夏0勝から秋7勝…彦根総合が「青写真通り」のセンバツ切符をつかむまで/高校野球ハイライト特別編
いずれ出てくるだろう。でも今じゃない。
そんな見立てを覆し、2008年創部の彦根総合が昨秋の県大会で初優勝。近畿大会でもベスト8に入り、センバツ出場を視界にとらえている。
北大津で6度の甲子園経験を誇る宮崎裕也監督が、彦根総合で本格的に指揮を執り始めたのは2021年だった。
去年春の県ベスト4で一時は飛躍を感じさせたものの、夏は2年連続の初戦敗退。充実していく設備にチーム成績が比例せず、結果が出るにはもう少し時間がかかると思っていた。
と、正直に宮崎監督へ話した。
返ってきた言葉は「青写真通り」。「夏の敗戦で選手が初めて本当に悔しがった。『絶対負けられへん』という思いが良い練習につながる。秋は大丈夫やと」。
40歳以上も離れた選手との距離感に悩みながらも、最上級生となって言い訳できない環境に置かれたチームの変化を感じていたという。
ユニフォームデザインはクラシカルなのに、チームカラーはスマートでモダン。そんな印象を一変させる戦いぶりで、彦根総合は昨秋の県大会を勝ち進んでいく。
彦根東との準々決勝は延長15回・タイブレークの死闘を逆転サヨナラ勝ち。「最後まで食らいつくチームを象徴する一戦。夏を落とし、自分たちを見つめ直したから今がある」と主将の上田大地は振り返った。
それにしても十分なグラウンドがなかった湖東の学校に、SNS全盛期の選手がよく集まったと思う。宮崎監督は野球部の有無に関わらず、県内ほぼ全ての中学校を赴任後も回って学校をPRしていた。
「北大津の調子が良い時はたくさんの売り込みがあったが、今は人が引いていく。世の無常を知った」。エース級の投手を3枚そろえる選手層。寮やトレーニングルームなど充実の設備。「恵まれた環境」というイメージの裏側で、宮崎監督もまた地道な努力を重ねていた。
「1年の時には進路を間違えたかと思ったこともある。でも秋の優勝で報われた。彦根総合に来て良かった」。地元出身の上田が話す通り、道のりは一直線ではなかった。それでも2年間で夏0勝のチームは、昨秋だけで7勝を挙げ確かな結果を出した。
「ともに井戸の水を掘るのは生涯の友。井戸の水に寄るのは一時の友。日本一になるというオッサンの言葉を信じてくれた今の選手は生涯の友になる」。新たな名門誕生のスタートラインへ。泥臭く井戸を掘ってきた宮崎監督と選手たちが今、光を浴びようとしている。
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