kamisiro

大人向けライトFTを書いています。長らく自サイトに引き篭もっていましたが、少しだけ軒下…

kamisiro

大人向けライトFTを書いています。長らく自サイトに引き篭もっていましたが、少しだけ軒下をお借りしに参りました。お手柔らかにお願いします。作品は http://byablue.web.fc2.com/ でも公開しています。

マガジン

  • 第三話 山茶始開 ―さんちゃはじめてひらく―

    閑話。木栖家から戻りもう一日が終わろうというのに、茉莉花が遭遇するあれやこれや。乙女心は花のように乱されやすいが、しぶとくもあります。

  • 第二話 鹿肉蔦木喰―もみじつたきばむ―

    花巡る時シリーズ第二話。長きにわたる武家の時代が終わり、帝を頂点とする新政府が樹立してから多少、落ち着き始めた頃、 西洋から入ってくる新しい価値観により、古き伝統や風習が駆逐されつつあったそんな世で、生まれつき物の怪に好かれる厄介な体質をもつ旧公家の伯爵家の次女、咲保は初めて炉開きのいっさいを任されたが、弟の反抗期やら、友人から西の方で不穏な気配もあると噂を耳にしたりと、落ち着かない。果たして、無事に冬を迎えられるのか、一家を巻き込むてんやわんやのひと騒動の一幕。

  • 第一話 蟄蛇坏戸―へびかくれてとをふさぐ―

    和風ハイソサエティドメスティックFT小説『花巡る暦』のシリーズ一話目。 なんちゃって明治時代の世界で、旧公家の伯爵家の次女、咲保が遭遇する物の怪やモノたち、それらに対する家族や友人らとの交流や、悲喜交々の日常生活。たまにちょっとしたバトルもあります。

最近の記事

第三話 山茶始開 ―さんちゃはじめてひらく― (三)

<全三話> <一>  <二> <三> <三>     湯から上がり、あとはもう寝るだけの格好にガウンを羽織って居間に戻れば、一番上の兄の楢司も戻っていた。深刻な話をしていたのか、なにやら難しい顔をしている。苦虫を噛んだかのように、口がへの字に曲がっていた。 「楢司お兄さまは、どうかなされたの?」 「ん、今、己のもつ常識範囲がいかに矮小で、底の浅いものであったかを実感しているところだ」 「なんですの、それ」  また、梟帥の悪い癖が出た。ときどき、わざと人を煙に巻くような

    • 第三話 山茶始開 ―さんちゃはじめてひらく― (二)

      <全三話> <一>  <二> <三> <二>    「散らさなくて良かったんですの?」 「ここでやったって、意味がないだろ」 「ええ、でも、どうして放っておくしかないのかしら……いずれ、外に出て被害を出すかもしれないのに」 「そりゃあ、キリがないから。ここで叩いたところで、すぐに元通りだ」 「あら」 「そうだよ。知らなかったのか?」 「ええ。最初に、手を出してはダメだとお父さまには習ったのですけれど、理由までは……」  すると、兄は、「親父め」、とどこか呆れた様子で首を

      • 第三話 山茶始開 ―さんちゃはじめてひらく― (一)

        <全三話> <一>  <二> <三> <一>     歩きながら、ふ、と花の匂いがしたような気がして、茉莉花は足を止めた。どうした、と前を歩いていた兄が振り返り、問われる。 「いえ、金木犀の匂いが……とっくに終わっている時期なのに、変ね」  そう答えると、下の兄は確かめるように顎を上げて言った。 「本当だ。きっと、表でなにかしらの事情で咲けなかったもんが儚んで、こっちで咲いているんだろう」  ここは、『あわいの道』。現世と隠世の間の、ほんの少しだけ現世に近い位置に

        • 第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (十三)

          <全十三話> <一> <二> <三> <四> <五> <六> <七> <八> <九> <十> <十一> <十二> <十三> <十三> 「さて、もうこんな時間。これから夕飯の支度しますけれど、お時間あるんやったら、茉莉花さんたちも、ご一緒にどうどすか?」 「それは、『お茶漬けでもどうですか』ってお誘いですか?」  梟帥が悪戯っぽく問えば、母は「そんなん言うわけあらしませんわ」とけらけらと笑った。 「すき焼きにしよ思うてるんです。頂いたお肉が沢山あ

        第三話 山茶始開 ―さんちゃはじめてひらく― (三)

        マガジン

        • 第三話 山茶始開 ―さんちゃはじめてひらく―
          3本
        • 第二話 鹿肉蔦木喰―もみじつたきばむ―
          13本
        • 第一話 蟄蛇坏戸―へびかくれてとをふさぐ―
          6本

        記事

          第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (十二)

          <全十三話> <一> <二> <三> <四> <五> <六> <七> <八> <九> <十> <十一> <十二> <十三> <十二>  千歳やー、千歳やー……  朗々とした桐眞の唄に合わせて、咲保は神楽を舞った。手順は狂ったが、神楽奉納を取りやめにする理由にはならず、鈴を持たされ舞う羽目になった。だが、あれだけ尻込みしていたのに、今は不思議と良い気分だ。磐雄の笛だけでなく、子だぬきたちの笙やら太鼓などが加わり、喜びの空気に溢れているからだろう。曲

          第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (十二)

          第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (十一)

          <全十三話> <一> <二> <三> <四> <五> <六> <七> <八> <九> <十> <十一> <十二> <十三> <十一> 「大丈夫か、咲保。すまんな、油断した」 「いえ、大丈夫です」  鹿は倒れながらも、必死で立ちあがろうともがいた。轟々と強風が吹き荒ぶような威嚇の声は、聞くだけで胸を切り裂き、目は爛々と燃えるようで、見るだけで憎しみに囚われそうだ。 (可哀想……)  何があったかはわからないが、さぞや無念だったのだろう。肉塊と成

          第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (十一)

          第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (十)

          <全十三話> <一> <二> <三> <四> <五> <六> <七> <八> <九> <十> <十一> <十二> <十三> <十>  父が叫び、兄が弾かれたようにモノを追って駆け出す。 「桐眞! 渡り廊下まで追い込め! 離れの結界の中へ!」  父が声を張り上げるその脇を追い越して、駆ける者がもう一人。丸く刈った躑躅の植え込みを軽々と飛び越えるような身軽さで庭の奥へと走り抜け、あっという間に姿が見えなくなった。まるで風のようだ。 「おにいさまっ!

          第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (十)

          第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (九)

          <全十三話> <一> <二> <三> <四> <五> <六> <七> <八> <九> <十> <十一> <十二> <十三> <九>  咲保が厨房の火を落としたのは、日付も変わった夜半過ぎだった。それから寝支度をして、布団に入ってからの意識がない。次に目が覚めた頃には、随分と賑やかな声が聞こえてきた。ということは、もう昼を過ぎているのだろう。文机の上に、昼食らしきお膳が置いてあった。 「いくらなんでも、寝すぎだわ……」  愚痴りながら顔を洗い、支度

          第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (九)

          第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (八)

          <全十三話> <一> <二> <三> <四> <五> <六> <七> <八> <九> <十> <十一> <十二> <十三> <八> 「栗でございますか?」 「大至急、揃えて欲しいんどす。最低でも七十。八十もあれば、十分ですわ」 「そうですね。そのくらいでしたら心当たりもございますので、すぐにお持ちしましょう」 「おおきに、助かります」 「こちらこそ、ご無理を聞いていただき、感謝いたします。では、早速、行ってまいりますので、暫しの間、お待ちを」  そ

          第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (八)

          第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (七)

          <全十三話> <一> <二> <三> <四> <五> <六> <七> <八> <九> <十> <十一> <十二> <十三> <七>  幼子のようにしゃくりあげる知流耶から母が聞き出した内容を要約すると、明日、皇から下賜される亥の子餅は、公には宮をお持ちでない皇に変わって、毎年、都で仕える各家々が持ち回りで作る慣わしらしい。店に注文もできなくはないが、店独自の変更を加えたものが多く、全部の素材が入った正式なものとは限らないからだそうだ。今年は、知流耶

          第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (七)

          第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (六)

          <全十三話> <一> <二> <三> <四> <五>. <六> <七> <八> <九> <十> <十一> <十二> <十三> <六>  水に浸かった栗を笊にあけ、大鍋に移し変える。新しい水と、色付けのためのクチナシの実を数個、割り入れて火にかけた。最初は強火で沸騰するまで待ち時間だ。竃の前に立っていると、また厨房の戸が開いた。 「賑やかだと思ったら、こんなところでみんな集まって、どうしたんですか。お父さま、おかえりなさい」 「ただいま。桐眞、大学は

          第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (六)

          第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (五)

          <全十三話> <一> <二> <三> <四> <五> <六> <七> <八> <九> <十> <十一> <十二> <十三> <五>  咲保たちの祖父母は、今も皇の屋敷の傍近くにある輝陽の都の屋敷に暮らし、密かにお護りする役目を負っている。皇は、表立っては『親王』であり、殿下と呼ばれる身分であるが、木栖家や熾盛家、いずれ熾盛家と姻戚関係となる杜種家など、古くから仕えている公家の家々は、『皇』とお呼びしている。皇は、政から離れたところで、正式な神事を司

          第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (五)

          第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (四)

          <全十三話> <一> <二> <三> <四> <五> <六> <七> <八> <九> <十> <十一> <十二> <十三> <四>  一夜が明け、咲保は身体をゆすられる感触に目を覚ました。障子紙を透ける光はすでに明るい。 「お嬢さま、朝です。いい加減、お起きになって下さい」 「まるお? おはよう……雨戸、開けてくれたのね」  寝坊をしてしまったようだ。 「はい。数日、慣れないことをなさったせいでしょう。真夜中に、呆け狐の訪いもあったみたいです

          第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (四)

          第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (三)

          <全十三話> <一> <二> <三> <四> <五> <六> <七> <八>. <九> <十> <十一> <十二> <十三> <三>  二日目の午後は蔵を開けて、六蔵に手伝ってもらいながら、道具に不足がないかを確認することにした。六蔵はきゑの連れ合いで、普段は、家の庭仕事や薪割りなどの力仕事など様々な雑事を頼んでいる。埃っぽく薄暗い土蔵の中に積み上げてあるいくつもの箱の中から、必要な物だけを探し出すのは大変だ。茶道具や、貰い物の器など、大小さまざまな

          第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (三)

          第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (二)

          <全十三話> <一> <二> <三> <四> <五> <六> <七> <八> <九> <十> <十一> <十二> <十三> <二>  神に手を合わせたところで、なにも始まらないし、なにも齎されない。そんなことは咲保もわかっている。実際に、こういう時に頼れるのは、まるおだ。困った時のまるお頼み。まずはまるおに、何をすべきか教えを乞うことにした。  この世には、人ならざる者が存在する。古くは物の怪、近くでは、妖や妖怪と呼ばれ、通常、人には見えない存在

          第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (二)

          第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (一)

          <全十三話> <一> <二> <三> <四> <五> <六> <七> <八> <九> <十> <十一> <十二> <十三> <一>  ふ、と障子に映ったちいさな影に気づき、咲保は隙間を空けた。すると、するりと流れるように、一匹の猫が部屋にすべり込んでくる。そして、我が物顔で最前まで咲保が座っていた文机の前の座布団に乗ると、そのままくるりと回って落ち着いてしまった。 「みぃ、また寝にきたの?」  みぃは、軒下にいた迷い猫だった子猫を弟妹たちが保護

          第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (一)