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書評|ドナルド・リチー『素顔を見せたニッポン人―心に残る52人の肖像』

ドナルド・リチーは海外に小津安二郎を紹介した人です。日本映画は海外でも評価が高いです。もちろん、作品自体の素晴らしさもその要因でしょう。しかし、その作品の素晴らしさを知るには、その作品自体を観るきっかけが必要です。ドナルド・リチーがいなければ、日本映画が海外で評価されるのにもっと時間がかかったかもしれません。

著書で有名なのは小津安二郎を紹介した"Ozu: His Life and Films"(日本語訳:小津安二郎の美学)や"The Films of Akira Kurosawa"(日本語訳:黒澤明の映画)のような映画関係の書籍です。いずれも新刊で入手しにくいのは残念なことです。

今回紹介する『素顔を見せたニッポン人』はドナルド・リチーの心に残った日本人52人についてのエッセーです。映画関係の書籍ではありません。小津安二郎、三船敏郎のような映画関係の有名人から、阿部定や三島由紀夫のような映画と関係ない有名人。しかし、多いのはまったく無名な市井の人たちです。

日本人が知る日本人と、外国人が知るニッポン人は違うと思うんですよね。どちらが本当なのか?どちらも本当でしょう。存在は相対的だからです。自分が知る自分と、他人が知る自分は違うのと同じです。また、この本を読むと、外国人にだから見せることができる(他の日本人には見せることができない)別の一面があるのだとわかります。

特にボクの印象に残ったのが府中の大國魂神社で今でも行われる「くらやみ祭」の当時の描写です。今では普通のお祭りですが、当時は本当に暗闇の中で行われる、荒々しいお祭りだったんですね!

有名人のエピソードで鮮烈だったのが三島由紀夫。割腹自殺をする前に「世話をしている男子学生」をドナルド・リチーに引き取って欲しいと依頼します。その時は割腹自殺をするなんて知る由もないドナルド・リチー。しかし、振り返ればあれば身辺整理だったのだなと。

このエピソードで三島由紀夫が考える他人との関係性を垣間見ることができたとドナルド・リチーは振り返っています。三島由紀夫は他人に「役割」を見出す。その人自身の「人格」とか「意志」とかは重要ではない。三島由紀夫にとってどのような「役割」なのかが重要だと。なかなか面白い考察だと思いました。ボク自身は三島由紀夫の著作を一作も読んだことがないので、なんとも言えないのですが。

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