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まだ論じ切れていないリモートワークの功罪

リモートワークは「甘やかし」?

コロナ禍がもたらしたさまざまな社会変化のうち「リモートワークの広がり」は、企業側にとっても、働く側にとっても、様々な意味で大きなインパクトを与えています。

ラッシュアワーの通勤という「苦行」から解放されることで、精神的にも時間的にも余裕ができるのが大きい、という声はSNSなどでも実際に多く寄せられていますが、その他にも、隙間時間で家事や家族のケアができる、自分好みの室温や明るさ、椅子や机など快適な環境で仕事ができる、といったメリットを挙げる人も散見されます。

こうしたメリットは、その多くが働く側によって挙げられているもので、企業や管理する側からは「甘やかし」だと見られてしまうことも少なくありません。

上司やマネージャーの立場で見れば、業務が予定通りに進んでいるか、間違った方向に進んでいないかといったことをしっかりと確認しておく必要があります。画面越しではこれが何ともやり辛いと、彼らの多くがリモートワークに対して、不安・不満を訴えるのも無理からぬことです。

「オンライン飲み会」はなぜ廃れてしまったのか

話は変わりますが、リモートワークが今ほど常態化していなかった頃には「オンライン飲み会」が、メディアでも盛んに報じられ、物珍しさも手伝って実際に参加する人も少なくなかったようです。が、今ではすっかり鳴りを潜めてしまいました。

なぜでしょうか?

理由はいくつか考えられます。そのひとつとして(特に大人数でのオンライン飲み会で顕著なのですが)「同時に複数のテーマで話すことができない」ということが挙げられるのではないでしょうか。

大人数での実際の飲み会を思い起こしてみると、全員が一つのテーマについて、最初から最後まで話しているということはあまりありません。誰が仕分けた訳でもなく、あちらでひとかたまり、こちらでひとかたまりと自然に「会話の輪」ができ、仕事の話やプライベートな話、シリアスな話やばかばかしい話などさまざまな会話が錯綜します。誰かがトイレに立った隙に、別の誰かが入って来て、さらに話が拡がったり、まったく別の話に変わってしまったりと、まさにカオス状態です。

ところが、オンライン飲み会ではこの「カオス」がありません。始終ひとつのテーマが軸となって時間は経過してゆきます。別の会話が同時並行で始まったり、その会話がふと耳に入って来たりするようなこともありません。オンライン飲み会が常態化しないのは、参加経験者がそんなオンライン飲み会の特性に物足りなさを感じてしまっているからなのかもしれません。

「センスする力」を発揮し辛いリモートワーク

飲み会に限ったことでなく、こうした「カオス」をむしろ必要とする局面が、ビジネスにおいても少なくないということをわれわれは思い起こすべきです。リモートワーク一辺倒でなく、定期・不定期の出社を求める上司や中高年者は「管理のしにくさ」を挙げることが多いのですが、実際には「管理されない予測不可能なコミュニケーション」の重要性を無意識のうちに自覚しているのではないでしょうか。

特に企画職や開発職、顧客に応じてセールスすべきものが変化するような営業職などにおいては、リアルな接触によってビジネスの重要なヒントを得たり、発見をしたり、ということは想像以上にたくさん起こっています。

書類や伝票の処理が中心の事務職であっても、リモートワークでは、作業分担や進捗のチェックにおいて「勘」が働きにくくなります。

「彼は進捗が滞っているようだから、誰かヘルプを入れよう。」
「彼女は今余裕がありそうだから、この処理を頼もう。」
「彼は何だか顔色が悪い。午前中はそうでもなかったのに大丈夫だろうか?」

といった判断やチェックは、画面越しの離れた場所ではどうしても精彩を欠きます。部下を持つ上司だけでなく、チーム員やパートナー、顧客や取引先でもこれは同様で、こうした「顕在化していない”何か”をセンスする力」を、人は誰しも持っています。この力が互助やチームワークの精神を生み、働く人の孤立化や道迷いを防ぐのです。

コロナ禍以降に入社して、いきなりテレワークからスタートしているような若手には、この「力」に起因する成功体験が殆どありません。彼らに対して、配布された資料を朗々と読み上げる会議のためだけに出社を強要しても、モチベーションは上がらないでしょう。これからは「出社することにもメリットがある」と働く側が感じられるよう、会社側がアイデアやクリエイティビティを発揮しなければなりません。

各自がストレスのない環境で仕事をすれば、結局はチームや組織トータルで、パフォーマンスがプラスになる可能性は極めて高いのですが、その回答は「テレワークを導入すること」では決してありません。「働き方改革」のはずが「働かせ方改革」に陥ることのないよう、会社側は働く側を交えて、リモートワークのあるべき姿を協議・検討するべきではないでしょうか。