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コーヒー豆×スーパーコンピュータ【焙煎メカニズムの解明】

今回の記事は先日投稿した、「焙煎中の組織変化を知る重要性について」の続きとなりますので、読んでない方はこちらを読んでいただけると内容が頭に入りやすいと思います。

【前回の復習】

コーヒー業界でもスーパーコンピュータを使った、理論的な計算がかなり進歩してきており、大きく今までの概念(常識)が変わろうとしています

今まで: 

実験データ ➡︎ なんとなくこんな法則っぽい ➡︎ 理由は分からない 

理想的な将来: 

物理・化学法則 ➡︎ こうなるはずだ ➡︎ 確かに実験も合うね!

という流れに向かうと考えています。

そのために、大前提としてコーヒー豆の物理的構造をミクロレベルで理解することが非常に重要です。

コーヒー生豆の構造は、セルロース(C6H10O5)、ガラクトマンナン (C18H32O16)、リグニン(細胞間の接着・固化)、結合水、その他の構造的炭水化物から構成される細胞間基質です。

焙煎では細胞構造が破壊され、メイラード反応のようないくつかの経路を経て反応し、その多種多様な反応により、風味と香りは生み出されているのです。

そこで、超重要となるトリガーとしての役割を担っているのが、この2つの物理(化学)現象です。

⒈ 熱分解反応 ➡︎ CO2生成 ➡︎ 豆の空隙率が上昇
⒉ 細胞内の水分が蒸発 ➡︎ 水蒸気発生 ➡︎ 圧が高くなり細胞が膨張

トップ画の写真は走査型電子顕微鏡(SEM)像です。

焙煎中に豆の多孔質構造がどのように変化するかを示しています。

焙煎前の緑豆の場合は中央の穴が小さく、焙煎した豆の穴は大きく、ほとんどがガスで満たされています。➡︎この変化が焙煎工程によって生み出される変化です。

まとめると、焙煎による変化は焙煎中に与えられる熱によって化学反応を介してCO2が発生し豆に空洞が生まれる(1)と水分の蒸発によって膨張する(2)の変化で表現できるのではないかということです。

(2)では重量減少を伴いながらの変化であることもポイントです

スーパーコンピュータで計算するときの計算モデル

ここでは難しい表現を避けて説明していきます。

研究時代にスーパーコンピューターでモデル計算をした経験から、計算モデルを仮定するときのポイントを一言で表すとしたら以下だと思います。

可能な限りシンプルに表現しつつ、現象に関係するものが漏れなく網羅されていること

それでは、コーヒー豆の焙煎シミュレーションでの計算モデルを下図に示します。

それぞれの矢印は以下を示しています。

赤色 ➡︎ 熱の移動
青色 ➡︎ 液体の水の移動
水色 ➡︎ 水蒸気の移動
灰色 ➡︎ CO2の移動

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個人的に感じたこの計算モデルの素晴らしい点を挙げていきます。

・表面現象と内部現象を分けている  

➡︎厚さのある赤い部分が熱源、その隣の灰色で膜のようになっている部分が豆の表面(表面と内部では世界が全く違うため)

・CO2の生成、水蒸気の発生を考慮している

➡︎重要ポイントを網羅している

・豆の中での蒸発による潜熱と、その変化に伴う豆の空隙率を考慮している

スーパーコンピュータで計算するときの計算式(例)

次に上記モデルでの計算式を一部紹介します。

下にある通り、先ほどのモデルを方程式で表すと下のような式になるようです。

論文内には50以上もの式が登場し、最終的に導かれた「Simplified Model 2」の式がこちらです。

実はこれが、今回実験の再現に一番近い結果を導き出したものになります。

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そして、計算と実際の焙煎を比較したグラフがこちらです。

青の線が先ほどの式の「Simplified Model 2」、黒い四角形のプロットが実験結果(実際の焙煎)です。

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焙煎時間毎の水分含有率変化を表しており、焙煎開始から終わりまで一致していることが見て分かります。

約15分間の変化がここまで正確に予想できるのはあまりに衝撃です。

計算モデルを仮定する上で重要なポイントを漏れなく網羅できたことでこのような結果を得ることができたのでしょう。

しかし、このような複雑な計算はコンピュータなしでは到底実現することは不可能です。

スーパーコンピューターの登場でコーヒーの常識も大きく変わろうとしています。

今回紹介した論文も第一ステップとして計算をある程度簡略化したモデルで計算しています。

今後、コンピュータが進化していくと簡略化せずともすべての事象を含んだ完全な計算が可能になる方向へ確実に進んでいきます

技術の進化に乞うご期待です。

所感

今回の計算で恐れ入ったこととして、第一原理計算に近い計算であることがあります。

※第一原理とは近似や経験的なパラメータを使わないということです
 ➡︎豆の特性や製造プロセス等の事前の実験データは一切いらない

これが意味している未来は「どんな豆であっても」、「誰でも失敗なく」、焙煎後のコーヒーの味・香りをコントロールすることができる

ことを示唆しています。

詳しく知りたい方は下記記事をぜひ読んでください。(有料です)

これから予想されるコーヒー産業の未来を味わって見てはいかがでしょうか。いつも通り、基本的にポジティブな事しか書いていませんのでワクワクできるかと思います。

最後に・・・

※今回紹介する内容は「A heat and mass transfer study of coffee bean roasting」オクスフォード大学のNabil T. Fadaiら著の論文を解説したものです。今回は私が計算したわけではないので注意願います

最後までご清聴ありがとうございました!!

それでは、また!

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