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これまでに発表した詩をまとめています。
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#反出生主義

HBもしくはF

中学生の頃に買った
少しヒビの入っている
百円の透明なシャーペンで
 
いつからあるのか分からない
空白だらけの大学ノートに
やせた汚い文字を書く

芯は何度も折れて
カチカチカチカチ
空っぽが鳴る

内側がすっかり真っ黒な
クリーム色のやわらかいふで箱にあったのは
HBとFだけ

もっと大きなBかHがよかったと
ペンをミシミシいわせながら
消しゴムを使わずに書いていく

産み落とされることのなか

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季節の死

人が夏を見ているときに
自分は春を見ています
 
人が秋を見ているときに
自分は夏を見ています
 
人が冬を見ているときに
自分は秋を見ています
 
人が春を見ているときに
自分は冬を見ています

季節の死体を
見ています

ラムネ瓶

汗かく瓶のラムネのビー玉が
畳の上で朝日を浴びて
僕はそのきらきらを
ぼんやりと見ている

持てば冷たく
ころんと透明が鳴る

始めないことの美しさとは
こういうものではないかと
飲み終えた瓶を見ながら
汗を拭う

非存在への愛

想像と観念を愛することができてしまう
だから子どもは産まないと
そう空想は言いました

本当に大切なもの
それが遠くにあるのなら
手繰り寄せようとなんてせず
あるがままに遠ざけておくと

存在しないものを愛せるはずがない
なんて言われても空想は微笑む
存在しないものしか愛せないのですと

もし存在するものを愛しているとすれば
それは全て自己愛ですと
空想は絶えず微笑むのです

成れの果て

青くて若い夏の
細くて熱い腕に
後ろから抱きつかれながら
道を歩けばカマキリが
胸で口づけするように押しつぶされている
 
汗のとろりという声は
ほとんど聞こえず蝉の声だけが響いて
淡く揺れる灰色に
黄緑がよく映えている
 
あれは自分の成れの果て
生誕を否定した自分の
 
踏みつぶされた言葉となって
夏の燃える足元で
ぎらぎらと濃く溶けていく

ふらふらとやってきた目玉に
じっと見つめられながら

家の前のドブ川に沿う
ガードレールに腰掛けて
ポケットに手を入れ
持たされなかった鍵を弄びながらも
痛みの父母は生であることを
幼い頃は思い描けず

言語の刃先

したら立派というのなら
せぬまま未熟で構わない

するのが普通というのなら
せずに異常を選び取る

やるのが義務というのなら
しないで首を捧げよう

それが自然というのなら
不自然歌って微笑むことを

幼い子どもの戯言と
指差されるなら幼い子として

断ち切るための言語の刃先を
絶えず自分に向けている

還りたい

 この手に首に
 巻きつけられた細くて青い

 食い込む縄の力強さに

 ぐいぐい引き寄せられるまま
 連れてこられたその先で

 知恵と知識と
 意味と理由を呑まされて

 むせれば髪を掴まれて
 こぼすな生きろとささやかれ

 ともに見たブヨブヨに対しては
 きれいだろうと微笑まれ

 無言でいればあごを掴まれ
 首をかすかにでも横へと振れば

 絞められ蹴られ

 ありがとうをぶら下げていな

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 血管の浮かび上がったその赤黒い手は、賛美という金槌を、いつだって振り上げ、振り上げて。絶えず透明を割りながら、けらりけらりと笑っています。その手の汗は、拍手という木槌の柄を、濡らすこともありました。嬉し泣きという、ゴムでできたハンマーの柄を、ぬるりとさせることだって。澄んだものは、それらに砕かれていきます。粉々になって、鈍く乱反射する光。輝きはすっかり、失われてしまいました。残された澄明は、わず

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