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この街がすき。桜と公園とコーヒーと。いつでも何度でも初めてを思い出す。

「趣味はなんですか?」

う、どうしよう、なんて答えよう…
私は焦った。

ヘロヘロになりながらなんとか仕事をこなし、やってきた場所で聞かれた趣味。
私は、お見合い…
ではなく、当時3歳の上の息子の保育園に保育参加にやってきた。
そして園児からの質問を受けていた。

ピアノは長らく弾いてないし、読書もご無沙汰だし、ヨガもマタニティクラスの後ベビーヨガに行ってから2年は経ってる…
趣味がない!

苦し紛れに答えた。
「コーヒーをいれることです!」

わー!!
いいなー!!!
うちのパパもやってるよー!!!!

歓声が上がる。
よかった、すべらなくて…先生もにこやかに進行していく。
3歳児もコーヒーを知ってるんだな。

その後、先生と園児たちと公園へ行った。
息子が公園でお友達と遊ぶ姿を見られると思いきや、私に懐いている息子の友達と息子が私を取り合う謎の展開に戸惑っていた。
先生が小さなベンチに息子と腰掛けたところを写真に撮ってくれた。

このときの公園には桜がある。
今の時期は、桜の花びらが散り始めて地面が桜色に染まっている。

公園のそばを通るたびに、保育参加の日のことを思い出し、遊びの最中も公園への道のりもずっと私の手を離さなかった幼い息子を思い出す。その2年後の保育参加では親の手を離さないなんてことはなかったことに、今更気づいてどうしようもなくさみしくなる。

先日、弟が同じ公園に保育園で散歩に連れて行ってもらった。桜吹雪の下で、舞い降りる桜の花びらに手を伸ばし、パチンパチンと手を叩いてキャッチしようとしていたらしい。

その話を先生から聞いて、私の脳裏にはその公園での上の子との別の思い出が浮かんできた。あれは確か、3歳児健診の日。有給休暇を取っていた私は帰りに息子とその公園に寄った。息子からしたら、私と行くより保育園のお散歩で行くことが多い公園。私にいろんなことを教えてくれて、普段している遊びに誘ってくれた。

確実に、自分の世界を広げる息子を頼もしく思った。そしてやはり、いつかは、私の手を離して遠いところへ羽ばたいていく息子を思ってその夜ひっそりと涙した。

その公園の向かいにはコーヒースタンドがある。育休中に弟の散歩帰りに寄っていたから、スタンプカードの日付は妙に一時期に集中している。今はもう顕著に減ったが、コロナで夫の在宅勤務がほぼ毎日だったので差し入れに買ったりもした。

鼻を垂らしている弟を保育園から最寄りの小児科に連れていく途中に、公園とコーヒースタンドを通過する。小児科に行けば、赤ちゃんだった上の子を診てくれた先生と看護師さんがいる。

そして、私はまた思い出す。

そこの小児科から、抱っこ紐で当時まだ0歳の上の子をうちへ連れて帰った日々のことを。5ヶ月で保育園に行き始め、不安で押し潰れそうになりながら歩いたことも。抱っこ紐の中で寝て息をしているか不安になって、立ち止まって顔を近づけて確認したことも。

この街には、地域循環バスが走っている。

人生で初めて乗ったバスは、上の子も下の子もこの地域循環バスだった。ふたりとも、バスが大好き。小型で気軽に乗れて、いく種類もルートがあるこのバスを特に上の子はこよなく愛している。将来の夢も、バスの運転士。

弟の妊娠中はチャリで保育園に送れなくなり、停留所3つ分の距離を毎日お世話になった。

育休中には、上の子の園ではコロナが何度か流行っていたため、登園自粛し自宅でみている日も多かった。そんな日は、地域循環バスで近隣の公園をはしごした。ベビーカーに弟を乗せ上の子の手を引いて実に様々な公園へ出向いた。通勤時間のあとのバスにはおじいちゃんおばあちゃんが乗っていることが多く、優しく話しかけてもらえて嬉しかった。

そんな地域循環バスは、料金が一律100円。
乳幼児は無料だ。上の子は、小学生になるので今後は料金がかかるようになる。 

どこへいくにもファーストチョイスだった地域循環バス。あんなにたくさん乗ったのに、上の子は小学生になったら乗る機会はほとんどなくなってしまう気がする。今は私に乗り換え方法を教えてくれるまで熟達しているのに、路線図も時刻表も忘れていくのかもしれない。

弟がいまバスを見かけると一生懸命に指差しをして「ば!ば!」と言ってくれる。

また子どもと乗りたくて路線図をたまに眺めてしまう。でも、子どもたちふたり共と乗れることが今後何回あるだろう?

この街には初めてが詰まっている。 

公園の桜、コーヒースタンド。
赤ちゃんだった息子たち。
2人が生まれた病院もこの街にある。
母子手帳をもらい、出生届を提出し、保育園の申請をした区役所も。
もちろん、初めての保育園も。

私はこの街で新米の母親にならせてもらった。
そしてこの街のそこここに散らばる思い出とともに生きている。

抱っこ紐から桜の花に手を伸ばす上の子の顔も、滑り台を登って桜の木を見上げる下の子の顔も、瞼の裏に焼きついて離れない。

きっといつか、子どもたちが大きくなった頃にどこかの街で桜の花が咲いたら思い出すのだろう。

もう戻れない愛しい日々を。

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