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書評|押井守『押井守の映画50年50本』

2020年は映画を観る年と決めたので、たくさん映画を観ています。そして、映画に関する本もたくさん読んでいます。参考になる本もあるし、参考にならない本もある。

映画に限らず、なんでもそうだと思うのですが、観る人によって印象は全然違いますよね。同じ人が見ても、年代やその時の気分で同じ映画でも印象は変わります。それにしてもです。同じ映画を「いいな」と感じているのに、ここまで感じ方が違うものでしょうか。それが『押井守の映画50年50本』を読んだ最初の印象です。例えばヴィム・ヴェンダース監督作品『パリ・テキサス』について。押井守はナターシャ・キンスキーの映画だと言うけど、ボクはハリー・ディーン・スタントンとハンター・カーソンの映画だと思ってる。これはかなり決定的な違いなんですよ。観る視点が全然違う。

多くの映画は観たことのある映画なのですが、中には観たことがない映画も紹介されていました。その代表例が『ウォーリアーズ 』です。なるほど、面白いと思ったポイントは多分違うのですが、ボクも楽しめました。そして、押井守監督がこの映画から引用して作った映画が初の実写映画監督作品の『紅い眼鏡』(1987年)なのだそうです。なるほど、『ウォリアーズ 』が面白かったんだから、『紅い眼鏡』も面白いのではないかと期待するじゃないですか。これが全く面白くない!!!😂

ボクは押井守監督の初期作品は熱心に追いかけていました。具体的にはテレビアニメ作品ですし、映画せ作品なら「うる星やつら」の『オンリー・ユー』や『ビューティフル・ドリーマー』です。アニメ雑誌『アニメージュ』で連載されていた『とどのつまり 』も読んでましたし、単行本も持っています。しかし、それ以降は実はあまりよく知りません。『パトレイバー』も『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』も『イノセント』も観てません。なんか、食指が動かないんですよね。これがセンスの違いってやつなんでしょうか。

例外的にボクが観た「うる星やつら」以降の押井守作品は『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』です。原作は森博嗣の小説『スカイ・クロラ』です。押井守と森博嗣ってどことなく作品の雰囲気が似てますよね。引用を重視するのも似ている。『押井守の映画50年50本』の中で『スカイ・クロラ』は独自の時間を描くことができた初めての作品と押井守は評しています。うん、それはボクもそう思う。確かに『スカイ・クロラ』には独自の時間が流れていた。ひょっとしたら、ボクは押井守監督作品の中で『スカイ・クロラ』が一番好きかもしれない。

映画の見方が押井守とボクは全然違うので、個別の作品に対する印象も全く違います。これは本当に面白いくらい違う。これは映画に何を求めているかが違うからなんだと思います。そして、映画に対する距離感も違う。押井守は映画監督だから、映画との距離感が圧倒的に近い。ボクは押井守より全然離れた位置から映画を観ています。

でも、映画を見る姿勢は押井守とボクはすごく近いと思います。押井守は名作だけ選んでみたらダメだと言います。ダメ(と言われる)作品もどんどんみないと。映画作品だけでなく、なんでもそうだと思うんだけど、単体で評価ってできない。何かを比較した方が評価しやすいんですよ。その評価軸を持つために、たくさんのインプットがないといけない。名作だけ選んでみるとインプットが足りない。これはボクもそう思います。こういうことを言える人って、信頼できる。

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