CHAPTER10.開業

さて、まだ振り返るには早すぎるがオープンまであと少し。この忙しなさも、いざ営業が始まると色褪せていくのだろうか。

これは僕一人でやってきたわけではない。独立を決めたときにかつての同僚を誘い二人で進め共同経営という形をとった。当初の構想ではシェフ、経営、ホールと各専門を立てて三権分立制の予定だったが、仲違いして一人早々に脱落してしまった。なあなあ起業は上手くいかないとは聞いていたが漏れなく洗礼を受けた。

共同経営者は僕の苦手な部分をそつなく埋めてくれて、独立の最大の動機である料理に専念するという素晴らしい環境を作ってくれた。開業の主要な部分はほとんど共同経営者の手腕によるものだ。僕はただ先頭で旗を振っていたに過ぎない。

今回の起業にあたり様々な人々と新しい関係性を築けたり、久しぶりに連絡をとったら快く協力してくれた方もいた。きっと1人じゃ何も出来なかっただろう。何よりも自分の無力さを痛感した。自慢できることいえば、たくさん失敗してきたくらいだ。これからも自己記録は更新していくことになるだろう。その中で分かったことが一つある。

世の中に楽な仕事なんてない。
でも楽しめない仕事もきっとない。

師であるアベレートのシェフがよく言っていた台詞がある。
外国人特有のノリなのかも知れないけど、とても心に残っている。
忙しい時も、辛い時も、
彼はいつもこう声をかけていた。

「楽しんで!」と



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