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ハントマン・ヴァーサス・マンハント

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逆噴射小説大賞に応募にしたパルプ小説と、その続きを思いつくまま書き殴っています。ヘッダー画像もそのうち自前で何とかしたいのですが予定は未定のままであります。
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2019年4月の記事一覧

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第57わ「真実の世界へ」

(承前) 騎士めいた痩躯のハントマンは傍らに落ちたズタ袋を拾い上げると高笑いを残して屋上の縁へと駆け出した。飛び降りたのだ。 「チッ。あの一ツ星ハントマン、今が一番❝ゲーム❞が楽しく感じられる時期でしょうね。戦闘、勝利、そして成長です。まぁ、装備の強さを自分の強さだと錯覚しがちな個体もいるようですけど。次に会うとき、どれだけ強くなっているか……」 気がかりなのは敵よりも相棒だ。胸と右肩から生えた杭。相棒はこれを❝ペナルティ❞だと言っていた。まさか一生このままだったりする

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第56わ「この門をくぐる者よ」

(承前) 上層部とやらは……人間同士を掛け合わせて血の美味い子どもを作ろうとしているというのか。それでも俺の血は、いつ、どうやって調べたのだろう。 「私も詳しいことは分からんが、お前らニンゲンは生まれた後に血液型を確かめるだろう?子どもは知らずとも、親は書類や名札の裏に血液型を書かせているはずだ。(血液型など知らなくても日常生活には何の支障も無いというのに)その際、我らの手の者が機械にかけて分析するのだそうだ」 近世より、人間社会はハントマンに裏から支配されてきた……と

プロト版ハントマン・ヴァーサス・マンハント【血戰!帝都の吸血鬼伝説】(#4)

(承前) マスターの様子がおかしい。頑なに口を閉ざしたまま、出入口の前に立ち塞がって動こうとしない。「まぁまぁ。君の為にコーヒーとサンドイッチを注文したんだ。口を付けないで店を出るというのも悪いだろう」吸血女の暢気な声。頷いて同意するマスター。腹立たしい気持ちもあるが実際その通りかもしれない。少なくとも昨日から何も食べていないのだ。温かい屋内に入ったことで緊張の糸が緩んだのだろう、日頃の疲れが一気に噴出したようにも思える。そうか、腹が減るから腹が立つのだ。「注文の品が届いた

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第55わ「❝生まれた❞意味」

(承前) 俺の価値とは、即ち俺の血の価値。何となく分かっていたことではあるが、改めて言われると辛い。 「いつ見てもいいものだな、真実に打ちひしがれる家畜の顔を眺めるのは!❝ゲーム❞について知りたいことが、まだあるか?」 「……結構です。今から貴方の口を塞いで差し上げますから」 相棒の殺気。俺が指示を出せば、すぐにでも目の前のハントマンに飛び掛かりそうな勢いだ。 「早く命令をください。あれは敵です。敵は倒さなければなりません!」 しかし俺には知らねばならぬことがある

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第54わ「夜警」

(承前) 「念入りに潰したい新入りでも居るのか?」と訊かれたところで俺には答えようが無かった。他の参加者のことなど何も知らないからだ。だからこそ同級生からの騙し討ちで危うく命を落としそうになったのだが。 「我々はパトロールの最中だったのです。街に蠢くマンハントを掃除するのも貴族たるハントマンの使命ですからね!」 「ふん、怪しいものだな。杭を打たれた手負いの三ツ星ハントマンに、一度も血を吸われていない三ツ星ニンゲンのペアか。何かの罠だと考えるのが妥当ではあるが……」 待

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第53わ「夜に我が名を呼ぶならば」

(承前) 青天の霹靂であった。❝ゲーム❞が終われば❝次のゲーム❞が始まる。相棒の言を信じるならば、ハントマンどもは大昔から、この世界を陰から支配して人類を家畜として飼い慣らしていたという。そして途方もなく長い寿命を持て余した彼らは食事と娯楽を両立させた❝ゲーム❞に明け暮れるようになった……というのは既に聞き及んではいた。こんな戦いが、いつから続いているのだろう?そして、いつまで続くのだろう? 「ええと、すみません。まだ❝ゲーム❞は本選が始まってすらいませんからね。こんなこ

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第52わ「てっぺん目指そう」

(承前) 「……というワケで連中の追跡から逃れるべく今から次のビル……というか県庁ですね。あそこを目指して跳躍します。途中からは壁面を登攀する必要がありますのでダンナは自分の力で私にしがみついてなければなりません。ここまでで質問はありますか?」 今のところは特に無い。 「ならば結構。行きますよ!」 叫び声と同時に心臓に悪い浮遊感が全身を包み込む。空から眺める、この街の夜景も悪いものではないと不覚にも思ってしまった。それが一種の現実逃避だとは知りつつも。……そして鈍い衝

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第51わ「真打覚醒」

(承前) 見渡す限りの人間狩りの群れ。死の覚悟など、とっくに出来ている……はずであった。だが、怪物から逃れて他の怪物に血を吸われて死ぬとなれば。どうあっても人類の敵を利することになるのなら。いつ死んだって同じことだ。ならば、いつ死んだって馬鹿馬鹿しいということになる。 「え?ダンナ……?」 相棒の体に必死でしがみつく。ここから逃げよう。生きて明日を迎えよう。今後のことを時間をかけて話し合おう。 「すみません、蚊でも鳴いてるんですかね?よく聞こえませんでした」 俺と!

プロト版ハントマン・ヴァーサス・マンハント【血戰!帝都の吸血鬼伝説】(#3)

(承前) コップの水を一息に飲み干し、高遠少年は勇気を振り絞る。「❝再来者❞のことをケンゾクと言っていましたよね?一体どういうことなんです?」「部外者には教えられないな」吸血女は紅茶を一口すすると、少年の視線に気分を害したのか、慌てて言葉を付け足した。「ふざけているつもりは無いよ。いいか?聞いてしまえば君は通りすがりの少年Aではいられなくなる」「それなら結構です」帽子を被って立ち上がる。「さよなら。僕はもう行きます。『危ないところを助けていただいてありがとうございました』な

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第50わ「永遠の躊躇」

(承前) いや、知らない女に急に抱き着いてくれと頼まれても困る。そもそも、その胸から生えた杭が何なのか説明してほしい。 「これは、パートナーの意に沿わない行動を取ったハントマンに対する……ペナルティです。呪いのようなものと思ってください」 俺の意に反して、俺を守って、俺のせいで苦しんでいるというのか。胸に熱いものが込み上げて来そうになったが、一瞬で冷静さが戻って来る。俺は❝パートナー❞とやらに、なりたくてなったわけではない。 「分かってます。徹頭徹尾、私がやりたくてや

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第49わ「最後に残されたもの」

(承前) ……銀玉鉄砲は遂に弾切れ。俺の人生も、ここまでか。恐怖はあるが、後悔は無い。もっとも、連中の牙が俺の首筋に突き立てられれば、どうなるか分からないが。 「勝手に……!生きることを諦めるのは、やめてくださいますか!?」 相棒、もとい知らない女が人さらいめいて(事実その通りだが)俺を担ぎ上げると、そのまま助走を付けて跳躍する。着地点は……隣のビルの屋上だ。 「嗚呼!まだまだ湧いてきますよ!このまま夜明けまで逃げ切れるか……」 人間狩りも追いかけて来る。このビルに

プロト版ハントマン・ヴァーサス・マンハント【血戰!帝都の吸血鬼伝説】(#2)

(承前) この女性は何と言った?❝再来者❞を指してケンゾクと言ったのは聞き間違いではあるまい。恐らくは家族、一族、そのようなものであろう。要は、こいつも人間を襲う怪物だと言うことだろうか。「待ってくれたまえ。私は人間を襲ったりはしないよ。少し血液を分けて欲しいだけなのだ。無論、タダでとは言わない」気が付けば、高遠少年は喫茶店のテーブルに吸血女と向かい合って座っていた。性質の悪い詐術に嵌められたような思いが拭えない。それにしても、この店の内装には見覚えがある。父親が航海に出る

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第48わ「戦って死を待つ」

(承前) 遂に相棒が自発的に戦闘行動を開始する。いや違う。相棒なんかじゃない。自分の名前も明かさない女を相棒と認めることなど俺には出来ない。 「その、大事なお話をしたいのは分かりましたけども!込み入った話は!家に帰ってからにしません?」 素性の知れない女が人間狩りを(文字通り)ちぎっては投げて、ちぎっては投げる。ルールのせいでニンゲンからの指示が無い限りは集団を一掃するような必殺技は行使できないようだ。それでもパンチとキックだけで上手く戦っている。 「……!このままで

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第47わ「意地と矜持」

(承前) 四方八方から人間狩りが迫って来る。鶏卵めいた頭、青ざめた肌、尖った耳に、せわしなく動く眼球。銀の弾丸も残りは少ない。無駄撃ちは死を意味するであろう。ワンショットでワンキルしても足りないかもしれない。だが、やるのだ。生き残る為に。 「ダンナ?士気が高いのは結構ですけどぉ……勿体ないから銀の弾丸は温存した方がいいかも、ですよ?こんな奴ら、私が指先一つでダウンさせちゃいますから!」 無視して発砲する。気の抜けた音と共に銀玉鉄砲が銀の弾丸を吐き出す。マンハントの眉間に