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長月の2冊

願いは口にしたほうがいいとよく言いますが、ほんとに言ってみるものですね。

ちょうど1年ほどまえ、この記事を書いたときに、

いつか、これならば!と思えた作品を訳せる日が来るといいなと思っています。

と締めくくったのですが、まさかこんなにも早く実現することになるとは思ってもいませんでした。しかも、フィクションとノンフィクションの両方で。

そんなわけで、この秋、わたしが「リーディングと翻訳」の両方を担当した個人的に超オススメの2冊が、偶然にも同月発売されることとなりました!

訳書紹介は、いつも発売日から時間がたっぷり経ったあとの「ぶっちゃけ話」を中心にしているのですが、今回は特別編として発売前に、2冊まとめてオススメポイントをご紹介します。


『かくて彼女はヘレンとなった』

キャロライン・B・クーニー著 早川書房 9月2日発売

この作品のオススメポイントは

①主人公が70代前半のシニアレディ。小柄でキュートなおばあちゃん。
②舞台がサウスカロライナのシニアタウン(高齢者向け高級住宅地)。
③1950年代と2010年代の対比がいろいろとおもしろい。
④著者がヤングアダルト小説の世界的ベストセラー作家。
⑤テンポがよく、読みやすい。Fun To Readな1冊!

主人公は70代前半の独身女性。非常勤でラテン語教師を続けながら、サウスカロライナのシニアタウン〝サンシティ〟で、のどかなセミリタイア生活を送っています。

そんな主人公が、夏のある朝、ちょっとした好奇心から、隣家で発生した事件に巻き込まれてしまいます。実は彼女、ある重大な秘密を抱えて生きてきたのですが、その秘密を必死で守ろうとするあまり、どんどん深みにはまっていき───。

過去の秘密と現在の事件が交互に語られ、やがて過去と現在がつながったとき、どんな結末が待っているのか?


これは「まさにこういうミステリを訳してみたかった!」という本です。カッコいい世界観もステキだけど、なんだかんだ言って楽しく読める本っていいよね~というわたしの好みにドンピシャで、激推ししました。最近注目度の高いシニアものです!

ユーモアと皮肉の利いた語り口にはニヤニヤしてしまうし、おばあちゃんが主人公というのもいい。何より舞台設定がユニーク。しかも著者が実際に住んでいるシニアタウンを舞台にした作品なので、シニアタウンの住民や暮らしの描写がとってもリアルでニヤニヤしてしまう(語彙力)。

内容はけっして軽いわけではないですし、2020年のエドガー賞長編賞の候補作にもなったフーダニット・ミステリでありながら、気楽にサクサク読める作品です。読者のみなさまにも、初秋の読書タイムの一冊として、楽しんでいただけたらとってもうれしいです。

コージーミステリがお好きなかた、シニア予備軍のみなさまに、特にオススメいたします。



さて、お次はガラリと雰囲気が変わって、こちらのノンフィクション作品のご紹介。

『野戦のドクター 戦争、災害、感染症と戦いつづけた不屈の医師の全記録』

トニー・レドモンド著 ハーパーコリンズ・ジャパン 9月24日発売

この作品のオススメポイントは

①どんな困難に直面しても絶対に諦めない不屈の精神がすごすぎる。
②率直で実直で正直な文章と人柄。
③立派なことをしているのに自己陶酔がない。ヒーロー譚に仕上げることもできたのに、淡々とした筆致でつねに自分の行動を客観視しつづけている。
④自分の弱さから逃げない強さ。
⑤何度読んでも読むたびに目頭が熱くなるエピソードがいくつもある。

著者は、イギリスのNHS(国営の医療制度)の救急救命医です。救急センターでの勤務のかたわら、ひょんなことから、地元マンチェスターで、世界各国の被災地や紛争地域で、緊急医療支援のボランティア活動に携わるようになります。

これは、著者がどんなふうに医師になり、どんなきっかけでボランティア団体を組織し、どんな経緯で海外で活動を始め、どんな高い壁にぶつかり、どんな失敗をして、どうやってそれをひとつひとつ乗り越えてきたのかを記録した本です。

とにかく、こんな人が存在したのかということにまず驚き、さらに彼だけでなく、そういう勇気ある立派な方々が世界中に(もちろん日本にも)いらっしゃるということにまた驚きます。

「立派なことを言う人」は大勢いますよね。でも、「実際に行動が伴っていて、言行一致してる人」はめったにいない。著者はそんな数少ない、本物の人道主義者のひとりです。

「善いこと」とはなんだろう?
「善いことをすること」は無条件で「善いこと」なのだろうか?
「善いこと」をするときに境界線はあるのか?
「何もしないこと」はどんな意味を持つのだろう?

自分が「善いことをした」と思ったとき、ほんとうに相手のためになることを選べているだろうか?
自分が「善いことをするべきだ」と発言するとき、実際に行動する方々にどんなリスクを負わせているのか自覚できているだろうか?


人が生きる意味とはなんだろう? 
ごく短い人生を生きた命、道半ばで失われた命と、まだ生きている自分の命にどんな違いがあるのだろう?
 

そういうことについて、深く考えさせられる本です。


リーディングで初めて読んだとき、「売れるとか売れないとかは別にして、これは絶対に世に出すべき本だ」と思いました。訳了して、さらにその思いを強くしました。

ぜひとも、多くのみなさまに、著者のことを知っていただけたらうれしいです。

https://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refBook=978-4-596-74946-8

↑ の出版社コメント、とってもいいので、ぜひご覧ください!


以上、長月の(超個人的)オススメの2冊でした!

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