス企業では、返品した商品を寄付するブランドも多い。Tuft & Needleは291社のチャリティー企業と提携して、93%の返品された商品を寄付していると言っている。Eight Sleepでは32%のマットレスが寄付され、28%がリサイクルされ、残りは廃棄される。後払い決済サービスAffirmがReturnlyを$300Mで買収し、OptoroやHappy Returnsなども多くのクライアントを獲得できている。

さらに返品率を下げるためのソフトウェア企業も出てきている。Wairはよりフィットする服を理解できるソフトウェアを開発している。アパレル業界では50%の返品理由は”フィット感”なので、少しでも改善ができればブランド側としてはかなりコストカットができる。

顧客は環境に優しいパッケージを求めている

EC需要が上がるとともに、無駄なゴミや段ボールが増え続けている。アメリカの2020年末のホリデーシーズンだけで30億個もの段ボール箱が配送された。
こうした背景から、ダンボールなど配送用の箱をより環境に優しいソリューションに変えようとしているスタートアップが増えている。数回使える箱やロジ周りの改善を行うことによって、ブランドは環境に優しくするだけではなく、コストカットもできると考えている。例えば折り畳みができる箱を提供する「Boox」はユーザーが再利用もしくはブランドに返品できる仕組みを提供している。ブランドにとってアップフロントでBooxのプラスチックの箱を購入するのは大きな投資。『Modern Retail』によると、「Ren Skincare」はインフルエンサーでBooxの箱を試した結果、人気のあまり一般客にも提供し始めたそう。Boox以外に複数のブランドを集めて一つの箱にまとめて再利用可能なプラスチックなコンテナで配送してくれるOliveなども人気になっている。
個々のブランドもどういうパッケージングや配送オプションを行うかがユーザーから指摘され始めているため、そのコストをブランドマーケティングの一貫として考えるブランドも多くなっている。

B Corp企業のIPO、評価は厳しい?

2021年11月、Allbirdsはナスダックに上場を果たした。Allbirdsは環境や社会コミュニティに良い事業をしている営利企業を証明する「B Corp」認証企業だが、過去事例を見るとB Corp認証企業が市場から高く評価されたケースは少ない。Etsyも元々B Corp認証企業だったが、上場して批判されてBコーポレーションのステータスを外した。ただ、オーツミルクOatlyの上場申請資料にも記載があった通り、今は環境問題に対して強い意志を持っている会社が評価され始めているので、今後Allbirdsも高く評価される可能性はある。

H&Mがサステナブル素材スタートアップに投資をしている理由

H&Mグループが投資をしている、生地のリサイクル事業者「Renewcell」がスウェーデンで上場。初期株主であったH&Mグループは自社の持株を売るのではなく、さらに追加投資を行った。このサステナブル企業への投資は、ファッション業界ではトレンドになりつつあると『BoF』は伝えている。

2017年にH&MがRenewcellに投資した以外にも、2020年8月にラルフローレンがリサイクルコットン「Natural Fiber Welding」に出資。さらにキノコを革製品に変える「Bolt Threads」にLululemon、ステラマッカートニー、アディダス、ケリングなどが出資。Bolt Threadsの類似会社「MycoWorks」も複数の大手ファッションブランドが2020年11月の$45M調達に参加したと言われている。
このトレンドは環境に優しい商品を購入したいというユーザーの行動シフトとブランド自身が掲げている環境問題に対しての目標の二つの要素でサステナブル企業に興味を持っている。ブランド側としてはリサイクル技術を先に活用できる特権をもらえるのが自社のマーケティングにも繋がっている。

ラグジュアリーブランドはサーキュラーファッションを受け入れる

昔は、古着はビンテージが好きな人たち、もしくは安物を巡る顧客層が買うものだった。今では古着文化が一般化し、ボストン・コンサルティング・グループとヴェスティエール・コレクティブの調査によると、2023年にはクローゼットの4分の1の服が古着になると言われている。ファッションメディア『BAZAAR』では、数年前からラグジュアリーブランドの二次流通が伸びた一部の理由は、購入した服やアクセサリーが長く使われ続けられるようになったこと、サステナブルなショッピングを希望するユーザーが増えたことだと紹介している。そのトレンドを見たラグジュアリーブランドは二次流通を販売のプロセスの一環として受け入れるだけではなく、二次流通企業と提携し始めている。
ヴェスティエール・コレクティブは、2月からアレキサンダー・マックイーンと買取プログラムを始めた。過去のブランド商品を特定のアレキサンダー・マックイーンの店舗に持っていくとその服の分のお金が戻ってきて、服は二次流通サイトで販売される。他には、バーバリーではパーソナライズされたショッピング体験を提供し、Gucciは二次流通を購入するユーザーにインセンティブを提供している。二次流通市場はファッション業界のサステナブル化において非常に重要な存在だ。
ただ、古着になると安心して大量に購入するユーザーも出てくるのではないかと懸念する人もいるので、ファッション業界としてどう自社の事業とサステイナブルなブランドになるのかをバランスしなければいけない。

二酸化炭素排出量が新世代「カロリー」になっている

過去にカロリー情報を公開するのがマーケティングトレンドになったのと同じように、今は二酸化炭素排出量の可視化するブランドが増えている。『Forbes』のCarbon Trustが世界中の消費者1万人を対象に行った調査によると、3分の2がプロダクトに二酸化炭素排出量の記載することを支持した。2020年ではD2CブランドのAllbirdsが商品が入っている箱とオンラインに二酸化炭素排出量を記載する「Tread Lighter」プログラムをスタート。AllbirdsはD2C業界の中でも特にカーボンフットプリントなど環境問題の教育を行おうとしている。2020年にはAllbirdsはAdidasと提携して二酸化炭素排出量が最も低いランニングシューズを開発するプロジェクトを立ち上げるなど、積極的に二酸化炭素排出量の削減に取り組んでいる。

ラグジュアリーファッション業界で植物性の革が人気な理由

革製品は、ラグジュアリー業界では何十年も品質の高さを示すステータスシンボルであった。人工皮革を使うブランドが増えたのも、単価を下げつつレザーに似た見た目の商品を販売できるのが理由だ。ただ、人工皮革の素材はプラスチックであり、サステナブルではない。
『INPUT』によると、革を代替するサステナブルな素材が最近注目を集めはじめている。Nikeはパイナップルレザーのスニーカーを開発したり、AdidasはStan Smithの靴をマッシュルームレザーで開発した。事例が少しずつ増えている中で、多くのラグジュアリーブランドも植物性の革を試している。
エルメスは野菜などヴィーガンな素材を使ったバーキンのバッグを販売。ただしオンラインでは購入できず、店舗に行ってウェイトリストに入らなければいけない。こうした新たな素材を使ったバーキンが今までと同じ価値になるのかはまだわからない。
今実際に素材の販売を行っているのはパイナップルレザーのPiñatex、エルメスのレザーフリーバッグの素材を提供しているMycoworksなど。Gucciは自社の代替革素材「Demetra」を開発。植物性の革がブランドから受け入れられ始めて、価格帯も下がり始めると、より一般的な商品でも使われるかもしれない。

家具に生まれ変わる、川底の電動キックボード

日本でも目にする機会の増えた電動キックボードのシェアリングサービス。公共交通の隙間を埋めることで自動車の利用を減らす、環境に優しい新たな移動手段として世界的に流行している。
そんな現在進行系で普及の進むキックボードだが、一部で人気が裏目に出るケースが発生していると『Fast Company』は伝える。
街の各所で出番を待つキックボードが、壊されたり、川に捨てられたりと、心ないいたずらの標的になる事例がしばしば起きているというのだ。極めつけには、内蔵のリチウム電池が溶け出し環境汚染につながるといった本末転倒ぶり。スウェーデンの地元紙では、「運河の底に200台以上のキックボードが捨てられている。」とまで報じられている。そこで立ち上がったのが気鋭のデザインスタジオ「Andra Formen」(スウェーデン語で「第二の形」)。彼らは運河から引き上げたキックボードを材料に、デスクランプ、椅子、水耕栽培用プランターといった家具を制作するアップサイクルプロジェクトを行った。キックボードの特徴を残したデザインはとても魅力的なのでぜひ見ていただきたい。
回収、解体、洗浄、消毒と、手間がかかりビジネスには不向きかもしれないが、こうした社会環境問題を魅力的なプロダクトに変える試みは、下手な啓蒙活動よりも効果があるように思ってしまった。

人気バンドColdplayが目指す、CO2排出ゼロのワールドツアー

程度の差こそあれ、企業が環境改善に手を打つことが当たり前になりつつある今日このごろ、その担い手はもはや企業だけにとどまらないようだ。
イギリス出身の人気バンドColdplayは、今年のワールドツアーにおけるCO2排出量を2017年のツアー比で半分に、さらに削減しきれない分を森林再生などのプロジェクトに出資することで相殺、つまりオフセットすることを宣言している。
例えば、移動においては基本的に航空機を避け、陸路の移動でも廃棄油由来の再生可能燃料を使用する。さらに、演出に使う紙吹雪や、リストバンド型ライトはそれぞれ土に還る素材を使用。会場で提供されるフードも、植物素材、ラボグロウン素材(人口肉など)といった最新の代替素材を積極利用するなどなど。その隙きのなさは、環境改善の最前線にいるであろう大手企業にも引けを取らない。
こうしたバンドの挑戦に、ファンが参加できる手段としてリリースされたのが、『Outlook』など多くのメディアで紹介されている「Music Of The Spheres World Tour App」という専用アプリだ。(無料アプリなのでぜひ入れてみてほしい。)ファンアプリとしての機能はもちろん、注目すべきはその算出機能。ファンは、出発地と参加会場、そして移動手段を選択することで、その移動がどれだけのCO2を排出するか数値で確認でき、より排出の少ない手段を選ぶとショップで使用できるクーポンを獲得する事ができる。また、ここで計算されたファンの移動に伴う総排出量も、オフセットの対象であるというから驚きだ。
綿密な施策の数々だけでなく、ファンを取り組みの当事者として巻き込む工夫は、アーティストのこうした例にこそ学べる点が多いように感じられた。

Allbirdsの訴訟に見るサステナビリティ戦略で気をつけるべきこと

昨年夏、環境配慮に関するマーケティング表現が誤解を招く詐欺的なものであるとして、一部消費者から提訴されたスニーカーブランドAllbirds。
『The Fashion Law』によるとこの訴訟は4月18日、ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所のキャシーセイベル判事が、同社の棄却申請を認め原告の訴えを退ける幕引きとなった。
当裁判で焦点が当てられたのは、Allbirdsの広告表現と、カーボンフットプリントの算出方法についてだが、どちらも消費者に重大な誤解を与えるようなものではないとの判決に至っている。 今回Allbirdsが訴えを免れた要因として、自分たちの手が及んでいない範囲まで、あたかも配慮できているかのような見せ方はしていなかった点がポイントであると推察される。
例えば、同社広告では羊に優しいウールの生産調達を全面に謳っているが、羊毛産業の環境改善に貢献しているとはいえないとの指摘を消費者側が提示した。しかし、それら広告で産業全体の改善をしているとの誤解は受けないだろうと当裁判では判断されている。
こうした判例が現在進行系で増えていることからも、もちろん企業側は細心の注意を払って戦略を探るべきである。ただ大局的に見ると、消費者とブランド間でトライアンドエラーを繰り返すことは、ビジネスにおける環境配慮の精度を上げるという観点では前向きに捉えられもするのではなかろうか。結果がどうであれ、その訴訟内容を受けた各企業の次の一手にこそ期待したい。

サステナブル・ファッション、信頼性の危機?

Quartzの調査によると、H&Mは製品に使用された素材の環境負荷に関するデータを偽っていたことがわかった。H&Mはこれを受けて、Higgサステナビリティ・プロファイルをオンラインストアからすべて削除したと『BoF』や『GLOSSY』は伝えている。
Higgサステナビリティ・プロファイルは、数年にわたって世界の小売企業やサステナビリティの専門家とともに共同で開発されたもの。対象となる欧州及び米国のオンラインストアの各製品に、その製品を作るために使用された素材の環境への影響に基づいてそれぞれスコアが付けられているラベルのこと。スコアは 「標準値」から「レベル3」まであり、各製品には、 水の使用、 地球温暖化、 化石燃料の使用、 水質汚染などへの影響に関する詳細なデータも表示される。Quartzは、何百もの製品が実際よりもサステナブルであるかのように誤って表示されていることを発見。実際の製品で、「アントワネット」というドレスは、水の使用量が基準値より20%少ないと公表されていたが、実際には基準値より20%多く使用されていたそう。
ノルウェー消費者庁は、このHiggサステナビリティ・プロファイルは誤解を招くものであると指摘した後、開発した250以上のファッションブランドで構成されるSustainable Apparel Coalitionが、Higgサステナビリティ・プロファイルの使用を完全に一時停止するという結果を招いた。
ファッション業界は、ブランドが持続可能性の主張を行うことができるかという点で、ほとんど規制がされていない。食品でいうと、「オーガニック」や「ケージフリー」のラベルを付けるには、一定の基準を満たす必要があるFDA(食品などを取り締まるアメリカの政府機関)とは異なり、アパレルブランドは持続可能性を謳うことができる。
環境負荷を「見える化」することによって、顧客がより多くの情報に基づいた購入判断をしてもらうことを目的としているはずなのに、これで信頼を失ってしまうのは悲しいことかもしれない。

ブランドが「会員制モデル」に賭ける想いと理由

『BoF』によると、ファッション業界における会員制ビジネスモデルga
、顧客とのエンゲージメントを深め、サステナビリティの課題に取り組む方法として注目を集めている。
アウトドアウェアの「Early Majority」はこの1年間、商品を1つも売らずにコミュニティを育ててきたという。先週一般販売が開始されたが、ブランドへの新規参入者は生涯メンバーシップとして358ドルの有料会員になるか、一つ一つの商品の価格に60%のプレミアムを支払うかを選択できる。立ち上げたばかりのブランドとしては大胆な提案だが、利益を追求するだけでなく、従来からあるロイヤルティ戦略によるエンゲージメントとデータ収集のメリットを活用してサステナビリティに関する課題を解決しようとしている。
彼らは有料会員の基盤を構築することで、可能な限り多くの用途に対応する最少数の製品を作るという目的を達成することができ、当初からある程度の財務的安定性を確保し、ブランドとその目指すものを熟知したコミュニティ、数量管理、廃棄物の削減、製品が本当に顧客のニーズを満たしているかどうかの貴重な情報などを提供できると考えているそう。長期的には、会員が使用済みの製品を下取りし、ブランドが再販やリサイクルを行えるような年間契約制度を導入することを目標としている。
無限に続くコレクションで過剰な消費を促すのではなく、時代を超えたコアな商品群だけをコミュニティ内で販売することで、ブランドは廃棄物や過剰生産を削減するのに役立つ貴重な洞察を生み出すことができる。会員制モデルは、ブランドと顧客の関係を「単にモノを単位で売る」という関係から脱却させ、収益の伸びを生産から切り離す方法のひとつになるかもしれない。ファッションの影響と消費に関する会話が加速したパンデミック以降、「ブランドの在り方」はどのような方法で世界に良い循環をもたらせることができるのか、あるいはどうやって私たちの人生をより豊かなものにするのか、という問いかけがキーとなりそうだ。

身につけられる微生物?バイオクチュールの台頭

サスティナブル素材のニットアイテムで注目を集めるファッションブランドRubens(ルーベンス)が、微生物を使った「バイオクチュール」アイテムのコレクションを発表した。『VOGUE BUSINESS』は、このコレクションはロンドンのコンセプトストアMachine-Aとバイオテクノロジーの新興企業Post Carbon Labと共同で制作したと伝えている。
バイオクチュールとは、バクテリアなどの生きた微生物を使って衣服や製品をデザインすること。2012年頃、ブルックリン在住のファッションデザイナーのプロジェクトから生まれた造語。過去、MITメディアラボのプロジェクトでは体温や汗に反応して微生物を混入したテキスタイル自体を作ったり、元スポーツウェアデザイナーのロージー・ブロードヘッドが治療用衣類をデザインする際に使用したこともある。
「代替素材」という点では菌糸を使った代替レザーと混同されがちだが、大きな違いは「活動中」と「冬眠中」の2つの状態があること。バイオクチュールを制作するデザイナーはアイテムに使用する微生物の状態をこの2種類から選ぶことができ、それによって衣服の外観や手触り、ケア方法は変わる。
RubensとPost Carbon Labはコレクションのために、水、日光、二酸化炭素を吸収して酸素を作る植物のように活動するバクテリアに着目した。
Rubensは認証を受けたオーガニックコットン、その他のアップサイクル素材を使って作品を作った。プロセスは非公開だが、生地に使用する際に特殊なコーティングを施して、このバクテリアが結合できるようにした。限定生産されたアイテムはすでに完売、Rubensはファッションのバイオクチュール運動の最前線にいる。
近年バイオクチュールは、素材の革新がどこまで可能なのか注目されており、代替素材の次の進化の可能性を示している。微生物と触れ合うというユニークな体験と大胆なデザイン、そのコンセプトとストーリーは消費者を魅きつけている。その一方で、購入後も衣服に一定の湿り気を与えるケアが必要であったり、人体に影響がないのかという懸念の声も。後者については、バクテリアが付着した衣服は、肌や健康に良い影響を与える可能性があるという研究もあるようだ。
まだまだ未知の部分が多く、使用やメンテナンス、生産コストや輸送方法も含めてさらなる研究が必要な発展途上の分野。バイオロジックを本格的に軌道に乗せるには、博士課程の学生やデザイナー、研究者が作ったプロトタイプを製品化を目指し、チームの規模を拡大するための投資がキーになってきそうだ。


▼米国の次世代ブランドやリテールテックの情報はCEREAL TALKのニュースレターでも配信中。

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