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書評|『デザインド・フォー・デジタル/持続的成功のための組織変革 』

本来だったらカタパルトスープレックスで書評をするために読んでいた本なのですが、先週に日本語版が出版されてしまったのでこちらに書くことにします。読んだ(というかオーディオブックなので聴いた)のは英語版の"Designed for Digital"なので日本語版とは多少の差異があるかもしれません。

本著はMITがボストン・コンサルティングの協力のもとに、デジタル・トランスフォーメーション(DX)に関して多くの企業にインタビューをして、その知見をまとめたものです。大企業がDXに成功するためにはどうすればいいのか、その指南書としてまとめられたものです。しかしながら、ボクは本書のようなスタートアップを知らない頭でっかちなコンサルタントのアドバイスをそのまま鵜呑みにするから「大企業がDXに失敗する」と理解できた本でした。MITだったらメディアラボもあるんだから、もっとスタートアップを理解している人たちもいるだろうに。

本書は「既存のビジネスのデジタル化」と「新しいデジタルプロダクト」は分けるべきだと説きます。ボクもそれには賛成です。ただ、本書の過ちは「既存のビジネスのデジタル化(digitalization)」と「新しいデジタルプロダクト(digital)」が一本の道でつながっていると誤解している点です。トヨタ自動車がいかに既存のプロダクトやそれに関わるプロセスを「デジタル化」したとしても、新しいモビリティーサービス(例えばUber)には繋がらないんですよ。本書でまだ「新しいデジタルプロダクト」で成功した企業はほぼいないといいますが、そりゃそうですよ。そんなやり方では無理。

この書籍で解説されているデジタル化(digitalization)はERPやCRMの社内導入とさほど変わらないように思えます。製造業ならPLMとか。そういうデジタル化した基幹システムのバックボーンが必要だと。それにはすごく時間がかかる。事例でも登場したレゴなんかも8年間かかったし、これって終わりがないですよね。そんなことをしている間に世の中はどんどん変わってしまいます。だから、アジャイル にやりましょうってことなんだけど、業務のバックエンドをデジタル化したからって新しいデジタルプロダクトを世に出せるわけじゃないですよね。それがこの本を書いた人たちはわかってない。全く理解していない。

一方でスタートアップを買収するときは注意が必要だと説きます。スタートアップが作るデジタル商品はバックエンドがちゃんとしていないことが多いから。そりゃそうですよ。「ちゃんとやる」ことがスタートアップの目的じゃないですから。顧客ニーズにマッチしたPMFを探すことがスタートアップがまずやらなければいけないこと。それは、大企業でも同じはずなんですけどね。ちゃんとしたバックエンドを作ってからPMFを探して、無かったらどうするんですか?バカだろ。

出たばかりの本をこれだけディスって申し訳ない気持ちもありますが、この本は大企業がなぜDXで失敗するかの見本市なんですよ。まずは顧客が求める商品を作ってPMFがあるかどうかを確かめましょう。話はそれからだ。

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