カタパル

カタパルトスープレックスの日本語版です。 https://www.catapultsu…

カタパル

カタパルトスープレックスの日本語版です。 https://www.catapultsuplex.com

最近の記事

書評|ジーン・シャープ『独裁体制から民主主義へ』

ジーン・シャープの『独裁体制から民主主義へ』はとても尊い本だと思う。自らアインシュタイン研究所して民主化運動の研究を続けてきたジーン・シャープの集大成と言える本。アラブの春やウォール街を占拠せよでも読まれた本。非暴力の反体制運動のバイブル。 そんな尊い本ではあるのですが、どこか自分とは関係ないとも思っていました。日本は独裁体制ではなく、(完璧ではないにせよ)民主主義の国です。民主主義には民主主義の戦い方がある。それは選挙に行くこと。しかし、どことなく「それだけでいいの?」と

    • 書評|勝川俊雄『漁業という日本の問題』

      フェイクニュースに騙されないためには、リテラシーが大切だと言われます。少なくとも個人レベルでできることって、それくらいしかないです。何が事実で、何が推論で、何が憶測で、何が単なる間違えなのか。いろいろな「常識」がありますが、そのどれが本当に事実なのですかね。 例えば本書でいきなり提示される「日本人は昔から魚を食べていた」「魚離れで日本人はあまり魚を食べなくなってきている」に対する疑問。ボクもそう思ってたんですよ。日本人は昔から魚を主なタンパク源として取ってきたけど、肉を食べ

      • 書評|『デザインド・フォー・デジタル/持続的成功のための組織変革 』

        本来だったらカタパルトスープレックスで書評をするために読んでいた本なのですが、先週に日本語版が出版されてしまったのでこちらに書くことにします。読んだ(というかオーディオブックなので聴いた)のは英語版の"Designed for Digital"なので日本語版とは多少の差異があるかもしれません。 本著はMITがボストン・コンサルティングの協力のもとに、デジタル・トランスフォーメーション(DX)に関して多くの企業にインタビューをして、その知見をまとめたものです。大企業がDXに成

        • 書評| 山本浩貴 『現代美術史/欧米、日本、トランスナショナル』

          ボクは常に同時代(=コンテンポラリー)に関わりたいと思っています。音楽もビートルズよりテーム・インパラを聴いていたい。映画も小津安二郎よりクリストファー・ノーランの『TENET』を観たい。落語も古今亭志ん生ではなく柳家喬太郎の高座に行きたい。今でこそ過去のクラシックにも関心を持つようになりました。でも、20代まではクラシックを憎み蔑んでいたと思います。「ビートルズ?ざけんじゃねーよ」みたいな。 当然ながら美術もルネッサンスとか印象派とか大嫌いでした。積極的に嫌いでした。これ

        書評|ジーン・シャープ『独裁体制から民主主義へ』

          書評|yomoyomo『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』

          この本『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』はyomoyomoさんが2016年11月までWirelessWire Newsで連載したブログ記事をまとめたものです。個人的な話でありますが、その時期にボクは日本にはいなくて、ずっと海外で暮らしていました。自分自身のスタートアップで四苦八苦していた時期ですし、文章を読むよりは手を動かしていた時期でもあります。ボクにとっては情報の空白期間でした。 本書『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・

          書評|yomoyomo『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』

          書評|ミルトン・フリードマン『資本主義と自由』

          行き過ぎた新自由主義が主にリベラルから批判されることが多い昨今です。表面的に現れた批判がWe Are the 99%でしょう。アメリカでは1%の人が23.8%の所得(フロー)を稼ぎ、30.8%の資産(ストック)を所有しているからです。ボクたちは1%ではなく、99%ですよと。「ウォール街を占拠せよ」のスローガンにもなりました。 トマ・ピケティが指摘しているように、1980年代から富の格差は拡大しています。これは新自由主義が政策に取り入れられはじめたレーガン・サッチャー時代に呼

          書評|ミルトン・フリードマン『資本主義と自由』

          書評|成沢理恵『お人良し』

          拝啓 本を書く人(著者)や編集する人(編集者)と友達はいっぱいいるのですが、友達の本について書評を書く機会ってほとんどありませんでした。それは、本家ブログの「カタパルトスープレックス」が日本未公開の作品を紹介するからです。もちろん、海外の著者の友達もいますが、タイミングが合わず、書評を書くに至っていません。 一方で、こちらのブログ「カタパル」は日本語の情報をメインに扱っています。そのため、知人の書籍を書評する機会はくるだろうなと思っていました。しかしですよ。まさか、知人の

          書評|成沢理恵『お人良し』

          書評|國分功一郎『中動態の世界』

          前にボクが書いたスピノザ『エチカ』(100分de名著)の書評を読んだ友達が、まさにこの本の世界だね!と教えてくれたのが國分功一郎『中動態の世界』です。こういうポジティブスパイラルって素晴らしい。 まず、タイトルからして惹かれます。中動態ってなんだ?サブタイトルが「意志と責任の考古学」なのですが、これは歴史を紐解く本なのか?とても興味が湧いてきます。実際は文法の歴史的変遷から様々な哲学者を読み解く本です。その中心となる文法が、失われた「中動態」です。何を読み解くか?それが「意

          書評|國分功一郎『中動態の世界』

          書評|押井守『押井守の映画50年50本』

          2020年は映画を観る年と決めたので、たくさん映画を観ています。そして、映画に関する本もたくさん読んでいます。参考になる本もあるし、参考にならない本もある。 映画に限らず、なんでもそうだと思うのですが、観る人によって印象は全然違いますよね。同じ人が見ても、年代やその時の気分で同じ映画でも印象は変わります。それにしてもです。同じ映画を「いいな」と感じているのに、ここまで感じ方が違うものでしょうか。それが『押井守の映画50年50本』を読んだ最初の印象です。例えばヴィム・ヴェンダ

          書評|押井守『押井守の映画50年50本』

          書評|スピノザ『エチカ』(100分de名著)

          ボクの知識の習得スタイルってインプットとアウトプットに分けることができます。本を読んだり、映画を観るのはインプット。書評を書いたり、映画評を書くのがアウトプットです。プログラミングを学ぶことがインプット、実際にプログラムを書くのがアウトプット。アウトプットは人との会話でもいい。この本を読んでこんなふうに感じたんだと別の人に伝えてみる。そうするとフィードバックもあり、知見がさらに深まります。モノの見方は多角的で、一人が見れる範囲は限定的ですからね。同じAを見ても、ボクと他の人で

          書評|スピノザ『エチカ』(100分de名著)

          書評|増村保造『映画監督 増村保造の世界』

          ボクが映画を観るとき、複数の同じテーマの映画を観ます。例えば「脱獄」のテーマだったらジャック・ベッケル監督『穴』(1960年)、スティーブ・マックイーンとダスティン・ホフマンのダブル主演『パピヨン』(1973年)、クリント・イーストウッド主演『アルカトラズからの脱出』(1979年)、シルヴェスター・スタローンとアーノルド・シュワルツェネッガーのダブル主演『大脱出』(2013年)、そして変わり種の『CUBE』(1997年)と立て続けにみます。もちろん、スティーブ・マックイーンの

          書評|増村保造『映画監督 増村保造の世界』

          書評|ドナルド・リチー『素顔を見せたニッポン人―心に残る52人の肖像』

          ドナルド・リチーは海外に小津安二郎を紹介した人です。日本映画は海外でも評価が高いです。もちろん、作品自体の素晴らしさもその要因でしょう。しかし、その作品の素晴らしさを知るには、その作品自体を観るきっかけが必要です。ドナルド・リチーがいなければ、日本映画が海外で評価されるのにもっと時間がかかったかもしれません。 著書で有名なのは小津安二郎を紹介した"Ozu: His Life and Films"(日本語訳:小津安二郎の美学)や"The Films of Akira Kuro

          書評|ドナルド・リチー『素顔を見せたニッポン人―心に残る52人の肖像』