Cactus

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サボテンが好きな人が好きな翻訳者の日々の雑文置き場。 ヘッダーはwiliantostaさま、アイコンはFoto-RaBeさまのイメージを使わせていただいています(@Pixabay)ありがとうございます!

マガジン

  • 翻訳学習

    翻訳学習についての雑文を集めたもの。

  • 訳書紹介

    訳書のご紹介。翻訳裏話つき。

最近の記事

接続詞ナビゲーションシステム

さて、「訳しやすい英文の謎」の糸口(仮説)について書いてみます。 以前、とあるノンフィクション作品の下訳チームに参加したとき、先生から「『だが』が多い」と叱られたことがありました。読み返してみたら、ほんとに多くて自分でもびっくり! 「but」を機械的に「だが」に変換していたせいとわかりました。 それ以来、「逆接の接続詞」の訳語が単調にならないように腐心しているのですが、これが実に難しい。 とくにノンフィクションの翻訳をしているときに強く感じるのが、英語と日本語では、(と

    • 頭の重い英語、お尻の重い日本語

      文章の巧拙を判断できるほど英語に精通してはいませんが、日本語に「訳しやすい英文」と「訳しにくい英文」というのは確かにあります。 大昔、ゼミの先輩から「ローレンス・ブロックの文章はそのまま訳せばいいからやりやすいね」と言われたときに、「…………(ええええ!? やりやすいってどういうこと? 超難しくて四苦八苦してるんですけど???)」という会話(?)をしたことがあります。ゼミの課題がブロックさんの短編だったときのことでした。 でも、今ならばその先輩が言わんとした意味がわかりま

      • 激賞と酷評を呼ぶ怪作

        「He knows what he is doing. (彼は自分のしていることを、ちゃんとわかっている)」 という英語の表現がありますが、『災厄の馬』を訳了したときの感想はまさにそれでした。 複雑な構成なのに、時系列の誤りがひとつもなかった(かなりめずらしいです)。著者はこういう作品に仕上げたくて、こういう作品に仕上げたんだろうなと思いました。 でも、お仕事をいただいて、最初に読んだときの感想は 「???」 でした。 このままでは訳せないと思って、再読しました。

        • 長月の2冊

          願いは口にしたほうがいいとよく言いますが、ほんとに言ってみるものですね。 ちょうど1年ほどまえ、この記事を書いたときに、 と締めくくったのですが、まさかこんなにも早く実現することになるとは思ってもいませんでした。しかも、フィクションとノンフィクションの両方で。 そんなわけで、この秋、わたしが「リーディングと翻訳」の両方を担当した個人的に超オススメの2冊が、偶然にも同月発売されることとなりました! 訳書紹介は、いつも発売日から時間がたっぷり経ったあとの「ぶっちゃけ話」を

        接続詞ナビゲーションシステム

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        • 翻訳学習
          9本
        • 訳書紹介
          6本

        記事

          毒花的読書体験とは?

          ジェットコースターが、ゆっくりと動きはじめる。 カタカタカタカタカタカタ……… 「まあ、そんなたいしたことないんじゃない? フツーだよ、フツー。よくあるやつだって。まえにこういうの乗ったことあるしさ」 カタカタカタカタカタカタ……… 長い助走を経て、ひとつ目の頂上が近づくにつれ、そんな余裕の表情もちょっぴりこわばりはじめる。知らず知らずのうちに、手すりをつかむ手に力がこもる。 カタカタカタカタカタカタ……… ついにジェットコースターが頂点に達し、加速を始める。

          毒花的読書体験とは?

          ”The Decagon House Murders” を読んでみた

          【※以下、『十角館の殺人』のネタバレがあります。未読のかたはご注意ください】 2年ほど前に、お恥ずかしながら初めて、新本格ミステリの記念碑的名作、綾辻行人著『十角館の殺人』を読みました。おもしろかったです!! おそらくすでに語り尽くされていることとは思いますが、個人的に一番「やられた!」と思ったのは、 日本語ネイティブの「相手との関係性による口調の変化」 を実に鮮やかに逆手に取って、読者(というか、わたし)を煙に巻いてくれたところです。 たとえば、理学部三回生のヴァ

          ”The Decagon House Murders” を読んでみた

          〝想い〟から始まる思考法

          訳書紹介、第7弾(noteでは第3弾)は、 エイミー・ウィテカー著 『アートシンキング 未知の領域が生まれるビジネス思考術』 になります。 アート思考については、まえがきを書いてくださった山口周さんの著作を始め、たくさんの良書がありますね✨ そんな中で、本書独自の特色を挙げるなら、 ①外国と日本の「アート思考型ビジネスの実例」を豊富に紹介 ②「アート思考をビジネスに取り入れる具体的な方法」を提案 の2点でしょうか。 つまり、かなり「実践重視」のアート思考本という

          〝想い〟から始まる思考法

          森をデッサンする

          あれは忘れもしない、2008年の冬。ゼミが終わったあとで、師匠から初めて下訳を任せると言われたときのこと。 ほぼ一冊分の分量を訳した経験もなくて、思わず尻込みしてしまい、「誤訳をしてしまわないか心配です」ともらしたら 「ふーん。なんで?」 「………………………は???」 というやりとりがありました。 あれから十数年、干支もひと回りした今は、師匠の言わんとした意味も少しはわかるようになりました。 誤訳はゼロにはならないからです。 もうね、ほんとに読み返すたびに、誤訳

          森をデッサンする

          名探偵か、迷探偵か?

          ハヤカワ・ポケットミステリ『名探偵の密室』が発売されてから、今日で2年になりました。早いですね! びっくり! この作品は、英国の新人作家クリス・マクジョージ氏のデビュー作で、かつ大学のクリエイティブライティング科の卒業論文でもあります。そして私事ですが、初めてひとりで訳した小説であり、思い入れも思い出もたくさんある大事な作品です。 あらすじをひと言で言うなら、 自称“名探偵”が死体と容疑者5人と一緒に密室に監禁される話 でしょうか。わけのわからない黒幕から爆破予告まで

          名探偵か、迷探偵か?

          本を読む仕事

          翻訳者(とくに新人の翻訳者や翻訳志望者)には、原書を読んであらすじをレジュメにまとめる〝リーディング〟という大切なお仕事があります。 2週間程度で、1冊の原書を読み、5~7ページのレジュメを作成する というのが標準的な感じでしょうか? レジュメには、登場人物、あらすじ、感想、原書や著者の情報、レビューやランキングの紹介、類書などを書き込みます。 版元さんは原書そのものを評価するために依頼してくださるのだと思いますが、わたしは「翻訳者としてのある種のオーディションも兼ね

          本を読む仕事

          ピエロとクジラ

          『15時17分、パリ行き』で止まっていた訳書紹介。noteで再開しようかと思っていたところ、ちょうど次の『短編画廊 絵から生まれた17の物語』の文庫が発売されることになりました✨✨ これを機により多くのみなさんに読んでいただけたら嬉しいです。 わたしが担当したのは、「宵の蒼」(ロバート・オレン・バトラー著)と「アダムズ牧師とクジラ」(クレイグ・ファーガソン著)の二篇です。 ある日の夕刻、師匠から弟子チームに声がかかり、先着順で好きな話を選ぶという形式で担当を決めました。さ

          ピエロとクジラ

          職人技を盗む話。

          さて、ピカーンと閃いたといっても、なにも斬新な方法を思いついたわけではありません。それまで翻訳家の方々から「自分だけの辞書を作成している」というお話をうかがうたびに、エクセルでマイディクショナリーを作りはじめては尻切れとんぼ──というパターンを繰り返していたんですが、新しいシートに、気になるところの下訳上訳対照表を作成してみようと思ったのです。あとで検索をかけられるように原文つきで。それなら辞書としても使える。一石二鳥!というわけです。 さっそく担当した後半部分から、一文ず

          職人技を盗む話。

          語学力の経験値

          社会人になった年に初めて受けたTOEICのスコア は730点でした。二回目の受験は十数年前に翻訳の通信教育を始めた頃のことで、そのときは 785点でした。プロはもちろん、翻訳学習者の中でも一番下のレベルだったと思います。「アメリカの大学に留学するには830点くらいは必要とかいうし、英文事務の仕事を探すなら真剣に試験対策しないといけないなぁ」と思ったのを覚えています。ただ、そのあと貿易事務の派遣パートの仕事が見つかって、試験勉強意欲は雲散霧消してしまったのですが。 それ以前に

          語学力の経験値

          運と表現力とトリミングの話。

          さて、師匠から明確な「ダメ出し」をされなくなり、イマイチなときは「うーん」で済むようになると、今度は「運がない」と言われるようになりました。 まあ、確かに運がいいとは言えないかも……と思う反面、「運がいい(ように傍から見える)方々」というのは、お話をうかがってみると、たいてい ①努力の総量が桁違いに大きい ②努力する方向の選択にセンスがある のどちらかまたは両方で、うらやましいことはあっても納得できないケースはない。 なにしろ、この業界は、ほぼ確実に儲からないかつ狭き門の

          運と表現力とトリミングの話。

          視点の話。

          ※2019年12月28日【お歳暮スレッド】ツイートまとめ 10年下訳修業をしているあいだに、「あ、階段をひとつのぼれたかも」と思ったことが2回だけありました。今日はその1回目のことを書いてみようと思います。 初めて下訳をしたのは2008年冬。『グラーグ57』という作品でした。なぜかその下訳だけは師匠に褒められ、それ以降はダメ出しばかりという時期が数年続きました。毎回同じように必死でやってるのに、どこがいけないのかどうしてもわかりませんでした。 下訳と上訳を一字一句くらべ

          視点の話。