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書評|増村保造『映画監督 増村保造の世界』

ボクが映画を観るとき、複数の同じテーマの映画を観ます。例えば「脱獄」のテーマだったらジャック・ベッケル監督『穴』(1960年)スティーブ・マックイーンとダスティン・ホフマンのダブル主演『パピヨン』(1973年)クリント・イーストウッド主演『アルカトラズからの脱出』(1979年)シルヴェスター・スタローンとアーノルド・シュワルツェネッガーのダブル主演『大脱出』(2013年)、そして変わり種の『CUBE』(1997年)と立て続けにみます。もちろん、スティーブ・マックイーンの『大脱走』も観ます。同じテーマを続けてみることによって、共通点がわかってきます。そして、時代によってテーマの変遷がわかります。

共通点が分かると、パターンが分かります。脱獄ならA) 閉じ込められた場所から出る。そして、B) 出てから捕まらないようになるべく遠くまで逃げる。これがパターンです。

ボクの場合、監督をテーマにして観ることも多いです。ある監督作品をとにかく時系列に観る。そのきっかけとなったのがヒッチコック作品です。もっと具体的に言えばフランシス・トリュフォー著『定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー』です。この本の凄いところはその手法と網羅性です。トリュフォーが何百時間もかけて質問リストを作り、そのリストを事前にヒッチコックに見てもらう、その上でインタビューを1週間行う。

映画鑑賞って観客一人一人と作品との会話だと思うんですよ。アートもそうですよね。アート鑑賞は作品との対話です。とても個人的な体験です。それぞれ感じ方も違う。何が正しいのかって無い。芸術家は作品で語るべきであり、言葉で語るべきでは無い。一方で、やはり芸術家が何を考えてそれを作ったのか知りたい願望もあります。トリュフォーはその願望をこの本で叶えてしまった。そして、それを多くの人と共有した。実際にこの本を読みながらヒッチコック作品を観ると、これまで見えてこなかった、気づかなかったことも見えてきました。やっぱり、ヒッチコックならではのパターンがあるんですよ。

『定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー』のように監督自身が自分の作品の解説してくれる機会って多くないので、とてもありがたいです。日本の監督だと増村保造の『映画監督 増村保造の世界』がこれにあたります。増村保造監督本人が自分の生涯を振り返りつつ、各作品で何を描こうとしていたのかを詳しく語ってくれています。

増村保造監督って黒澤明、小津安二郎、溝口健二と比べると忘れられた存在って感じがします。監督として覚えられる人たちって、すごく強烈な作家性がある。黒澤明だったらアクションとエンターテイメントだし、小津安二郎だったら小津好みとローアングル。もちろん、それだけじゃないですよ。でも、名前を聞けば特徴がパッと頭に浮かぶ。増村保造監督はそういうタイプの監督じゃないんですよ。すごくバラエティーに富んだ作品を作った。

今年に入って十作品くらい連続で観たのですが、『映画監督 増村保造の世界』をテキストとして読まなければ、共通点というか増村保造監督が描こうとしていた一貫したテーマはなかなか見えてこなかったと思います。いろんなジャンルの作品を作っていますが、描こうとしたのは「社会、組織や家族といった"関係"に妥協せず抗う"個人"」なんですね。空気を読むな!自分を貫け!ってことなんですよ。

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