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第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (十三)
<全十三話> <一> <二> <三> <四> <五> <六> <七> <八> <九> <十> <十一> <十二> <十三>
<十三>
「さて、もうこんな時間。これから夕飯の支度しますけれど、お時間あるんやったら、茉莉花さんたちも、ご一緒にどうどすか?」
「それは、『お茶漬けでもどうですか』ってお誘いですか?」
梟帥が悪戯っぽく問えば、母は「そんなん言うわけあらしませ
第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (十二)
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<十二>
千歳やー、千歳やー……
朗々とした桐眞の唄に合わせて、咲保は神楽を舞った。手順は狂ったが、神楽奉納を取りやめにする理由にはならず、鈴を持たされ舞う羽目になった。だが、あれだけ尻込みしていたのに、今は不思議と良い気分だ。磐雄の笛だけで
第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (十一)
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<十一>
「大丈夫か、咲保。すまんな、油断した」
「いえ、大丈夫です」
鹿は倒れながらも、必死で立ちあがろうともがいた。轟々と強風が吹き荒ぶような威嚇の声は、聞くだけで胸を切り裂き、目は爛々と燃えるようで、見るだけで憎しみに囚われそうだ。
(
第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (十)
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<十一> <十二> <十三>
<十>
父が叫び、兄が弾かれたようにモノを追って駆け出す。
「桐眞! 渡り廊下まで追い込め! 離れの結界の中へ!」
父が声を張り上げるその脇を追い越して、駆ける者がもう一人。丸く刈った躑躅の植え込みを軽々と飛び越えるような身軽さで庭の奥へと走
第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (九)
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<十一> <十二> <十三>
<九>
咲保が厨房の火を落としたのは、日付も変わった夜半過ぎだった。それから寝支度をして、布団に入ってからの意識がない。次に目が覚めた頃には、随分と賑やかな声が聞こえてきた。ということは、もう昼を過ぎているのだろう。文机の上に、昼食らしきお膳が置い
第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (八)
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<十一> <十二> <十三>
<八>
「栗でございますか?」
「大至急、揃えて欲しいんどす。最低でも七十。八十もあれば、十分ですわ」
「そうですね。そのくらいでしたら心当たりもございますので、すぐにお持ちしましょう」
「おおきに、助かります」
「こちらこそ、ご無理を聞いていただき
第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (七)
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<七>
幼子のようにしゃくりあげる知流耶から母が聞き出した内容を要約すると、明日、皇から下賜される亥の子餅は、公には宮をお持ちでない皇に変わって、毎年、輝陽にて仕える各家々が持ち回りで作る慣わしらしい。店に注文もできなくはないが、店独自の変更を加
第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (六)
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<六>
水に浸かった栗を笊にあけ、大鍋に移し変える。新しい水と、色付けのためのクチナシの実を数個、割り入れて火にかけた。最初は強火で沸騰するまで待ち時間だ。竃の前に立っていると、また厨房の戸が開いた。
「賑やかだと思ったら、こんなところでみんな
第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (五)
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<五>
咲保たちの祖父母は、今も皇の屋敷の傍近くにある輝陽の都の屋敷に暮らし、密かにお護りする役目を負っている。皇は、表立っては『親王』であり、殿下と呼ばれる身分であるが、木栖家や熾盛家、いずれ熾盛家と姻戚関係となる杜種家など、古くから仕えている
第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (四)
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<四>
一夜が明け、咲保は身体をゆすられる感触に目を覚ました。障子紙を透ける光はすでに明るい。
「お嬢さま、朝です。いい加減、お起きになって下さい」
「まるお? おはよう……雨戸、開けてくれたのね」
寝坊をしてしまったようだ。
「はい。数
第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (一)
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<一>
にゃあん、と鳴く声を聞いて、咲保は障子の隙間を空けた。すると、するりと流れるように、一匹の猫が部屋にすべり込んでくる。そして、我が物顔で最前まで咲保が座っていた文机の前の座布団に乗ると、そのままくるりと回って落ち着いてしまった。
「みぃ
第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (二)
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<二>
神に手を合わせたところで、なにも始まらないし、なにも齎されない。そんなことは咲保もわかっている。実際に、こういう時に頼れるのは、まるおだ。困った時のまるお頼み。まずは、まるおに何をすべきか教えを乞うことにした。
この世には、人ならざる
第二話 鹿肉蔦木喰 ―もみじつたきばむ― (三)
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<三>
二日目の午後は蔵を開けて、六蔵に手伝ってもらいながら、道具に不足がないかを確認することにした。六蔵はきゑの連れ合いで、普段は、家の庭仕事や薪割りなどの力仕事など様々な雑事を頼んでいる。埃っぽく薄暗い土蔵の中に積み上げてあるいくつもの箱の中