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書評|勝川俊雄『漁業という日本の問題』

フェイクニュースに騙されないためには、リテラシーが大切だと言われます。少なくとも個人レベルでできることって、それくらいしかないです。何が事実で、何が推論で、何が憶測で、何が単なる間違えなのか。いろいろな「常識」がありますが、そのどれが本当に事実なのですかね。

例えば本書でいきなり提示される「日本人は昔から魚を食べていた」「魚離れで日本人はあまり魚を食べなくなってきている」に対する疑問。ボクもそう思ってたんですよ。日本人は昔から魚を主なタンパク源として取ってきたけど、肉を食べるようになって、あまり魚を食べなくなった。そう思ってたのですが、本書で解説されているようにデータを見るとそうではない。え?そうなの?日本人が魚をすごく食べるようになったのは第二次世界大戦後なんですね。そして、現在まで一人当たりの魚の消費量は増えている。知らなかった!

そして、日本の漁業は衰退産業でその原因は「日本人の魚離れ」や「外国船の違法な乱獲」や「環境問題」だと思ってませんでした?ボクもそう思ってたんですよ。そして、やはり本書はデータや海外事例を紐解いて、日本の漁業の衰退は日本人による乱獲が原因だと明らかにしていきます。漁業が非常に衰退しているのは日本だけなんですね。日本の「失われた30年」みたいなものです。なぜか?日本が乱獲を規制しなかったからです。乱獲すれば水産資源は減ってしまう。その現象が持続できないほど減ってしまったら漁場は枯渇してしまう。それが日本です。

多くの国は漁獲量を厳しく規制することによって、自国の水産資源を管理して漁業を発展させています。衰退産業ではない。本書で紹介されているノルウェーやニュージーランドの事例を見れば、他の国々もIQ方式による規制による漁業発展に追従するのはうなずけます。なるほど。

ボクたちが、なぜ日本の漁業の真実を知らないのか。それは水産庁がデータを管理して「大本営発表」で情報統制をしているから。朝日新聞のこの記事「東シナ海、日本漁船ピンチ、底引き網漁場を中国船が占有」なんか代表例ですよ。実際に乱獲で東シナ海の海産資源を壊滅させたのは日本の漁業であることがデータでも分かっています。

問題に対する解決方法も分かっている。それなのに実行せずに、むしろ問題を曖昧にして先送りにする。これって、漁業に限らず日本の多くの産業で見られます。IQ方式の導入は痛みを伴う改革なんだと思います。しかし、規制をしなければ日本の漁業はひたすら衰退していくしかない。それがとてもよくわかる書籍でした。

漁業に関しては面白い本が多いんですよ。鈴木智彦『サカナとヤクザ』を読むと、漁業とヤクザの関係性が分かってくる。漁業とヤクザの関係がこの本で理解していたから、映画「座頭市」シリーズもより一層楽しめました。

「座頭市」シリーズの大一作目『座頭市物語』の舞台は下総で、まさにヤクザの発祥の地です。物語は浪曲「天保水滸伝」を題材にしていて、飯岡助五郎と笹川繁蔵の抗争が背景となっています。それぞれ漁村の網元です。「天保水滸伝」は清水次郎長や国定忠治も登場するヤクザの『アヴェンジャーズ 』的なお話です。当然ながら座頭市もヤクザです。『座頭市物語』が下総ではじまるのには理由があるんです。


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