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しかがみさま 第一章 第十夜
第十夜 ある種の終焉
「マジかよ...」
本当になぜか分からないのだが、美緒の当てずっぽうで向う見ずな歩み方で、あの張り出した棚の様な所へ着いてしまった。
「ほら、私って天才だからさ」
美緒は得意気に笑うが、当初の目的としていた服の乾燥はもう意味を成さない。なぜなら9月のこの暖かな陽気に、山道を歩いてきた服に引っ付いた水分はいつの間にか俺達に別れを告げたからだ。
「もう、服乾いちゃったんだけど」
しかがみさま 第一章 第九夜
第九夜 思ひ出
昨日見た筈の、見慣れていた筈のその山は何故か初めて見る様な感動を覚えさせる。
俺の家の近くにも山はあるが、ここまで立派な山では無い。あのみすぼらしいはげ山と比べて、これはもう山というか何というか、昔の人がダイダラボッチだのなんだのを信じてた理由が分かる気がした。
「美緒ぉ、早く行こうよぉ。俺あちーんだけど」
詩的な事を言ったって、夏の暑さは消えてくれない。半袖半ズボンの俺でさえジ
しかがみさま 第一章 第八夜
第八夜 登山
「ぁあああ!」
何かを振り払う様に叫んで、俺は飛び起きた。手に掴んでいた布団から手を離すと、掴んでいた辺りがしっとり濡れていた。慌てて手のひらを見れば、びったりと手汗が張り付いている。手汗を布団に擦り付け誤魔化し、口元を拭った。
「うげ」
最悪だ。口を開けて寝ていたのかヨダレがはみ出していたらしい。拭った手の甲に、びろーんと嫌なヨダレが着いている。
「何してんの?」
俺では無い声が
しかがみさま 第一章 第七夜
第七夜 お預け
「ちょっくら行ってくるわ」
じいちゃんはそう言って愛車の軽トラと共に姿を消してしまった。夕飯に食べろと言わんばかりにパラパラのチャーハンを置いて。
これではしかがみさまの話が聞けないではないか。美緒も何故かは知らないが怒り心頭の様で、話しかけても生返事しかしない。顔色もどこかくすんでいて、こちらが心配になるくらいだった。
「…チャーハン食べる?」
沈黙に耐えかねてそう声を絞り出す
しかがみさま 第一章 第六夜
第六夜 美緒
「死鏡...?」
思わず聞き返す。だが、じいちゃんはそれには明確な答えを示さない。
「ま、細かいこたぁ後で言やぁいいさ。そういや、今日は美緒も来てるぞ」
「はぁ?美緒が?」
『美緒』その名前にふと、遠い微かな記憶を見た気がした。従兄妹の美緒。小さい頃はよく会っていたが、最近はじいちゃんと同様3年は会っていない。あぁ、あの頃はよくじいちゃん家の近くの小川に近所のチビ共も連れて行って
しかがみさま 第一章 第五夜
第五夜 田舎
お腹がぐるるると鳴り始めた頃、新幹線は目的地に停車した。母さん特製弁当を食べようか食べまいか迷っていたから、ある意味ちょうど良かったのかも知れない。
それでも食べそびれた弁当を惜しみながら下車して、駅のホームを出た。差してくる陽の光が眩しくて目を細めていると、遠くから
「おーい、おーい」
と声がする。声の主を探してみれば、遠くに陽炎のように揺らめく人影が見える。一人の心細さに耐
しかがみさま 第一章 第四夜
第四夜 寝坊
『ピロピロピロン!ピロピロピロン!』
まるでゲームのザコ敵が繰り出すようなへなちょこな音で俺は目を覚ました。耳の横で忙しなく鳴り続けるそれを、半ば殴るようにして止めてリビングへ向かった。
「おはよぉ」
ぐわぁと大きな欠伸をかましながらくぐもった声で挨拶をする。
「あらぁ、おはよう。早くしないともう出る時間になっちゃうわよ」
朗らかな笑顔を浮かべて、そんな恐ろしい事を抜かすものだか
しかがみさま 第一章 第三夜
第三夜 リンク
昼休みのおかしな笑いは腹の底にくすぶって、家に帰り着いても消えることは無かった。
木のやわらかな木目が活かされた玄関扉に手をかけて、勢いよく扉を引いた。それと同時に
「ただいまー!」と地球の裏側にまで聞かせてやろうという声量で自分の帰りを家に告げた。
玄関の先の扉の、花が咲いた様な模様が彫られたすりガラスの向こう側から、応えるように声が聞こえた。
「おかえりー!」
母さんだ
しかがみさま 第一章 第二夜
第二夜 夢世界
―目が覚めたらそこは異世界だった―
「厨二?」
「じゃねぇよざけんな」
明楽や野次馬達が語りの初めだけでギャハハ、と下品な笑い声を零す。確かに今流行りの異世界転生モノみたいだ。だがしょうがないだろう。だって夢なのだから。
「ハゲは黙って聞けねぇのかよ。あ、そっか猿だから聞けないんだ!」
そんな事を言えば明楽の顔はみるみるうちに真っ赤に染まっていく。本当に分かりやすい。真っ赤な
しかがみさま 第一章 第一夜
第一夜 ハゲ猿
2024年 9月10日
「野球ってある意味運ゲーやろ?」
ベラベラベラベラ阿呆みたいなこと抜かすこのハゲ坊主は一応親友としてやってるハズだが、野球が運ゲーなんて今どき“バズり”に命をかけてるJKでも言わないだろうその言葉にはカチンと来ざるを得なかった。
折角の昼休み。窓から射し込む柔らかな日光が憎らしい。生徒のスマホの持ち込みが発覚したらしく、連帯責任とか何とか言って、クラ